第381話 新たな誓い
カミラやエリナと戦ったことで、俺は新たな境地にたどり着けたと思う。それだけでも、大きな成果だと言える。
だが、いちばん大事なことはハンナの目に光が見えていること。きっと、俺の戦いを見せたことがいい方向に進んだのだろう。それが何よりも嬉しい。
やはり、大切な誰かの役に立てることは、幸せなことだ。そう思えるだけの友人を手に入れられたことは、俺の誇りだ。これからもずっと、大事にしていきたい関係だよな。
そんなハンナは、こちらをじっと見ている。何かの決意を込めたような目で。
「レックス殿。今から、わたくしめと戦っていただけますか?」
そう言うハンナは、すでに魔力を高めている。圧がビリビリ来そうなくらいだ。かなり気合いが入っているな。もちろん、受けるに決まっている。せっかくハンナが前を向けそうなんだから、助けるのが俺の役目だよな。
さて、どう戦ったものか。まあ、露骨に手を抜くのは論外だよな。基本的にはまっすぐにぶつかり合う方針で行こう。後は流れでだな。いくらなんでも、全力でボコボコにするのは違うはずだ。
「ああ、構わない。お前が望むのなら、是非はないさ」
「感謝いたします。貴殿と戦えば、何かがつかめる気がするのです」
ハンナは手を何度か握りながら、その手を見ている。本当に、ぼんやりとした感触なのだろうな。それを形にするためにも、しっかりと戦わないとな。
「お前の助けになれるのなら、全力を尽くすよ」
「ふふっ、お手柔らかにお願いしますね」
そう言いながら、こちらに笑顔を向けてきた。かなり、余裕を取り戻しているように見える。この調子で、新しい道を見出してもらいたいものだ。
やっぱり、ハンナは大切な友達だからな。できるだけ幸せになってほしいと思うのは、当然のことだよな。
「頑張ってね、ふたりとも! 怪我したりしちゃダメよ!」
「さっきまで大怪我をしていましたからね。今回はやめてくださいね」
「バカ弟、しっかりやりなさいよ。状況が分かっているのならね」
「レックスなら大丈夫だろう。私達は落ち着いてみていれば良い」
「……期待。どんな戦いになるのか、とても興味深い」
みんなの視線を受けながら、俺達は剣を向け合う。さて、やるか。できるだけ高い壁になって、その上でハンナに乗り越えてもらうのが理想だよな。
まずは、いつも通りの戦術をぶつけていこう。そこから、すべてが決まるのだろうな。
「さあ、こい。ハンナの全力を、見せてみろ。
「いきますよ、レックス殿。
魔力を固めた剣が、いくつも降ってくる。それが俺の防御魔法に当たり、砕けていく。まあ、今までと同じ流れだな。
とはいえ、ハンナも落胆していない。あくまで、小手調べなのだろう。反撃してもいいが、まあ今は様子を見るか。ハンナの全力を引き出すのが、俺の役割だろうからな。
ハンナがどんな答えを出すのか、楽しみだな。なら、答えを引き出すために動くか。
「ただ魔法を撃ってくるだけでは、俺には勝てない! さあ、どうする!?」
「分かっていますとも!
魔力を一本の剣に凝縮して、こちらに飛ばしてくる。だが、もう対応を覚えた技だ。前と同じように、防御魔法に当たって砕けていくだけ。
以前ハンナが
「これまでと同じ戦術なら、同じように勝たせてもらうぞ!」
「そのようですな! ええ、レックス殿らしいですよ!」
技が通じていないというのに、ハンナは笑顔を浮かべている。以前のような悲壮感はない。なら、きっと大丈夫だろう。安心して、俺はハンナに向き合った。
「ハンナ、お前は何のために戦うんだ? それをぶつけてこい!」
「もちろん、わたくしめの大切な人のため! あなたを含めた、みなさんを守るため!」
そう言って、ハンナは手元に魔力を集中させていく。先程の
ヘタをしたら、腕が吹き飛びかねないほどの選択だ。だが、ハンナはやり遂げる。そんな気がしていた。
それに、最悪の場合でも俺が腕を治すことはできる。かつて、ウェスの右手が吹き飛んだ時のように。だから、落ち着いた心地で見ることができていた。
「ハンナなら、きっとできるさ! さあ、今のお前を見せてくれ!」
「レックス殿のように、わたくしめも新しい道を! いきますよ!」
そしてハンナは、俺に剣を叩きつけてくる。その剣に込められた魔力は、確かに混ざり合いながら、それでも調和しているように思えた。
俺の防御魔法が切り裂かれていくのを感じる。このままでは、負けるだろうな。そう感じながらも、俺の心が燃え上がっているのを実感できていた。ハンナが何かをつかんだことは嬉しい。だが、俺は勝つ。そんな気持ちが支配していた。
「……感嘆。私の構想していた魔法と、かなり近い」
フィリスの声を遠くで聞きながら、俺は全身の魔力を集中させていった。そして、剣を振り下ろしながら、魔力と溶け合っていく。
「やるな! だが、俺にはさっき身につけた技があるんだ!
俺の全力の一撃は、ハンナの剣を吹き飛ばしていった。そのまま、ハンナは片膝をつく。俺の勝ちだな。そう実感していた。
「参りました、レックス殿。自分で言うのもなんですが、今は勝たせてくださっても良かったのでは?」
ハンナはジトッとした目でこちらを見てくる。本当に、言い訳できないのは確かだ。ハンナが壁を超えたのに、その悦びに水を指すような真似をしたのだから。失敗というしかない。
「いや、それは、その……。つい気分が上がって……」
「ふふっ、冗談でありますよ。全力で勝ちに向かうのが、レックス殿の良いところですから」
そう言って、ハンナは口元に手を当てながら笑っていた。本当に、何か吹っ切れたのだろう。ハンナの成長を、俺は素直に祝福できていた。
やはり、嬉しいものだ。ハンナの役に立てたという実感がある。きっと、これから先も、俺はハンナと競い合えるのだろうな。その瞬間が、今から楽しみで仕方ない。
「ま、手を抜かれて勝っても、シャクなだけよね」
「人次第ではあるだろうが、私も同じだな。殺し合いなら、話は別だが。油断してくれた方が、ありがたい」
「ふたりとも、怪我はない? 一応、治療しておくわね。
ミーアの手元が輝いて、俺達を包み込む。そうすると、わずかに違和感が消えた気がした。無傷だと思っていたが、案外どこかに怪我をしていたのかもな。
ハンナは自分の手を見ながら、強く手を握っていた。まるで、何かを離さないというかのように。きっと、今つかんだものなのだろうな。
「これで、ひとまずは落ち着きましたね。まったく、王女を便利に使いすぎなんですよ」
「でも、私達の大切な友達で、守ってくれる存在だもの! ちょっとくらい、なんてことないわ!」
「今後とも、両殿下のために力を尽くす所存であります。新しい技、
そう言って、ハンナはミーア達の前でひざまずく。それを、ミーア達は笑顔で受け入れていた。
現実的には、ほんの小さな一歩でしかないのだろう。だが、俺達の未来に大きく影響する変化だった。俺はそう信じて、ハンナに向けて拍手をした。
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