第5話 パーティーには不思議がいっぱい
一ヶ月後。ミライはとある貴族が主催するパーティーに出席していた。
ここで相応しい結婚相手を見つけて来いという父の圧力があったからだ。
愛する人を失い自暴自棄になっていたミライは、彼の言うままに、すでにいくつかのパーティーに参加していた。
結婚になんて興味はない。参加するだけで男性たちの誘いものらりくらりとかわし、今日もどこかで時間を潰していよう。二階にテラスがあったはずだと、人目につかないよう足早に大広間の階段を目指した。
「お嬢様、いいお相手は見つからなかったのですか?」
「あなたは……?」
階段を登ろうと手すりに手をかけたとき、ふいに呼び止められる。声が聞こえた方向に顔を向けると、男がひとり立っていた。派手すぎはしないが正装をしており、パーティーの参加者のようだ。
「私はピエール・アブジョダ。伯爵家の者です。お嬢様、これを受け取ってくれますか?」
ピエールと名乗った男は白い封筒を差し出した。少々線が細く小柄だが、彼は切れ長の目が特徴の涼しげで美しい顔立ちをしていた。黒い後ろ髪を長く伸ばし三つ編みでまとめている。そしてまるで経験豊富な執事のように身のこなしが丁寧だった。落ち着いた、艶のある声がよく似合っており、独特の色香が漂う。
アブジョダ伯爵家はマクトゥル伯爵家と同じ派閥に所属している。何度か夜会に参加したことがあったが、彼を見たことはなかった。
「失礼しました、お嬢様。実は私はアブジョダ家の三男でして。何年も前から他家で勤めております」
どうやら彼を怪しんでいることが筒抜けだったようでピエールが苦笑する。ミライは驚きをごまかすため「なるほど」と相槌を打って封筒を受け取った。
「お受け取りいただき、ありがとうございます。中を読んで気に入らなければ破り捨ててくださって構いません」
「あの、アブジョダ様。中身は一体なんでしょうか?」
その問いかけに、ピエールは「ご案内でございます」と言って微笑した。
「色良い返事を期待しております、ミライ様。それでは……」
「え、ちょっとアブジョダ様?」
ピエール・アブジョダは深々とお辞儀をして、まるで幻のように人ごみに溶け込み、消えていった。その場に取り残されたミライは、彼の意図がわからないまま首を捻る。答えはこの封筒の中にある気がする。ゆっくり読むべくテラスを目指した。
「ドレス姿で階段登るのって、結構キツイのよね」
少し息を乱しながら階段を登り終え、人気のない廊下を歩き出す。すると突然大きな声とともに近くの部屋のドアが開いた。
「黙れこの変態男! 誰がお前なんかと結婚するものか!」
「ああ、なんと力強い
部屋からは先にドレス姿の女性が出てきた。彼女は室内に向かって怒鳴り声をあげている。おそらくパーティーの参加者だろう。その後ろを同じくパーティー参加者と思われる着飾った男性が、うっとりとした表情で追いかける。それは不思議な光景だった。
「ひいいい! 気持ち悪い! 薄気味悪い顔をこちらに向けるなっ!!」
「おぐうっ!!」
女性は追いかけてきた男性をハイキックで撃退した。男性はうめき声ののち、その場に倒れ込む。それにしても見事に鍛え抜かれた脚。長身に広めの肩幅。その姿に、ミライは見覚えがあった。
「もしかして、ビアンカ?」
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