第14話 ミライの部屋

「ここがミライの部屋か。思ったよりお嬢様らしいな。かわいいじゃないか」


「亡くなった母の趣味です。私はもう少しすっきりとした部屋がいいのですが……」


 レースをふんだんに使い、ピンクや白などの明るい色でまとめられた少女趣味の部屋。ミライが十歳の時に亡くなった母の趣味だった。あれから八年経っているが、いまだにクマやウサギのぬいぐるみが置いてあってむず痒い。


「なるほど、新居のミライの部屋の参考にしよう」


 ファハドが繋いだ手に軽く力を込める。部屋を覗かれるのが恥ずかしい。彼から手を離し、持ち出すための荷物をまとめはじめた。


「どんな部屋になるのか、楽しみにしておきます。申し訳ありませんが荷物をまとめますので手を離しますね」


 ミライはすたすたと部屋の中を歩き、まずはジュエリーボックスに手を伸ばした。先日持ち出した貴金属の残りや、気に入った装飾品が入っている。それ以外には大事にしていた本や、仕事で使う書類などを手に取る。


「ミライ、クローゼットのドレスや靴は持ち出さないのか?」


 ファハドが首を傾げた。クローゼットのドレスは主に仕方なく参加していたパーティーなどで着たものだ。機能性も良くない。もちろんいい思い出もない。その上場所を取るわりに金銭的な価値が低いので持ち出すつもりはなかった。


「ええ、もう必要ありませんから置いていくつもりです」


「そうか。ではミライ。これだけ持っていってはくれないか?」


 ミライは「これ、ですか?」とファハドが手に取ったドレスを指さした。


 アミルが結婚したと聞いてから初めて参加したパーティーで着たドレスだ。彼を失いヤケになって、いつもは選ばないような、肩丸出しの真っ赤なドレスを着ることにしたのだった。パーティーそのものも変わった趣向で、すぐに抜け出した記憶がある。ミライにとっては、ここ最近の最悪な思い出のひとつだ。


 しかしどんなに嫌な顔をしても、ファハドはドレスを手放さなかった。 


「これがいい。頼む、ミライ」


「承知いたしました」


 ミライは息を吐き、仕方なく赤いドレスを手に取って鞄に詰めた。他の荷物をまとめたところで部屋のドアをノックする音が聞こえる。


「失礼いたします。ミライお嬢様、旦那様がお呼びです。書斎へお越しください。殿下は応接室へご案内いたします」


 ドアを開けると待っていたミゲルが深々と頭を下げた。ファハドの従者に荷物を任せ、ミゲルと一緒に応接室へ向かった彼と別れる。ミライはひとり、男爵が待つ書斎を訪ねた。


>>続く

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