第25話 レベル上げと魔法
ハロウィン国が本格始動した。追放者村も名前を改め今日からはハロウィン国ハロウィン村だ。
まずは村周辺の開墾、農作業をこれまで通り進めていく。国として
ちなみに俺は砂漠に灰をまいておくだけで開墾作業には参加していない。空いてる時間をレベル上げと魔法の取得に費やしているからだ。
燕いわく、
『国家の一番大事な仕事は安全保障。次が食料の確保。畑作業は村人に任せられるんだから、あんたはとにかくレベルを上げて、もっともっと強くなりなさい』
とのことだった。
それで俺は昼間、ジャックとともに周辺のモンスター狩りをやっている。
「ジャック、来たぞ!」
「――――」
前からサンダーオリックス5頭、鋼鉄サソリ5匹が襲いかかってくる。
サンダーオリックスは2本の長い角が生えた鹿型モンスターで、毒はないが角から電撃を飛ばしてくる厄介なモンスターだ。
「サソリは任せろ。ジャックはオリックスを!」
「――――」
ジャックが指示に従い高速でサンダーオリックスのもとへと向かう。俺はこちらに向かってくる鋼鉄サソリと対峙したまま、スキルを発動した。
「《
空中に臼と杵が浮かび上がる。先頭にいた鋼鉄サソリの身体に臼がそのまま落下した。これは鋼鉄サソリもさすがに耐えられないらしく、悶絶して動きが止まる。
そこをすかさず杵で追撃した。
「どおっせい!」
杵は鋼鉄サソリの甲殻をやすやすと破壊した。頭をひしゃげた鋼鉄サソリが動かなくなる。俺は続けざま右に寄ってきた別の鋼鉄サソリを杵で殴り飛ばした。
「よっ、と」
鋼鉄サソリがはるか10メートルほども彼方に吹っ飛んでいく。いい飛び具合だ。ステータスが見れないので詳しくはわからないが、俺の筋力も素早さもだいぶ上がっているらしい。
レベル上げをしている中で、俺は新たな戦闘法を習得した。
スキル《黄金臼》だが、物を生み出せるだけじゃなくそのまま武器になるのだ。しかも結構強い。
黄金臼はスキルなので俺の任意のタイミングでいつでもどこでも発動できる。なので、こうして攻撃してくる敵モンスターの上に臼を発生させて動きを止めた後、杵でさらにぶっ叩くなんて戦法も可能なのだ。
臼は、普通60キロ〜100キロの重量があるらしい。これを相手の身体にいきなりぶつけるわけだから相当効く。
エンドア砂漠のモンスターは強力なので臼だけで倒せることはなかったが、ウサいわく「普通の下級モンスターなら臼をぶつけるだけで即死すると思うよ」とのことだった。
ただ、さすがに「モンスターとの戦闘に使った臼から出た米を食いたくない」というもっともな意見が燕から出たので、最初に作ったナツメヤシの黄金臼は米専用とすることにし、新しく戦闘用の黄金臼を作ることにした。
使った材料はアカシアだ。サバンナとかの写真でよく砂漠にぽつんと生えているあれだ。村の近くに生えていたのをスキルで臼に変えた。
このアカシア黄金臼、ナツメヤシ黄金薄より頑丈で強力だった。
まず、たいていのモンスターに大ダメージを与えられる。蛇やジャッカルはもちろん、村の近辺に出る敵では一番硬い鋼鉄サソリの甲殻も平気でぶち抜く。鋼鉄サソリは名前通り鋼鉄並に硬いって話だから、鉄板も軽く破壊できる力ってことだ。
……レベルが上ってからますます人間離れしてき気がするぜ。
残りのサソリもサクッと片付けて、俺はジャックのもとへ行く。
「ジャック大丈夫か? ……って心配なかったな」
ジャックもまたサンダーオリックスをすべて倒しふよふよと浮いていた。特にダメージも受けていない。
オリックスたちはみんな首を一刀のもと狩られている。このモンスターの肉は毒もなくおいしいらしいので、死体に損傷がなくてよかった。
鋼鉄サソリは食べれないので、ジャックに魔石だけ取り出してもらう。
取った獲物を一度村に持っていき、俺はすぐまた砂漠に出かける。
「さー、まだまだ狩って狩って狩りまくるぞ!」
「――――」
ジャックが応援するように頷いた。
◆◆◆◆
夜は魔法の勉強だ。
魔法については元村長のカヅノさんが詳しく知っていた。本来獣人は魔法があまり得意ではないそうだけど、カヅノさんのシカ族は例外的に魔法の得意な種族だった。角が魔法杖の代わりをするらしい。
