第28話 エンドアバイソン防衛戦 2
俺たちが待ち構えて間もなく、エンドアバイソンの群れは姿を表した。
実際に見るとさらに迫力が違った。牛よりもさらに一回り大きな巨体にぶっとい角を振りかざし突進してくる。
日本にいた頃サバンナのヌーの大群の移動をテレビで見たけどそれよりももっとすごい。大地が揺れている。
「200頭って聞いたとき多いと思ったけど、まだこの数で良かったな。一万頭いたりしたら絶対防げなかった」
「――――」
こんなときでもジャックはビビらず平常だった。使い魔だからなのだろうが、たのもしい。
俺とジャックはトレント防衛線の前に出て、エンドアバイソンにも見えるよう立っている。マナ量の多いやつがいるほうが
バイソンの方も俺にすぐに気づいたのか、興奮したように唸り声を上げる。
ますますスピードを上げてこちらに向かって突進してきた。
よしよし、いい感じのスピードが出てる。
もうちょい……
あとちょっと……。
今だ!
「よーし、今だウサ、夜釣!」
『『了解』』
パーティーメンバーは遠くに離れていても会話できる特典がある。俺の合図でウサが地下に掘っていた穴へ、夜釣が《置いてけ堀》の池を作る。池はすぐに周囲の砂を飲み込み泥沼へと変わった。
先頭を走っていたエンドアバイソンが、突然前に現れた泥沼のぬかるみに足を取られ転倒した。後続のバイソンたちが次々と巻き込まれ群れは大きく列を崩す。
「かかった! スキル《枯れ木に花を咲かせましょう》発動!」
俺はあらかじめこの周囲に灰と一緒に埋めておいたナツメヤシの実にスキルを発動し、一気にナツメヤシを生やす。全部で200本あるナツメヤシはエンドアバイソンの左右両側を挟み込んで成長した。
「ブモ、ブモオオオオオオオ!」
突然左右の逃げ場がなくなってエンドアバイソンは混乱する。しゃにむに前へと突っ込んできた。
「よっしゃ! いけ
「――――!」
しゃべることはできないものの、トレントたちが腕を振り上げ気合を発しているのがわかる。
ザスン、ザスンと砂を巻き上げて、トレントたちがエンドアバイソンへと襲いかかった。
「ブモオオオオオオ!」
「――――――――」
トレント100体がエンドアバイソンの突撃をガッチリと受け止める。さすがの耐久力だ。
これでエンドアバイソン最大の武器である突撃が止まった。
「今だ! みんな攻撃開始! ジャックも行け!」
トレントが抑え込んでくれている間に、まずジャックが群れへと突撃する。さらに離れたところからパーティーメンバーがバイソンたちを攻撃する。みぞれが氷雪魔法で、燕も鈴芽も覚えたての魔法で、ウサや戦士班が穴から半身だけ出して弓で、それぞれ攻撃する。
「
「
「
魔法の攻撃を浴び、エンドアバイソンがますます混乱する。その隙にジャックが次々と首を狩っていった。
「――――――!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!
「ブモッ、ブモオオ!」
「すっげえ。キン◯ダムの騰みたいなことしてる……」
大鎌を縦回転させエンドアバイソンをなで斬りにしていくジャック。バイソンの太い首が次々と飛ばされていった。
……エンドアバイソンの首、骨だけでも俺の胴体ぐらいあるんだが。
ジャックの大鎌切れ味良すぎだろ!
