能力『花咲かじいさん』で無双する 〜『枯れ木に花を咲かせるだけ』とゴミスキル扱いされた俺の能力、実は栽培系最強のEXランクでした。追放された者たちで砂漠に最強国家を作ります〜

氷染 火花

第一章 追放、生き残り編

第1話 異世界召喚、即追放

『枯れ木に花を咲かせるスキルだとぉ!? 何という役立たずスキルだ! 貴様のようなゴミなど奴隷にするのも不愉快、今すぐ追放だ!!!』



 王様から言われた言葉が頭の中をリフレインする。


「召喚、ゴミスキル、無能扱い、追放……ハハ、テンプレ全部盛りだな」


 俺――、花咲 天道はなさか てんどうは、無理やり押し込まれた馬車の中でうずくまっていた。馬車は一応屋根付きの上等なものだったが、だからなんだっていうんだ。向かう先が何もない砂漠ってんだから絶望しか無い。


 馬車には俺の他に二人、女の子が乗っている。こんな状況で何だが、どちらも超のつく美少女だった。


 片方は名前も知っている。金髪のギャルっぽいほうが九十九 鈴芽つづら すずめ。俺の同級生で、クラスで一番、いや学年で一番とも称される美少女だ。かわいいだけじゃなくて運動もできて確かダンス部の部長だったはず。俺みたいなモブ高校生と違って明るく友達の多い人気者。だけど今はさすがに暗い顔で膝を抱えている。

 

 もう一人は……こっちは知らない。腰まで届く長い黒髪が特徴的な、ツンと澄ました美少女だった。制服を着ているから多分俺らと同じくらいの年だと思うが、オーラが違う。ただ美しいってだけじゃない。芸能人みたいな人の目を引きつける力がある。


 いや、芸能人なんて生で見たこと無いけどな。


 クール美少女の方は九十九つづらさんほど落ち込んではないようだった。といって希望を持っているわけでもない。ただ淡々と、なにを考えているかわからない無表情で窓の外を見つめている。


 息の詰まるような空間だった。追放されているのだから無理もない。しかも行き先は「廃棄エンドア砂漠」。世界中のゴミがまとめて捨てられる廃棄場だという。


 俺たちは、持ってるスキルが使えないからというそれだけの理由で捨てられるのだ。勝手に日本から召喚しておいて、あんまりだ。


 黙って馬車の揺れに身を委ねていると、九十九つづらさんが話しかけてきた。


「えっと……遅くなったけど、お城で助けてくれてありがとうね、花咲はなさかくん」


「あ、ああ。いや、俺こそ悪かった。一緒に追放になっちまって……」


「ううん。あのままじゃ私奴隷にされちゃうところだったから良かったよ。それにクラスの誰も助けてくれなかったのに、花咲くんだけが王様に反論してくれたでしょ。嬉しかった」


 そう言って九十九さんは笑う。無理しているのがまるわかりな笑顔だけど、それでも彼女はやっぱり魅力的だった。だからこそ首に刻まれた呪紋が痛々しい。俺にも、クール美少女にも同じ呪紋が刻まれている。


 この呪紋は異世界の連中が俺たちに施した首枷だ。呪いをかけた者の意思次第で苦痛を与えたり「マナ」の操作を止めたりできる。つまりこの呪紋がある限り召喚者は異世界の連中に逆らったり抵抗したりできないってわけだ。


 追放されている俺たちは今「マナ」の操作を無効にされているらしく、魔法も使えないし俺たちの身体に宿る《ナラティブ》を発動することもできない。チートもない、スキルもない、完全にただの高校生。凶悪なモンスターのいるこの異世界で生きていくのは厳しい状態だ。


◆◆◆◆


 一時間目の授業中に急に白い光に包まれて、俺のクラスは全員が異世界に召喚された。マンガやアニメで見るには大好きなシチュエーションだったけど、自分が当事者になると最悪だった。


 召喚された俺達はまず有無を言わさず呪紋を刻まれた。


 混乱する俺たちへ王様らしい人から、この世界でモンスターと戦うための勇者を欲して召喚したと説明された。呪紋もあるし周りには剣を構えた兵士たちがいて、逆らうことなんてできなかった。


 それから俺たちは流れ作業のように能力の鑑定を受けた。詳しい説明もないままおそらくランクやスキルによって選別された俺たちは、3/4の「使える組」と1/4の「使えない組」に分けられた。


「『使えない組』がこれだけいたか。今回の召喚は外れだな」


「『使えない組』はいつも通り奴隷に落とすということでいいですかな? 幾人か見目麗しいものもいるようですし、それなりの役に立つでしょう」


「ふん、たしかにあの女などはまあまあの容姿だな。召喚者の奴隷など掃いて捨てるほどいるのだから、適当に使い潰せばよいだろう」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


 九十九さんたちへ物を見るような目線を向ける王様に、同じ使えない組だった俺は食って掛かった。


「いくらなんでもメチャクチャだろ! 勝手に日本から召喚しておいて奴隷ってふざけんなよ!」


「……あの者はなんだ?」


「は、《花咲かじいさん》というナラティブですな。スキルを見ましたが典型的な支援サポートタイプ。しかもランクはEX規格外。Fランク以下のナラティブがあったとは私も始めて知りました。しかも……ククッ、笑ってしまうのですがこいつのスキルが《枯れ木に花を咲かせましょう》というもので……」


「枯れ木に花を咲かせるスキルだとぉ!?」


 王様は勢いよく立ち上がると、顔を真っ赤にして怒り出す。


「何という役立たずスキルだ! 貴様のようなゴミなど奴隷にするのも不愉快、今すぐ追放だ!!!」


「ま、待ってよ! 彼は私達のために怒ってくれただけで……」

 

 そこで九十九さんが間に入ってくれたが、王様はますます激高するばかりだった。

 

「やかましい! かばいだてするならそこの女も追放だ! 貴様らなどいくらでも召喚できるのだ、役立たずのゴミはいらん! ゴミはゴミらしく砂漠で朽ち果てるがいい!」


「そんな、九十九さんは関係ないだろ! 追放するなら俺だけにしろよ!」


「やかましいやかましい! とっとと廃棄馬車へ載せろ。早急にこいつらを儂の前からつまみ出せ」


 王様の命令に兵士も有無を言わさず俺と九十九さんを引っ立てた。他のクラスメイトたちは大半がとばっちりを避けるように目をそらしたりで助けてはくれなかった。


 いや、呪紋で逆らうことはできないし、助ければ俺たちと同じように追放されるかもしれないんだ。あいつらの態度は当然だろう。



◆◆◆◆



 ほんの半日前の出来事を思い出し、憂鬱になる。こうして俺と九十九さんは無理やり馬車に放り込まれ、ドナドナされることになった。行き先は市場じゃなく世界のゴミ捨て場だが。



 俺はそっと同乗者のクール美少女の方を見る。彼女だけは俺のクラスメイトじゃない。俺と九十九さんが馬車に乗せられたとき、すでに乗っていたのだ。俺たちと同じ呪紋をしてるところから追放者ではあるんだろうけど。


 それに、あの顔どこかで見た覚えがあるんだよな……。

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