とってもデスティニー!~運命に翻弄される僕~

まっくろえんぴつ

001

 気付けば見知らぬ森の中。


 ギャーギャー煩い獣の声。


 自分は正体不明な女の子。


 常識以外全く覚えてない。



「うん、これはアレだな」



 僕の灰色の脳細胞が瞬時に答えを導き出す。


 そう、僕は異世界転生してしまったのだ。

 ラノベで万全の予習をしていた僕が言うのだから間違いない。



「さよなら日本。こんにちは異世界」



 僕は過去へ決別の言葉を口にした。

 そして、異世界にやってきたという事実にガッツポーズ。


 僕を転生した神様グッジョブ。

 おかげでくそったれな人生ともバイバイだ。

 嬉しくて今なら歌って踊れそうだわ。


 よし、これから僕は異世界でセカンドライフをめっちゃ楽しむぞ。


 ということで、まずは自分を知ろう。

 ラノベじゃ手垢塗れの魔法の呪文の出番ってわけだ。



「ステータスオープンッ!」



 言ってしまった。

 僕はついに魔法の言葉を言ってしまった。

 これで何もかも分かっちゃうって寸法よ。




 名 前:

 種 族:レッサーヴァンパイア

 レベル:1/25

 状 態:通常


 筋 力:43

 体 力:28

 俊 敏:26

 魔 力:149

 運命力:1407


 スキル

 【創造】


 称 号

 【運命に翻弄される者】




 イメージ通りの半透明の板が浮かび上がったよ。


 それで個人情報を読み取ったらたくさん出た。

 驚愕の事実がじゃんじゃんと。


 まず、僕の種族はヴァンパイア。

 レッサーなのは流石僕って感じ。

 貧弱だった前世の僕に引っ張られた結果かな。

 どうせなら強靭な肉体が欲しかったけど、まあ贅沢は言わないでおこう。


 ステータスの数値は語ることが無い。

 基準が分かんないので、高いのか低いのか分からん。

 だけどレッサーだし期待はできないだろう。

 せめてクソザコナメクジじゃないことを祈る。


 次はスキルだ。

 頭の中にある説明書を読むとスキルには熟練度があるらしい。

 つまり使えば使うほどスキルは強力になっていくってわけ。

 そういう大事な情報はステータスに反映してほしかった。


 そして称号。

 僕の持ってる称号は一つだけ。

 名前を見るだけでまともな生き方できない感じ伝わってきますね。

 きっと波乱万丈なイベントがマシマシなんだ。

 正直ワクワクしてきた。



「ステータスの確認、よし。次は容姿の確認だな」



 視線を下に向けると胸の膨らみがお出迎え。

 大きいわけじゃないけど小さいわけでもない。

 何が言いたいかって言うとちょうどいいおっぱいだってこと。

 ちなみに揉んでみたら敏感だった。

 取り扱い注意だな。


 それから白い肌をどうにか隠すボロッちい服。

 ちょっと引っ張っただけでビリっと破れたぞ。

 こんなのすぐに使い物にならなくなりそう。

 どうでもいいけど穿いてないからお股がすーすーします。


 んで、髪は足元まで伸び放題です。

 ちなみに色は雪みたいな白。

 絹みたいに艶々してるよ。


 あと、自分の顔を見てみたいんだけどこればっかりは鏡がないと分かんない。

 ラノベの知識から察するに僕はきっと美人だとは思うけど。

 これでブサイクだったら詐欺ですよ詐欺。


 ……ふむふむ、自分への評価が決まりましたよ。

 甘く見積ってこれ浮浪者じゃない?


 ちょっと僕のセカンドライフ最初からハードじゃん。

 神様はもっとサービスしてちょうだい。

 僕は楽しく生きたいのです。



「……ま、外見の評価、おしまい。それじゃ袋の中身を拝見」



 実は僕の腰にはふっくら膨らんだ袋が紐で結んである。

 きっと良い物が入ってるに違いない。

 僕の勘は鋭いんでね。


 というわけで腰の袋を手にして、中を覗いて見る。



「何だ? 真っ暗じゃん……うぷっ!?」



 袋の中を覗いた瞬間、視界が歪んだ。

 気分が悪くなり、立っていられない。

 これはまさか……毒なのか?



「でも不思議と死に繋がりそうな感じはしない」



 気分が悪くなるだけのよく分からないナニカ。

 これは捨てた方がいいんだろうか?

 いやでも、もしかしたら重要な物かもしれない。



「うーん……あ、そうだ。ここはスキルの出番でしょ」



 【創造】のスキルでいろんなことを調べられるスキルを作ってみよう。

 作るのはラノベじゃ超優良スキルとして扱われる【鑑定】だ。

 これさえあれば袋の中身も判明しますね。


 問題は【創造】の使い方をぼやっとしか分かってないってことかな。

 頭の中の説明じゃ使い方まではよく分かりませんよ。


 でも、こんなのフィーリングでいけるいける。

 そうさ失敗するのを恐れてはいけない。

 為せば成る。


 というわけで、いざ実験だ!


