第9話 勇者への告白

 我ながら完璧なラブレターが書けたと思う。『体育館裏にきてください』なんて男なら誰でもドキドキする一文だろう。自分の才能が怖い。


 麻衣もかなり不安だったのか俺が書いたラブレターを読んで、「うわ、キモ……」って言ってくれたし。ちなみに「キモ」っていうのは、あまりにも恋する女の子の解像度が高くてキモかったらしい。つまり褒め言葉だ。


 そんな麻衣は、体育館裏に都合よく生えている巨木の裏に隠れている。なんでも、時間がぞろ目になっている時にあの巨木の下で告白すれば、今世どころか来世までも一緒になれるらしい。んなバカな話あるかって切り捨てようにも、神様の存在を知ってるからまぁあるかもなと半分信じている。


「あれ? 伊世じゃん」


 噂の巨木を眺めて待っていると、ルークスがきた。俺を見て不思議そうな顔をして、きょろきょろと周囲を見渡し、巨木を見て視線がそこで固定される。


「あぁ、あっちか」


 なんて呟いて、ルークスが目の前から掻き消えた。かと思えば、巨木の裏から「うわっ!!!??」と麻衣の悲鳴が聞こえてくる。


 あいつまさか、麻衣の気配を感じ取ってラブレターの送り主を麻衣だって思ったってことか!? クソ、勇者の才能を甘く見ていた! このままじゃイケメン好きの麻衣があっさりとルークスに惚れて、「私、この世界で生きていく!」って決意しちまう!


「ちっ、違うんです! ラブレター送ったのは私じゃなくて!」

「え? そうなのか? ワリィ。こんな可愛い子からラブレターもらえたんだって思って、テンション上がっちまった」

「私です」

「待てやコラ!!!」


 ものすごい早さで訪れようとしていた恐れていた事態を止めるために全力疾走。なぜか魔力で勝手に身体能力が強化されて、一瞬で二人のところに辿り着き、メスの顔をしている麻衣とルークスの間に入る。


「麻衣テメェ、流石に尻軽が過ぎんだろコラ……!!」

「だ、だって! 想像してみてよ! めちゃくちゃいい人でみんなからの人気者で美人で可愛い子が、兄貴から好意向けられてることに対して嬉しいって言ってくれたらどう思う!?」

「当然って思う」

「思い上がるなよ」


 とても強い言葉を使われた。おかしいな、思ったことを率直に言っただけなのに。聞いてきたのそっちだろうが。


「えーっと、これどういう状況?」


 忘れていた。呼び出しておいて、麻衣があまりにもチョロすぎたから放置してしまっていた。


 振り向けば、不思議そうに首を傾げている。クソ、顔いいなこいつ。首傾げてもイケメンかよ。そりゃそうか。顔の角度変わっただけだしな。


「悪い、ルークス。あのラブレターを書いたのは俺なんだ」

「えっ……!? タンマ! 気持ちは嬉しいけど、俺女の子が好きなんだよ!」

「待て! ラブレター書いたのは俺だけど、告白したいってわけじゃないんだ!」

「嘘つけ! あんなキュンキュンするラブレター、恋してなきゃ書けねぇぞ!」

「わかる」


 ルークスの言葉に理解を示す麻衣。どうやら俺の味方はいないらしい。まさか俺のラブレターがラブレターすぎて話がこじれるとは思っていなかった。もうこの道で食っていこうかな。勇者がキュンキュンするならラブレター代行やれば結構儲かるんじゃねぇの?


 いや、今は商売のことは考えるな。まずルークスの誤解を解いて、エイリーンと仲良くするために協力を取り付けないといけない。麻衣もそれわかってるよな? 何ルークスに同意してんだよ。イケメンの味方かお前は。


「まず、経緯を説明させてくれ」

「俺を好きになった経緯……?」

「違うっつってんだろ! 聞け! 俺は最近、お前をじっと見つめていたんだ!」

「何がちげぇんだ……?」

「兄貴、わざとやってる?」


 何を? 俺はいつも真面目だぞ。確かに誤解を解こうと必死になっているところはあるけど、何も間違ったことは言っていないはずだ。俺が間違ってないって思ってるだけで周りから見たら間違いだって言われたら、そりゃもうその通りだ。


「なんて言えばいいんだ……! あ、そう! 俺はルークスと友だちになりたいんだよ!」

「まずはお友だちからってことか……?」

「だから違うって! ほら、ルークスっていっつも周りに誰かいるだろ? だからこっそり話せる環境がほしかったんだよ」

「別に、友だちになるくらいなら教室で話しかけてくれりゃいいだろ?」


 麻衣を見ると、力強く頷いた。ここだ。このタイミングで、エイリーンと仲良くするのに協力してくれって言えば納得してくれるはず。ったく、肝が冷えたぜ。まさか異世界で勇者とのラブストーリーが始まろうとするなんて思いもしなかった。


「実は、ルークスに頼みがあるんだ」

「頼み?」

「おう。俺、エイリーンと仲良くなりたいんだよ」

「エイリーンと……あぁ、それでこっそり話したかったのか」


 よし! どうやらルークスはバカじゃないらしい。俺がエイリーンにやらかしたから、ルークスとこっそり話したかったっていうのは理解してくれたみたいだ。よかった。ちょっとだけ「エイリーンのことが好きなのか?」みたいな勘違いされると思ってたから。


「エイリーンのこと好きなんだな?」


 されてんじゃねぇか。

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