転生馬鹿息子系悪役は主人公達を倒したい~世間的には邪道と言われているやり方だろうが関係ないねぇ!~

甘党からし

序章

目覚め

 あ、俺って悪役だわ。

 

 そのことに気がついたのはほんの些細なことが切欠だった。

 朝起きて、ベッドから出て顔を洗う。それだけで俺はここがファンタジーライトノベルの世界だと気がついた。


 そして俺は呟く。この世界における俺の名前を。


「アサヒ……」


 そう、アサヒ。正確に言うのであれば、産神うぶがみアサヒ。

 悪役というには妙に明るい名前をしているが、残念しっかり悪役である。


 それも所謂噛ませ犬と呼ばれるタイプの悪役だ。


 とにかく弱く、卑怯で姑息で、親の傘を被っていて鬱陶しい。

 読者からのヘイトを一身に受け、主人公にボコられることで読者をスッキリさせる役割を与えられた悲しき存在。


 当然登場人物からも、特に主人公のハーレム要因のヒロインズからは蛇蝎の如く嫌われまくる。

 罵声を受けるならまだマシな方で、酷い時には存在そのものを無視されることだってあった。

 何とか家族から気にかけて貰えていた程度だったが、最終的にはそれも無くなる。


 そして最期は悲惨そのもの。主人公の登場を皮切りに全てを失ったと勝手な思い込みを拗らせ、それを黒幕に利用されて傀儡化、最終的には殺される。

 しかも黒幕的には戯れ兼実験台といった扱いしかされず、間抜けな散り際を冷笑される始末。


 それが、俺の辿る末路だ。


「最っ悪だ――――」


 重い、まるで鉛のように重い溜め息が口から零れる。

 だがしかし、それは転生したことによるものではなかった。

 

 ただ死にたくないというだけならば回避する方法はある。

 シンプルに原作に関わらなければ良い。

 主人公達と交わらない、全く別の世界に行けば全く問題無い。


 しかしそれはできない。

 そのことを、他ならぬ俺自身が拒否しているからだ。


 それは恐らく転生した先の問題だろう。

 原作に登場していたアサヒは一体どこから出てくるのかという位にプライドの高い傲慢な少年だった。


 その傲慢さが細胞にまで染み渡っているのか、一体どうしてこの俺が主人公なんぞから逃げなければならないのか、なんて感情が心の奥底から湧き上がっているのだ。

 

 そしてその思考に対する抵抗が抑制されているのを感じる。

 人が呼吸を止め続けることに限界があるように、瞬きを我慢することがほぼ不可能なように。

 そのプライドの沸騰を止めることが俺にはできなかった。


 だから最悪なのだ。

 知っているにも関わらず、死地に飛び込むことを決めているのだから。


「…………しょうがないか」


 もう諦めよう。

 この考えに至るまでには十分とかからなかった。

 キャラ設定からは逃れられなかったらしい。


 とにもかくにも悪役でいることを避けなければならない。


 いや、違う。

 悪役であること自体は構わない。

 肝要なのは強くあることだ。


 主人公の噛ませ犬なんかにはならない、常に奴を踏みつぶせるくらいの実力を身に着けていれば全く問題ない。


 ああ、早速キャラ設定が邪魔をしてきている。

 根拠の無い自信。この身体でその実力とやらを身に着けることがどれだけ難しいか、俺がしっかりと理解しているはずなのに。


「いや、一つだけあるか?」


 ふと思い立った。

 そして、それ以外には思いつかなかった。


 しかしそれはこの世界における正道からは外れた、邪道と呼ばれし方法。


 だが迷いは無かった。


「やってみるか……」


 この際どんな手段でも良い。

 強くなりさえすれば、この運命からは抜けられる。

 今はそれだけが俺の希望になっていた。

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