 まず【鑑定】という概念を思い浮かべる。

 こういうのはイメージすればスキルが勝手にやってくれるから。


 しばらくイメージし続けてると、魔力と思われる何かが自分の手の中で集中。

 なんか知らんけど勝手に出来たからすごいぞ僕。


 そして、脳内にスキル発動の言葉が浮かんできたので勝ち申した。



「創造――スキル――」



 それがトリガーとなり【創造】が発動する。

 手の中で魔力が増幅と減少を繰り返す。

 力を誘導し、望む形へと変化させるのだ。



《鑑定を取得しました》



 どこからか声が聞こえてくる。

 反射的に周囲を見回すが誰もいない。


 元厨二病患者の僕はそれが何か即座に理解した。

 何とは言わないが、お約束と言えばそうだ。



「あーしんどい」



 なんだか魔力を大量に消費したらしい。

 すごく疲れちゃったぞ。


 【創造】は結構大食らいなんだな。

 多用はできないってわけ。

 また一つ賢くなってしまった。



「ともあれ、目的のスキルは使えるようになった」



 これで袋の中身を暴いちゃうぞ。

 僕の【鑑定】からは逃げられない。



「……なるほど。そういうわけか」



 結果発表!

 袋の中身は、高純度の魔力でした。

 気分が悪くなったのはこれが原因か……知らんけど。


 この魔力は好きに使えるみたい。

 だったら使うしかないよな。

 出し惜しみせずに全力でいくぜ。

 僕はこの魔力を全て【創造】に賭ける!


 では何を生み出すのか。


 一番大事なのは身の安全。

 血を流して戦うのも悪くないけどここは安全策で。


 そんなわけでラノベで読んだ知識を活用。

 選ばれたスキルは【隠密】でした。

 隠れれば戦闘も回避できるでしょ。



「創造――スキル――」



《隠密を取得しました》



 【鑑定】よりは低コストだった気がするな。

 きっとどんぐりの背比べだろうけど。


 うーん、袋の魔力はまだある。

 もう一つくらいスキルを生み出せそうだな。


 あとはそうだな……不意打ち防止のスキルが欲しい。

 ラノベで予習してる僕に死角は不要だ。



「創造――スキル――」



《気配感知を取得しました》



 これにてちょうど袋の魔力も空になった。

 有用なスキルも手に入ったし言うことは無い。


 あっ、この袋は用済みなので捨てます。

 なんだか見た目もボロいし、きっと貴重な物じゃないでしょ。



「おっと、早速【気配感知】に反応が」



 なんだなんだと思っている茂みがガサガサと鳴ってる。

 こういう時、不用意に近づいたら死ぬ。

 逆に逃げ出しても死ぬ。


 なのでここは警戒の構え。



「ガウッ!」



「うわ!?」



 突然の攻撃。

 僕じゃなきゃ躱せてないね。


 茂みから飛び出してきたのはでっかいワンコ。

 いや、この場合オオカミだったりする?

 本物のオオカミ見たことないけど。



「ここは【鑑定】の出番だな」



 僕の生み出した【鑑定】は万能スキル。

 それは相手の情報すら筒抜けにする。




 名 前:

 種 族:ウルフ

 レベル:17/20

 状 態:通常


 筋 力:120

 体 力:105

 俊 敏:145

 魔 力:41

 運命力:7


 スキル

 無し


 称 号

 無し




 なるほどなるほど。

 相手はモンスターの類であったか。


 さて、どうしよう。


 ステータスどう見ても負けてるんだよ。

 いや、一部は勝ってるけどそれって純粋な暴力の前には無意味っていうか。


 こいつと戦うのはリスクでかすぎる。

 無謀とも言っていい。


 一応、両手を上げて降参の意を示してみる。



「グルル……」



 相手の返答は唸り声。

 敵意丸出しで苦笑しか出ない。



「和解の道は……無理そう」



 こういう時は選択肢が多くない。


 僕の灰色の脳細胞は結論を出した。

 そう、僕がやるべき行動は――!



「逃げろおおおお!」



 あんな化物相手に出来るかよ!

 僕は逃げさせてもらう! 


 というわけで180度反転。

 僕は堂々と敵に背を向けて走り出した。

 これは明日への逃走だから何の問題もありません。


 ……と、ここで肝心なこと忘れてることに気付く。



「……あれ? これ逃げ切れるの?」



 走り出して気付く事実。

 僕のステータス的に相手の方が速い。

 これってすぐに追いつかれちゃうパターンじゃん。


 計画の破綻具合が酷い。

 しかし、もう矢は放たれたのだ。

 あとは走り抜けるのみ。


 止まったらそこで人生終了です。

 それが間違いでも、突き進まねばならない。


 捕まったら終わりの鬼ごっこ、開始。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る