かりそめの女主人は、ハレムで女子会を楽しみたい

松浦どれみ

第一章 王子、買います!

第1話 かりそめの結婚式

 王宮に内蔵されている寺院テンペル。すでに夫となる男は婚礼衣装に身を包み、たたずんでいた。


 ミライは友人たちと繋いだ手に意識を集中させた。彼女たちと目配せをして頷き、結婚相手に向かって一歩一歩と歩みを進めた。


「これより、ファハド・アル・シャラマンとミライ・マクトゥル、ビアンカ・リバティ、アイシャ・メルーリ、エリザベス・ドワイリの結婚式を執り行う」


 急遽きゅうきょ呼び出された寺院の責任者が宣言し、ミライたちの結婚式は始まった。始まってしまった。いや、始めてしまったと言うのが正しいのかもしれない。


 夫となる男、ファハドが新婦たちを見て目を細めた。本来なら花嫁が主役と言われている結婚式。彼はまるで自分が主役と言わんばかりに口角を上げた。


 ミライにはその姿がずいぶんと傲慢ごうまんに見えた。自分たちに金で買われたというのに、その余裕はなんなんだ。そう言いたいのをなんとか飲み込み、ミライは「結婚契約書」にサインした。


「それでは、新郎は結婚指輪を新婦たちに」

「はい。さあ、手を出すんだ。我が愛しの至宝よ」


 ファハドは四つある新婦用の指輪を一つ手に取り、ミライの手を取った。そして自信たっぷりに笑みを深める。艶やかな黒髪、漆黒の瞳、鼻筋が通り唇はやや厚く形もいい。精悍せいかんかつ美しい顔立ち。褐色の肌は大きくたくましい肉体を引き立てている。


 欲しいものは全て手にしてきた。彼は全身でそう言っているように見えて、一番欲しかったものを手にできなかったミライは悔しいような羨ましいような、複雑な感情に支配されていた——。

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