第8話 一緒に朝ご飯食べたい
「一人より二人なら沢山作れるしサクが手伝ってくれると助かるなあ?」
「……しょうがないな、手伝ってやる」
「ふふふ、ありがとう」
その様子にメルがにまにましていた。
「
「えへへ、そう?」
「……」
仲良く見えるの嬉しい。けど私とは対照的にサクはぶすっとしていた。
「サク?」
「……」
「へえ可愛い~! 一丁前なのね!」
「んー?」
「……」
メルの言葉にふいっと顔を背けた。なんだろ?
「さ、クラス。そろそろ干しにいこ。混んできちゃうし」
「そうだね」
サク、いこ? と手を差し出したけど無視される。視線も逸らしちゃって。
ということで、少し強引だけどその手をとって連れていく。おい、と言われはしたけど手を離すとか嫌がる素振りはなかった。
「洗濯物の干し方のコツはね~」
「……」
干すとこまで念入りに見てくるから、洗濯物の干し方を伝授した。普段こういう部分とは無縁だろうから新鮮なのかな。
「サクは朝御飯どうするの?」
「……」
「陛下と会食?」
「今日は昼だけだ」
「じゃ朝どうするの?」
「……」
洗濯物を干し終えて厨に向かう。黙るサクに私を間に挟んだ反対側からメルが意気揚々と拳を握った。
「クラスと食べたいんでしょ!」
「!」
「え?」
真っ直ぐ歩く先を見ていた目が少し開く。サクったら少し動揺してるみたい。対してメルは楽しそうで、サクを完全におもちゃにしている。
「なんならお邪魔虫は退散するわよ~?」
「なっ、そんなんじゃっ」
あ、メルとお話ししてくれた。嬉しい傾向だ。
素直に言えばいいのにと笑うメルにムキになるサクの様子が微笑ましくて楽しい。できれば私を挟まないで二人並んでくれていい。それを眺めてたら幸せに和むだろうな。
「おお、お早うクラス」
「おはようございます」
厨に到着すれば忙しそうに動き回るコックたちが目に映る。コックのドゥルケがこちらを見ないまま、手に持つ調理器具で端っこの小さなかまどを指した。
「そこ、好きに使っていいぞ」
「ありがとうございます」
サクは驚いていた。コックと私を交互に見て、自分で作るのかと囁く。
「料理は得意だよ?」
公国時代だってそこまで公女らしい貴族の生活はしていなかった。治癒医療の次は農業での稼ぎが主だったから、簡単な料理も母から教えてもらったことがある。ここにきての三年ですっかり一人前になれた。城専属料理人のドゥルケが色々教えてくれたからだ。
「朝だから軽くかな?」
「そうねー」
メルと一緒に朝食を作り上げる。サクの側付アルトゥムの話をしたら届けにいくとメルが言うのでお願いすることにした。サクと私がご飯食べることも伝えてくれるらしい。本当いつもメルにはこういった気遣いに助けられてる。ごゆっくり~と満面の笑顔で去っていくメルをサクは何故か歯噛みして見届けていた。そんな苦い顔してなくてもいいのに。
「部屋で食べよ?」
「……おう」
私の部屋のテーブルに椅子を向かい合わせにして朝御飯だ。テーブル用の椅子がないからサクの部屋から持ってきてやっとそれらしくなった。
「はい」
今日は目玉焼きにいいベーコンをもらった。パンは相変わらずパサパサで一個を半分こして食べる形だけど我慢してもらおう。サクの今までの生活からは想像できないだろうな。
「……おい」
「ん?」
「お前の小さすぎるだろ」
半分こにして渡したパンに文句をつけられた。いいんだよと言うとサクは眉間に皺を寄せる。
「これから大きくなるんだから、いっぱい食べて」
「成長期という観点で見るなら、お前だって同じだろうが」
「いいの。サクは飛び切り大きくならないとね」
「だからそれは」
「ねえ、私の名前、呼んでくれないの?」
昨日からずっとお前としか呼ばれない。隣の部屋にきてくれたってことは心底嫌ってはいないと思うし仲良くなれる気がしたんだけどな。
「そ、それは」
「クラスって」
「その、」
「二人きりの時だけでいいから」
私の提案は、二人の時は名前で呼んで人目がある時は別の呼び方で、という内容だ。
「魔女でもいいし、ドゥークスでもいいし。ちなみに今は伯爵位だよ」
「……魔女呼ばわりされていいのかよ?」
眉間に皺を寄せてサクが嫌そうにしている。
しょうがないよと苦く笑うしかなかった。
「第一皇太子と皇太子妃が呼び方を決めたから、なかなか、ね?」
「……あいつらか」
嫌そうな顔をして舌打ちをする。
舌打ちは駄目だよと言っても全然聞いていない。
騎士たちも第一皇太子には逆らえない部分もあって、魔女と呼ぶ以外ないという立場でもある。最近は魔女に様つけてくれたりするし態度も軟化してきてるから充分だと思う。
「美味しくご飯食べたいからもうこの話やめよ?」
「けどお前」
「クーラース、ね?」
「……」
「ね?」
眉間の皺はそのままなのに、少しだけ顔を赤くしたから意味合いが一気に変わる。名前で呼ぶのに照れてるんだ。視線も泳いだから間違いない。
「…………クラス」
「うん」
可愛い。結局こちらを見れずに囁いた。さっきの舌打ちよりも小さい音だったんじゃないだろうか。
「夜もここで食べる」
「じゃあ作って待ってるね」
「……おう」
気まずそうにしてパンに口をつけた。
同じようにパンを頬張る。次はもっと美味しいパンを融通してもらえるかきいてみよう。
格段に美味しいものを食べられるはずの彼が敢えて私と同じものを食べてくれているのは彼なりの気遣いだ。同じ人質の身として、外から来た身として、同じ扱いでいいという意思表示だと思う。だったら私は出来る限り彼が心地よく過ごせるよう整えたい。
「そういえば」
「んー?」
「その肩に乗ってんのはなんだ?」
「ひゅっ」
「そこの犬も犬じゃないだろ」
「ひょっ」
サクの何気ない指摘に食べかけのパン詰まらせた。
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