第2話 1人目のエルドラド

 見た瞬間にエルドラドだとわかると言われたけど、そのエルドラドは未だに現れていない。未だにって言っても、まだ4月で世界が変わった日からそんなに経ってないから、多分会ってないだけなんだろうと思いたい。


 俺たちが通う高校は、『異世界立異世界高校』という頭の悪い高校になっていた。校舎は城みたいになっていて、そこに通う生徒はもちろん、教師もファンタジーっぽい生物がいる。人間もそこそこいるが、俺と麻衣のようにここがどう考えてもおかしい世界だって認識してるわけじゃなくて、元々この世界にいたっていう認識になっている。父さんもそうだったから期待してなかったけど、それに気づいた瞬間俺と麻衣の心に言いようのない孤独感の刃が突き刺さって、ひび割れたのを感じた。


「おはよう、甲斐」

「おう」


 幸いだったのは、いつもつるんでるやつが人間のままだったこと。


 朝、教室に入れば、我が物顔で俺の席に座っているやつがいた。そいつこそが元の世界でもこの世界でも人間で、俺の親友である只野人志。この名前で人間じゃなかったらぶっ飛ばすところだったから、本当にこいつが人間のままで助かった。


「聞いてよ。僕が乗ってる電車がかなり遅延しててさ。タクシー使ってきちゃった」

「めちゃくちゃリッチだな」

「いや、運転手はリッチじゃなくてドラゴンだったよ」

「そういうことじゃねぇよ」


 この世界、リッチもドラゴンもいるのか……。つーかドラゴンが運転手? 人くらいのサイズってこと? どっちにしろ空飛べよ。ドラゴンが車運転するって生物至上一番意味わかんねぇだろ。


 でも、正直ドラゴンは会ってみたい。だってカッコいいし。男の子なら誰もが一度は憧れるだろ、ドラゴン。


 俺の席から人志をどかせて席に座り、リュックを横にかける。教室を見渡せば、人間とファンタジーっぽい生物が半々。名簿を見た感じ元の世界にもいたやつはいたけど、俺がまったく知らないやつもいた。そもそも元の世界で知ってたとしても、こっちの世界でファンタジーっぽい生物になってたらそれは知らないやつだと思う。


「そういえば知ってる? 今日転校生くるらしいよ」

「転校生?」

「そう。エルフかマーメイドがいいなぁ」


 元の世界でよくある「女の子がいいなぁ」みたいなこと? マーメイドを地上にいさせたら可哀そうだろ。しばらくピチピチして絶命しちまうじゃねぇか。


 どっちかって言うとエルフがいい。元の世界でも美しい種族として描かれることが多かったし、ちょっとズレているところはあっても、この世界は俺と麻衣の異世界の認識をベースに作られているから、エルフなら美人なはずだ。とはいっても、女の子って決まったわけじゃないけど。


 人志の姉がオークと付き合ったという情報を聞いたところで、予鈴が鳴る。人志の姉の職業は女騎士だって聞いたし、なんかそういう運命にでもあるんだろう。てかなんだよ職業女騎士って。用心棒みたいなことか? ファンタジーっぽい生物がいても社会はほとんど変わらないのに鎧とか着てんのか?


 ……今度写真見せてもらうか。


「予鈴が鳴ったら座れよー!! そうしねぇと転校生紹介できねぇからなァ!! ハッハッハ、ハーハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」


 何も面白くねぇのに笑いながら先生が教室に入ってくる。先生もファンタジーっぽい生物になっていて、元の世界ではくたびれたおっさんだったのにこの世界ではドワーフになっている。しかも勤務中でも知ったことかと一日中酒を飲んでいる化け物で、更に飲んでいる酒は火が付くほどアルコール度数が高い。


「よし、入ってこい!!」


 先生の言葉と同時、教室に足を踏み入れたのは。


 背中まで届く銀の髪。透き通るような白い肌。出るところは出てひっこむところはひっこんでいる完璧なスタイル。どんな値の張る宝石であろうと蹴散らすほどの美しさを持つ碧の瞳。


 彼女の種族はその尖った耳を見れば一目でわかった。


「フィオナ・エイリーンです」


 そして、彼女を見た瞬間脳内に『仲良しゲージ』と書かれたゲージが現れる。そのゲージとともに、脳内に頭の悪い文字が躍り出した。

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