第7話 どうやら勇者がいるらしい
神様から助言を受けた俺は、家に帰って妹と一緒に自分のクラス名簿を見た。この世界は色んな種族がいるからか、名前の横に性別と種族、そしてジョブが書かれている。更に魔法で随時更新されていくらしく、既にエイリーンの名前もあった。
ジョブというのは、職業みたいなもの。ヒーラーだったり炎使いだったり、得意な魔法で決まるものや、人志の姉ちゃんみたいに騎士みたいなものもある。
「兄貴、最適なやつって心あたりある?」
「いや……そもそもこっちのやつら知らねぇし」
試しに名前をざっと見てもピンとこない。ほとんど知らない名前だし、日本なのにカタカナ多すぎだし。マジで異世界って感じだ。
種族を見ても、エルフはエイリーンだけ。最適なやつって言うから人間嫌いじゃないエルフがいるのかもと思ったけど、そうじゃないらしい。
「あ」
「どうした?」
「もしかして、この人?」
麻衣が指したのは、アーサー・ルークス。性別は男、種族は人。そしてジョブは。
「勇者?」
「勇者?」
勇者。なんだそれ? いや。勇者を知らないわけじゃなくて、あれだろ? 魔王がいて、それを倒すやつ。知識としては知ってるけど、この世界の勇者って何するんだ? もしかして魔王いるの? だとしたら今は勇者の学園生活パートってこと?
でも、騎士がいるくらいだから勇者がいてもおかしくない……って納得しておこう。
「ジョブが勇者なら、心が広くてすっごく優しいとか?」
「人間嫌いのエルフの心を開かせるにはうってつけだな。よし、こいつに任せて俺たちは甘い汁をすすろう」
「ほんとにいや」
他力本願すぎる俺に嫌気をさした麻衣に、心に来る一言を言われてしまった。じょ、冗談だって。ちょっと思ってたのは否定しねぇけど、勇者がなんとかエルフの人間嫌いを解消してくれたとしても、その後勇者の金魚の糞みたいに俺がエイリーンに話しかけたらむしろ嫌われそうだし。
「よし、まずはルークスと仲良くなるか」
「ここで失敗するとかやめてね? 勇者と仲良くできないならもう兄貴のこと魔族だと思うから」
「それなら人間じゃなくなるから、エイリーンと仲良くできるんじゃね?」
「ポジティブおばけ……」
そうじゃないと生きていけない世界だしな。
アーサー・ルークス。金髪碧眼のイケメンで高身長、お前それ座るとき絶対邪魔だろと言いたくなる背にある剣は、聖剣セイケーンというらしい。この世界名前がバカなこと多くねぇか?
いきなり話しかけに行っても話題がないから、午前中はルークスを観察した。その結果、めちゃくちゃいいやつだということがわかった。
ゴーレムのゴレムが落とした岩に躓いてこけそうになった鳥人のウィンダを咄嗟に支えたり、校内に侵入した蜂を聖剣セイケーンでぶった斬る、かと思いきや魔法でそよ風を吹かせて外に誘導したり、その魔法を見て「誰かとは大違いですね」みたいなことを言いたげな視線をエイリーンに向けられて俺の仲良しゲージが下がったり。は? ふざけんな。
いつ見てもルークスの周りには誰かがいる。みんなの人気者で、心優しい、まさに勇者。だからこそ困った。いつも誰かといるから話しかけづらい。俺がエイリーンのスカートを捲ったのはクラス全員にバレてるし、「エイリーンと仲良くしたいんだ」ってルークスに言ったら、エイリーンのスカートを捲った上、他人にエイリーンとの橋渡しを頼むクソ野郎になってしまう。
「で、どうしたらいいと思う?」
「兄貴がスカート捲りしてなかったら、もうちょっとスムーズだったんじゃない?」
「まるで俺がスカート捲りでもしたみたいな言い方すんじゃねぇか」
「とぼけるなよ、女の敵」
これは、殺気……!? 妹に殺されるのは流石に勘弁してほしいから、素直に頭を下げた。
昼休み。ルークスを観察した結果手詰まりになったダチョウくらいの脳みそしかない俺は、麻衣と相談するために昨日の朝と同じ庭園のベンチにいた。そこで俺と麻衣は愛情たっぷりらしいサキュバス子の弁当をつついている。何が入ってるかわかったもんじゃねぇけど、食材を無駄にすると母さんに怒られる。
「でも、ルークスさんに話しかけるのは兄貴の言う通り結構厳しそうだね」
「できればこっそり話したいしなぁ」
ルークスなら呼び出せばきてくれそうだけど、呼び出すのにも苦労しそうだ。俺が声をかけたらエイリーンとの一件があるから、俺が悪だくみしてると思われて誰かがついてきそうだし、そうなったらそいつに「伊世がルークスにエイリーンと仲良くしたいってみっともなく懇願してたぞ!」って広められる。あ!? 誰がみっともねぇって!?
「違和感なくて、かつ誰もついてこなさそうな呼び出し方ねぇかなぁ」
「授業でペアになったりしないの?」
「大体誰かと先に組んでるな。それ押しのけてペアになろうぜっつーのも違和感バリバリだし」
「……あ、ラブレターとかは?」
「麻衣!! 異世界人と付き合うなんてお兄ちゃん許さないよ!」
「キショイ」
キショイて。
「私からじゃなくて、兄貴が適当に捏造すればいいじゃん」
……あー、そういうこと。俺がラブレターでここにきてくださいって適当に書いて、それをルークスの机の中に入れておく。それをルークスが見つけたとしても見た感じ聖人だったし、誰かに言いふらすことはない。誰かに見つかったとしても、相手に失礼だからって誰もついてくるなって言うだろうし、後はきてくれさえすればこっちのもんだ。
「でも、俺が書くより麻衣が書いた方がよくねぇか? 男の字より女の子の字のがいいだろ」
「イケメンにラブレター書くの、嘘でも緊張するからむり」
「ルークスとかいう俺の妹を誑かすクソ野郎、俺がぶっ飛ばしてやるよ」
「書くの果たし状じゃなくてラブレターだからね?」
フーッ、フーッ、あぁ、わかってる、冗談だ。シスコンの兄を演じてみたんだ。名演だっただろう? 何? キショイ?
キショイて。
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