こんな数のモンスターを相手にするのは初めてなので心配していたが、まったく問題ないみたいだ。
「おっと、包囲を抜けたやつが出てきたな。……どっ、せい!」
エンドアバイソンはタフで頑丈なモンスターだ。これだけの攻撃を食らっても倒れず、中には包囲を抜け出すやつもいる。そこは俺が黄金臼の杵で倒していった。
他にも取りこぼしは畑の使い魔植物モンスターたちが捉えてくれている。お化けカボチャやキラートマト、マッドオニオンといった植物モンスターが、ツルで絡め取りかじりついていた。
ただ、なんとか倒せているものの、エンドアバイソンはさすがに強いモンスターだった。
お化けカボチャのツルも一匹だけだと平気で引きちぎっている。あのツル、かなり頑丈なはずなんだが……。
今は4匹のお化けカボチャで囲んでようやく動きを止めていた。そこへ他の植物モンスターがよってたかってかじりついて、ようやく一頭倒せる。
戦力差があるからできる戦い方だ。
「なんとかこのまま、持つといいんだが」
◆◆◆◆
1時間後、エンドアバイソンはかなり倒し、残り40頭まできていた。
だが、俺たちも限界だった。
「はあ、はあ……」
「エンドアバイソン、頑丈すぎるよ……」
トレントに攻撃させて、魔法や弓もしこたま撃ち込んでいるってのにエンドアバイソンはなかなか倒れなかった。
すでにトレントたちはバイソンの攻撃で何十体もやられ、元畑が主戦場になっている。植物モンスターのツルで動きを止め、戦闘班の弓や俺の杵でなんとか一体づつ倒していた。
正直きつい、なにがきついって主力のジャックが戦えなくなってしまったことだ。
あれだけ切れ味の良かったジャックの大鎌が、ボロボロだった。無理もない。ジャックだけで100頭以上倒してくれている。
マナを補給してやればすぐに回復するんだが、困ったことに俺のマナはもうほとんど残っていない。ナツメヤシのトレント化100体+畑の野菜使い魔化+200本のナツメヤシ成長促進でかなりのマナを使ってしまった。ほぼすっからかんだ。
ジャックは今、空中を漂いながら残ったバイソンの牽制をしてくれている。ジャックには大鎌だけじゃなく、《ウィル・オー・ウィスプ》という青い炎を吐き出す技もあるんだが、これもマナ不足で使えない。
マナ切れは俺だけじゃない。パーティーメンバーはみんなマナ切れだ。
もちろん疲労も限界に来ている。俺も杵をやっとのことで持ち上げていた。
「はあ、はあ。くそ、このままだとまずいな」
敵のエンドアバイソンもだいぶボロボロなのだ。それでも、倒れない。まちがいなくHPは半分を切ってるんだが、元気いっぱいに突撃してくる。
残ったトレントと、植物モンスターでどこまでやれるか……。
その時、マナ切れでへばっていた鈴芽が立ち上がった。なぜか、にかっと笑っている。
「ああーもう、後でちゃんと試してから使おうと思ってたんだけど。ねえ天道くん、エンドアバイソンもうかなりボロボロだよね」
「あ? ああ、だが決定打が……」
「お肉も、もう十分なくらいあるよね。じゃああのバイソン、
「はあ? なに言って――」
俺が止めるより早く鈴芽は穴から出ると、なんとエンドアバイソンの方へ向かっていった。
「ばっ、鈴芽危ないぞっ!」
案の定近くにいたエンドアバイソンが鈴芽に気づき、土を蹴って突撃してくる。
「鈴芽ーーっ!」
「ごめんね、新しいスキル試してみたいの! スキル発動、《大きな
鈴芽が叫ぶと、目の前に光が湧き巨大な
「ブモ!? ブモオオオオッ!!?」
エンドアバイソンを飲み込んだ葛籠は、蓋を閉じて中に閉じ込めてしまった。内部でしばらく暴れている様子があったが、やがて大人しくなる。
鈴芽がうれしそうにはしゃいだ。
「やったー! 捕まえたー!」
「な、なにしたんだ鈴芽?」
わけがわからず俺は尋ねる。他のみんなもポカーンとしていた。
鈴芽がえっへんと大きな胸を張って答える。
「ふっふー、今日のサンドラプトルを倒してレベルが10に上った時に、新しいスキルが手に入ったの。《大きな葛籠と小さな葛籠》。弱ったモンスターを葛籠で捕まえることができて、大きな葛籠は捕まえたモンスターをていむ? っていうのして仲間にしてくれるんだって。小さな葛籠は捕まえたモンスターがお宝とかアイテムに変わるの。モンスターが弱ってないと捕まえられないんだけど、すっごい便利なスキルじゃない?」
「…………」
す、すげえ……。鈴芽そんなスキル手に入れてたなら早く教えてくれよ。だからっていきなり一人で行くのは危ないだろ。
いろいろ言いたいことはあったが、戦いで疲れていた俺は一番アホなことを言ってしまった。
「……モン◯ターボールじゃねえか」
「あはは、だよね〜、私も思った!」
キラキラと楽しそうな笑顔で笑う鈴芽。まったく、激戦の最中だってのに鈴芽は変わらないな。
「それじゃあ私、残りのバイソンちゃんたち捕まえてくるね〜。なんか大きな葛籠は100匹くらい入るんだって!」
「あ、おいおい一人で行くなって。俺も手伝うよ」
その後、鈴芽は次々とエンドアバイソンを《大きな葛籠》に捕まえていった。
やれやれ、頑丈で苦戦したエンドアバイソンだが、まさかこんな使い道があるとは。鈴芽がエンドアバイソンを捕まえていくのを見て、他のみんなはほっと安心したみたいに座り込んでいった。
どうなるかと思った戦いだったが、俺たちは無事勝利した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます