第8話 RTAの初心者
ホットおにぎりというダンジョンRTAの初心者に、『静寂の森』の走りについて教えてくれと言われた。相手のよほどの問題がない限り、受けるつもりだ。
angel_bloodはしばらく空いていないということもある。RTAの裾野を広げたいということもある。なので、俺にとっても都合の良い話なんだよな。
もしかしたら、ホットおにぎりのおかげで新しいチャートが生まれるかもしれない。その可能性を捨てるのは、もったいない。
まあ、受けるも断るも、まずは話をしてからだ。どんな人で、どれほどの実力か。それを知らないことには始まらない。
ということで、メッセージを送っていく。
ステラブランド:できれば細かく話がしたいので、ライブ通話をお願いできますか?
ホットおにぎり:もちろんです。ステラブランドさんに教えてもらえるのなら、何でもします。
許可を得たので、すぐにフレンド申請を送ってライブ通話を始める。送られてきた映像には、女の人が写っていた。銀髪碧眼で、腰まで髪を伸ばしている。落ち着いた印象を受けるな。
というか、女の人だったのか。最近、女と出会ってばかりだな。まあ、気にしても仕方がない。RTAを走りたいなら、それに応えるだけだ。
実際のところ、俺の目標には相手の性別なんて関係ないからな。男の人と交流すれば世界記録を取れるのなら、迷わず男だけと話をするのだが。
とりあえずは、ホットおにぎりがどの程度の熱意を持っていて、どれだけ行動しているかを確かめたい。一応、走った経験はある様子だが。初心者だと言っていたし。
何も動いていなくて、どうすれば良いのかアドバイスを求めるだけの人なら、見込みはないだろう。最低でも、自分で走ってうまくいかないところを考えておいて欲しいものだ。
まずは、そのあたりのヒアリングからだな。
「はじめまして、ホットおにぎりさん。ステラブランドだ。まずは、『静寂の森』を完走したことああるかを聞きたい」
「一応、タイマーを付けて攻略するところまでは行きました。ただ、全然記録が伸びなくて」
とりあえず、最低限のラインは超えているな。まずは、自分で試してみるという。
なら、話を進めても大丈夫だろうな。俺が色々と教えた上で、結局彼女は走らないという事態は避けられそうだ。
「なるほど。それで、どのチャートで走っているんだ?」
「短剣チャートを真似しています。ステラブランドさんがいつも走っているやつですね」
ああ、それは難しいよな。最速チャートは初心者向けではない。とはいえ、いきなり否定から入るのもよろしくないだろう。そうなると、どうやって話を進めたものかな。
基本的には、初心者のうちは楽しむことが大事だ。世界記録を目指すのなら、楽しさより優先すべきことはいっぱいあるが。
ホットおにぎりは始めたばかりだから、まずは小さな達成感を味わってもらうのが理想なんだよな。ただ、すぐには良い手段が思いつかない。
まあ、ヒアリングを進めていくのが無難か。話を聞いていくうちに、何か思いつくかもしれないし。
「なるほどな。どこが難しいとか、どこができないとか、そういうのはあるか?」
「全体的に難しいです。走っていても、すぐに死んじゃうんですよね」
「念のために聞いておくが、楽しめているのか?」
「そこは大丈夫です! ステラブランドさんの真似をするだけで、すっごく楽しいですから!」
楽しんでいるようなら、何よりだ。まずは、そこから入っていくのが基本だからな。RTAを義務感だけで続けるのは、難しいどころではないだろう。
ということで、ホットおにぎりには期待できると思う。これなら、ある程度の手間をかけていい相手かもな。
「まずは、しっかり楽しむことだ。とはいえ、アドバイスが欲しいんだよな。なら、なにか動画を撮っていたりするか?」
「そうですね。私も配信をしているので、アーカイブは残っています」
「なら、一番うまく行った記録を見せてもらえるか?」
「分かりましたっ。さっそく、探してきますね!」
そう言ってホットおにぎりは作業に入っていく。しばらくして、動画が俺のところに送られてきた。
「じゃあ、一緒に見ていくか。気になった所があれば、何でも質問してくれ」
「分かりましたっ。よろしくお願いしますね!」
ということで、ホットおにぎりの走りを見ていく。まずは、短剣を装備しているな。一応、俺と同じものだ。そこは、ちゃんとしているみたいだな。
まあ、俺の短剣は扱いが難しいので、初心者にはオススメできないのだが。その辺を、どういった形で説明していくのが良いかな。まあ、まずは動画を見てからの話だ。集中していこう。
ホットおにぎりは、まず森の中を走っていく。だが、木々に妨害されて上手く走れていない。まあ、このあたりは暗記が肝だからな。慣れていないのなら、仕方のないところだ。
「ふむ。初心者なら、こんなものだよな」
「何か気になる所がありましたか? 思いついたことなら、何でも言ってください」
「そうだな。まずは歩いて状況を確認するところから始めた方が良いかもな。森を走れるのは、道を暗記してからだ」
「なるほど。考えていませんでした。とりあえず、真似をすれば良いかなって」
まあ、いきなり走り始めたのなら、考えが及んでいなくても仕方ないだろう。そのレベルの初心者が『静寂の森』を選んでくれたのは、とても嬉しい。
走りの方に再度集中していくと、今度はバイトラビットに切りかかって、胴体に攻撃を当てていた。そして、倒せずにもう一度短剣を振っていく。
まあ、初心者あるあるだよな。首を刈り取れないでタイムロスするのは。まあ、何度も繰り返せば上達する話ではある。
「ここは、首に当てられるように練習したいところだな。他の場所に当てるのとでは、タイムが大きく変わってくる」
「そうなんですね。首じゃなきゃダメなんですか?」
「ああ。弱点が首なんだよ。だから、そこに攻撃を当てるのが重要なんだ」
「分かりましたっ。次から気をつけますね」
次は空にいるカラス、ラピッドクロウの攻撃に対して、うまく逃げ切れずに追撃されている光景があった。まあ、森の走り方に慣れていないと、振り切れないからな。だから、初心者なら倒した方が早い。
結局、逃げ切れなかった段階で戦闘を始めていた。それなりに時間をかけて倒し、次へと進んでいく。
「ここで逃げきるのは、なかなか難しいんだよな。地形と敵の動き、どっちも理解していないとダメなんだ」
「なるほど。だから追いつかれてしまったんですね」
「そうなるな。まずは敵を倒してから、地形を何度も走って覚えることだな」
「分かりましたっ。そうしてみますっ」
そこから1層ボスのデスラビットまで、同じような感じで進んでいた。ハッキリ言ってしまえば、タイマーを付けた通常プレイって感じだな。でも、初心者なんだから当たり前だ。そこは問題じゃない。
ホットおにぎりは、デスラビットに向けて【電光石火】を放っていく。運良く敵の行動が噛みつきだったので、そのまま敵はのけぞっていく。ただ、追撃が遅く、倒しきれない。
そのままボスと戦っていき、それなりの時間をかけて倒す。
「【電光石火】は博打だから、完走を目指しているうちはオススメできないな」
「確かにっ。ステラブランドさんも、運だって言っていましたからね。分かりましたっ」
そこからの流れも、あまり上手とは言えない感じだった。まあ、腕からすると何度も死んでいるはずなので、根気は保証されている。
だから、ホットおにぎりに教えていくことには、かなり前向きになれた。
さあ、ここからが本番だ。どういう方針で教えていくと良いだろうな。
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