第2話 共感からの道
angel_bloodというダンジョン配信者から、一緒にSランクダンジョンを攻略してくれないかという依頼が来た。
受けるか断るかはさておき、話がしたいところだ。できれば、細かいところまで教えてもらいたい。どのダンジョンの攻略を目指しているのか、どこまで進めているのか。
今のところ、人類はSランクダンジョンの攻略には成功していない。だから、全部で何層あるのかも分かっていない。
とりあえず、ダンジョン攻略に慣れていない人間がSランクダンジョンに挑むと、ほぼ必ず心が折れるという事実がある。
兎にも角にもSランクダンジョンの攻略は難題で、不可能だという人までいるくらいだ。だからこそ、angel_bloodには少し共感できる。俺も、世界記録なんてありえないと言われながらRTAを続けてきたからな。
とはいえ、人生を懸けてくれと言われたら、きっと断る。俺の目標は、世界記録だから。ただ、手伝うくらいならば悪くないという気もする。
自己ベストは更新できたとはいえ、まだ世界5位のままだ。ここから先で世界1位になるためにも、気分転換が必要だという気はする。あるいは、新しい知見が。
行き詰まっているのは感じているんだよな。それで、今のまま進んでいて良いのか迷っている。だから、angel_bloodの提案はちょうどいいものな気がする。
ということで、メッセージに返信することにした。相手がどの程度本気なのか、知っていきたいところだ。
ステラブランド:詳しい話が聞きたいので、ライブ通話できませんか?
angel_blood:もちろんです。依頼したのは私ですから。
ステラブランド:では、フレンド登録を送りますので、そこから通話しましょう。
そして通話を始めると、視界に画面が現れた。ダンジョン由来の素材で、ホログラム的な通話も可能になったんだよな。便利なことだ。
angel_bloodの外見は、赤い髪をポニーテールにまとめたもの。動きやすそうな格好をしていて、いかにもダンジョン配信者って感じだ。活発な雰囲気だな。赤い瞳からは強い意志を感じて、共感できる。
「はじめまして、ステラブランドさん。あたしは、angel_bloodよ。あなたとは違って、ダンジョン攻略をメインにしている配信者なの」
「俺はステラブランドだ。知っていると思うが、RTA配信者だ。界隈には疎くてな。他の配信者がどんな事をしているのかは知らないんだ」
「それで、Eランクダンジョンとはいえ日本1位になれるんだもの。素晴らしい才能だと思うわ」
ずいぶんと持ち上げてくれる。まあ、相手が依頼する側なのだから、俺の機嫌を取っておきたいのだろうな。
まずは、実績がどの程度なのかを知りたい。Sランクダンジョンに挑んでいいレベルなのかが、まずは大事になってくるからな。俺は、Aランクダンジョンまでは攻略経験がある。相手はどうだろうか。
「それで、無知をさらすようで申し訳ないんだが、あなたはどの程度ダンジョンを攻略できているんだ?」
「『試練の洞窟』は知っている? そこの1層は、攻略できたの」
「Sランクダンジョンじゃないか。俺の協力なんて、必要なのか?」
個人でSランクダンジョンの1層を攻略できるのなら、相当な上澄みだぞ。むしろ、俺の方が格下かもしれないレベルで。
「分かるの。あたしは、『試練の洞窟』だからどうにかなっただけ。他のSランクダンジョンは、厳しいわ」
「それは、一体どういう理由で?」
「あたしは、罠に弱いの。『試練の洞窟』は、モンスターが強いだけのダンジョンだから」
ああ、なるほどな。それなら、俺を必要とする理由は分かる。同じダンジョンを何度も攻略しているからだとはいえ、罠への対処は得意だからな。
「分かった。なら、後はどれだけの期間、組むかを聞きたい。俺は、『静寂の森』の世界記録を諦めるつもりはない。だから、ずっとSランクダンジョンに潜るという話なら、諦めてくれ」
「そこなんだけど、あたしもあなたの目的に協力するわ。それでどう?」
「失礼だが、あなたにチャートを考える能力はあるのか?」
「それは……。なら、こうしましょう。あたしが先に、あなたのようにRTAを走るわ。それで、あたしがどの程度か判断して欲しい」
正直に言って、angel_bloodが役に立つとは思わない。RTAは専門分野なので、単なるダンジョン攻略とはジャンルが違う。一朝一夕で、俺にアドバイスなりなんなりができるとは思えない。
だが、わざわざ遠回りをするほどの熱意には、興味がある。俺に断られたのなら、他の相手を選べばいいだけだからだ。
にもかかわらず、俺の協力を求めるためにRTAを走る理由はなにか。それ次第では、前向きに協力を考えても良い。
「そこまでする理由は何だ? なぜ、Sランクダンジョンの攻略を目指している? なぜ、俺を選んだ?」
「あたしは、世界で一番になりたい! 才能がなくても、賢くなくても、根性だけで! だから、本気で世界記録を目指しているあなたが良いの! あたしと同じだから!」
世界で一番になるために、誰も攻略できていないSランクダンジョンを攻略する。彼女の目的は、そういうことだろう。
なんというか、強く共感できるものだった。俺も、世界で一番になりたくてRTAを走っているから。他の何で負けていても、何かひとつでも世界で一番だと言えるものが欲しかったから。
だが、無条件で全面的に協力しても、お互いのためにならないだろう。そして、お互いについて理解を深める時間が必要だ。だから、angel_bloodがRTAを走るというのは、良い機会だろう。
それに、なにか試練を達成できたときというのは、嬉しいものだ。その喜びが、お互いの目的にいい影響を与えると信じよう。俺だって、ただRTAを走っているだけでは得られないものが欲しくて、Sランクダンジョンを攻略するかどうかを考えているのだから。
「なら、RTAを走ることで、何らかの成果を残してくれ。自分が自信を持てるものを。そうすれば、俺は協力しよう」
「分かったわ。なら、今日から『静寂の森』を走っていくわね」
「ああ、お前と協力できる日を、楽しみにしている」
「それって……! なら、頑張るわ!」
angel_bloodはやる気に満ちているようだ。ここから先、俺たちがお互いに目標を達成できる日が来ることが待ち遠しいな。
俺は『静寂の森』RTAの世界記録、angel_bloodはSランクダンジョンの攻略。どちらもとても難しいが、必ずたどり着ける目標のはずだ。
「お互い、頑張っていこうな」
「ええ。あたし達が交流することで、お互いに成長できれば良いわね」
「ああ、そうだな。まったくもって同感だよ」
「これからよろしくね、ステラブランドさん」
「俺の方こそ、よろしく頼む」
さて、全くうまく行かないという事はないはずだ。RTA自体は、誰でもできることだからな。記録を出すのが難しいだけで。
angel_bloodと俺が関わることで、新たな道が生まれるのなら、それは素晴らしいことだ。
まずは、彼女が自分で納得できるだけの成果を出すところからだな。難しそうなら、協力しよう。俺としては、彼女とならもっと高みにいける気がする。
「すぐにでも結果を出してみせるんだから。待っていなさいよね!」
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