だからカヅノさんがもし戦うときは、角から魔法を発射するんだとか。かっこいい。
カヅノさんのテントで、俺、鈴芽、燕の3人は魔法の話を聞く。ウサたちはすでに基本的な魔法は習っているそうで、ここにはいない。
カヅノさんは元々村で子どもたちの教師もしていたらしく、教えるのが上手だった。
「この世界の魔法は、すべて神話や伝説を元にしております」
カヅノさんは魔法の基本から話し始めてくれる。
「例えば火属性の魔法は火の神バーン様の神話を読み、その物語をしっかりと頭にイメージすることで習得することができます。
呪文も、『火の神バーンよ、かつて闇の眷属をその炎で打ち払ったように、我にその力を貸し敵を燃やし尽くせ、フレイムランス』と言ったように神話の一部を詠唱するようものとなっています。
神話や伝説を口にすることによって使いたい魔法を司る神とのつながりを持ち、また魔法のイメージをより確かなものにするわけです」
「なるほど。なんで一般魔法と
「はい。人は幼いときより親しんだ物語がやがて魂に核をなし、魔法を発動する基礎となります。これはたんに何度も同じ神話や物語を読めばいいというものではありません。
人の魂はそれぞれの形があり、しっくり合う物語もそれぞれ違うのです。
ですから人は生まれながらに魔法の得意不得意があり、我らはそれを属性と呼んでいます。例えば火の神バーンの神話が好きだった者の多くは火の魔法が得意となり、火属性と呼ばれるようになるのです。
ですが他の属性がまったく使えないというわけではありません。特にこの世界の人間は幼少期から全ての神話に触れていますから、大抵の者が全属性の基礎魔法くらいは使えます。しかしその後下級、中級と成長していけるかは属性の才能が必要です」
「基礎魔法?」
「はい。一般魔法は大きく4つの段階に分けられます。
火属性魔法でしたら、
基礎魔法
・
下級魔法
・
中級魔法
・
上級魔法
・
と言った具合です。上の魔法ほど威力が高くなりますがマナ消費も大きく、また詠唱も多くの神話を語らなければならないので長くなります。
逆に基礎魔法のファイアボールは威力は低いものの、子供でも習得でき、慣れれば無詠唱でも発動できるので使い勝手が良いです。
ほとんどの者が各属性の基礎魔法は習得できるので、基礎と呼ばれています」
「じゃあ、俺たちも学べば基礎魔法くらいは使えるのか?」
「はい。きっと使えますよ。右左さんや夜釣さんも一週間ほどでファイアボールを覚えました。みぞれさんは、ナラティブのおおかげで学ばずとも氷雪魔法が使えたのですが、かわりに火属性魔法を発動することができませんでした」
「よーし、さっそく魔法を覚えるぞ!」
異世界と言えば魔法だもんな。俺でも魔法が使えるかもと思うとワクワクする。
それに魔法が使えれば、遠距離からモンスターと戦える。黄金臼で戦えるようになったとは言え、まだジャックに頼っているところがあるからな。
と、興奮していた俺の前にカヅノさんがドサッと分厚い本を置いた。
「……なにこれ?」
「この世界の神話集です。この本は素晴らしく、一冊に火、水、風、土、光、闇の各属性神の神話がまとめられているんです。まずはこれを全部読んでください」
「……これを……ゼンブ?」
「はい。まずはこれを読まないと魔法の練習も始められません。一言一句暗記する必要はないですが。各神の有名なエピソードはすべて頭に入れておいてください。さもないと魔法がまったく発動しませんよ」
本は分厚い。普通に単行本2冊分くらいある。
思わず俺は鈴芽と顔を見合わせた。
「……私、国語得意じゃないんだけど」
「俺もだよ」
「二人共、さっさと読み始めなさい」
燕はさっさと一人本を開いてページをめくっていた。
マジかよ! この厚さにたじろがないって正気か?
「ノーーーー! こっちの世界に来ても勉強かよ!」
「わーーん! せっかく宿題のない世界に来たのに!」
「…………」
俺と鈴芽が嘆く中、燕だけは淡々と本を読みふけっていた。
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