Königin-Kandidatin

たんぜべ なた。

プロローグ

第1話 夜明け

 ここは魔王城のどん詰まり…そう、魔王の寝室だ。

 正面に居るのは、魔王本人と魔王のきさき、そして彼らの一人娘。


 オレたち魔王討伐隊は、いよいよ魔王たちを追い詰めることに成功したはずだった。

 しかし、眼前の三人には傷はおろか、着衣の汚れすら見当たらない。

 オレたちとヤツラを隔てる、絶対防壁による影響なのだろう。

 いかんせん、彼らも攻撃に転じることは出来ず、ズタボロのオレたちでも辛うじて彼らと対峙できているのだ。


「勇者よ、何故我々をさいなむ?

 いったい、我々は君たちに何をしたというのだ?」

 魔王は穏やかに冷静な口調で問いかけてくる。


「知れたことっ!

 侵略、侵攻を働いた貴様に死の代価を支払ってもらうためよっ!」

 言うが早いか、オレの隣りにいた若き騎士皇帝候補が防壁に飛びかかり、持っていたバスタードソードを振り下ろす。

 しかし、バスタードソードは緩やかにイナされ、騎士は地面に落とされる。


「燥ぎ過ぎだ、ギース!」

 騎士を一喝し、オレはゆっくりとメイスを取り出し、構え直す。

 オレの後方では、精霊女王が魔法の詠唱に入っている。


「改めて問う。

 勇者よ、何故我々をさいなむ?

 いったい、我々は君たちに何をしたというのだ?」

 魔王は穏やかに冷静な口調で問い続けてくる。


「さぁ~てね。

 オレにもよく分からないんだ。

 あんたらが人間の領域を侵したことで、ノーマイド連合皇国からあんたらの討伐を依頼されたんだ。」

 オレの返答に、精霊女王の魔法詠唱が滞ってしまう。


「勇者とは、片方の意見にのみ迎合するのか?

 とんだ痴れ者よな。」

 含み笑いを浮かべる魔王。


「はは、道理だな。

 では、あんたらの言い分を聞こう。」

「ちょ…勇者っ!」

 オレがメイスを脇においたタイミングで、騎士が慌ててオレのところに戻ってくる。


「話が違うじゃ…。」

「オレの裁量については、お前の親父さんからも了承をもらっているはずだが?」

「…。」

 詰め寄ってきた騎士を黙らせ、精霊女王に視線を送ると彼女も詠唱を中断した。


 魔王が絶対防壁を解いたタイミングで騎士の手から離れたバスタードソードを踏みつける。

「あぁ~!!オレの剣がぁ~~!」

「うるさいっ!!」

 騎士にゲンコツを落とし、完全に黙らせたところで、魔王へ話すように促すオレ。

 魔王は頷き、語り始めた。


「我々は、人間と魔物の共生を目指して頑張ってきた。」

 遠い視線を放つ魔王。

「小さな取引を重ねた結果、お互いの信頼関係も醸成され、交流が深まってきた頃…事件は起こった。」

 魔王の雰囲気が変わる。

「強盗を装った皇国兵が、我々の取引を妨害してきた。

 我々も武装せざるを得ず、次第に疑心暗鬼がお互いの間に広がり…。」

 深くため息をついた魔王

「今回の事態に至っている。」


 オレが騎士の方に視線を向けると、彼も当惑しているようだった。

「こちら側には、隠された真相というわけだな。」

 オレはかむりを振って笑うしかなかった。


「治め所がなくなったわけか。」

 笑い終わったオレのツブヤキに、魔王と騎士は首を縦に振った。


「まったくよぉ…。」

 そう言って、オレは自前の武器で一番の業物であるサーベルを取り出すと、おもむろに自身の右腕ききうでを切り落とす。

 居合わせた全員が戦慄する中、オレは話を続ける。


「ギースよ、この腕一本で今回の討伐を取り下げてもらえないか?」

「先生…。」

「…。」

 言葉少なに俯いてしまう騎士と精霊女王。


 オレは血の付いたサーベルをうやうやしく魔王に献上した。

「魔王よ、今回の一件について、この血を持って償わせてもらえないだろうか?」

 魔王が頷きサーベルを受け取った瞬間、魔王の娘がオレの右腕に駆け寄り、傷口にハンカチをあてがう。

「すまない。」

「…いえ。」

 魔王の娘は少し顔を赤らめて俯いている。


 ゆっくりとオレの右腕を拾い上げ立ち上がる騎士。

 王侯に対する礼を魔王に捧げ立ち去ろうとした時に、精霊女王が彼を静止する。

「今しばらくお待ちを…。」

 精霊女王は魔王の前に進み出るとカーテシーを行った後に語りかける。


「王よ、もし許されるのであれば、勇者と貴殿のお嬢様の祝言を執り行わせて下さい。」

「それは、私の伺い知ることではない。

 当事者たちに確認するがよかろう。」

 そう言って、魔王が寝室を出るところを見届けたところで、オレの意識は喪失した。

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