第370話 師の道
カミラと戦って、まあ負けたと言って良い。カミラの成長には驚かされるばかりだ。どんな魔法を使ったのかは分からないが、俺の防御を軽く抜くだけの魔法を生み出したのだから。
だからこそ、俺の魔法にもさらなる先があると信じられる。カミラが成長し続けるのなら、俺だって負けずに成長を重ねる。それだけのことだよな。
とはいえ、まずは目の前の戦いだ。次はエリナと戦うことになる。エリナは静かな気配を漂わせながらも、目に強い熱がこもっている。間違いなく、全力で来るだろうな。
だったら、俺も全力で付き合うだけだ。エリナには、自信がある。つまり、本気で俺に通じると確信しているのだろうから。油断なんてしたら、真っ二つにされそうだ。
「さあ、レックス。やろうか。私の心は燃えたぎっているぞ」
エリナは薄く笑みを浮かべながら、俺のことをじっと見ていた。強い感情が垣間見えて、こちらも熱くなりそうだ。
剣を握る手が、ほんの少し震えた。きっと、興奮しているのだろうな。今からエリナと戦うのが、楽しみで仕方ない。
魔法も含めたすべてを込めて、全力で勝ちに行く。そうでなくては、失礼だというものだ。エリナに、俺の成長のすべてを見せてやらなくてはな。
「顔を見れば分かるよ。エリナの本気、受け止めさせてもらう」
「私を甘く見れば、後悔するぞ。覚悟しておけ、レックス」
エリナは剣をこちらに向けながら、そう語る。もちろん、油断なんてしない。全身全霊をかけるだけだ。きっと、すごいものを見られる。そんな予感があった。
「エリナを甘く見るわけがないだろ? 尊敬する師匠なんだから」
「お前の魔法があろうとも、私はお前を斬る。私にはできる。よく見ておけ、レックス」
相変わらず、薄く笑みを浮かべている。ただ、その目には確かな親愛があった。俺がエリナの剣を見ることで、さらに成長できると信じているのだろう。なら、その期待に応えるだけだよな。エリナの剣技、存分に味わおう。
「やっぱり、エリナは俺の師匠なんだな。ああ。全力で参考にするよ」
「では、おふたりとも。準備は良いですか? では、始めてください」
「
「それは通用しないと、さっき言っただろう! 受けるなよ、レックス!」
早速闇の魔力で全身を包むと、エリナは即座に切りかかってくる。魔法なんて使っていないのに、目で追うのも難しい速さをしている。
そしてエリナの剣を受けようとすると、エリナは尻尾を振った。わずかに相手の剣がぶれ、そのまま俺の防御魔法に当たり、切り裂いていった。慌てて手を引くと、なんとか避けられた。
驚くべきことに、エリナは闇の魔法を切った。魔力を持っていない獣人が、単なる剣技で。俺は恐怖していたのかもしれない。歓喜していたのかもしれない。
いずれにせよ、爆発的な感情が湧き上がってくることだけは確かだった。もっともっと見たい。そんな思いがあふれて止まらなかった。
「なっ! 本当に、何の魔力もなく……! 流石だよ、エリナ!」
「まだ褒めるには早いぞ! 私の剣、止められるものなら止めてみせろ!」
「そっちこそ、止められるものなら止めてみせろ!
今度は、闇の魔法を込めた剣技を叩きつける。まともに受けたならば、エリナの剣は真っ二つになるだろう。さて、どう出てくる?
「私の前に、ただの闇魔法は通じない! そのままだと負けるぞ、レックス!」
エリナは平気な顔をして、俺の剣をそらした。その際にも、剣に込めた魔力が切られた感覚がある。このままだと、ジリ貧かもしれない。なら、少しでも距離を取りたいところだな。
「なら、近づけないようにするまでだ!
魔力を押し込めた刃を放ち、最後には爆発させる。エリナも知っている技だから、対応してくるだろう。そう考えていると、また魔法を切り裂いて不発にさせてきた。そのまま、エリナはこちらに切りかかってくる。
「言っただろう! ただの闇魔法など、私は切り裂ける! 甘いな、レックス!」
「なら、そっちより早く動くまでだ!
ここまで来たら、もう剣で対抗するしかない。そう覚悟を決めて、身にまとった闇の魔法で体を操作していく。ただの人では出せない速度を出して、エリナに切りかかっていく。
だが、エリナはこちらの剣を徹底的に潰してくる。起こりを潰され、避けられ、こちらの剣を弾かれる。俺の剣技は、まるで通じていない。そのまま、また俺の魔法を切り裂いてくる。
「お前の前にいるのが誰か、分かっているのか? 私は、お前の剣を誰よりも知っているぞ!」
「まったく、平気で先読みしてくるな! だが、タネは見えたぞ!」
エリナは、俺の魔法を切り裂く時に、魔力の流れにそって切り裂いてくる。だったら、魔力の流れを直前で変えてしまえば、エリナは俺の魔法を切り裂けない。そう考えて動くと、想定通りの成果が出た。
「ほう、魔力の流れを操作したか! お前が成長して、嬉しいよ!」
ただ、エリナは俺が変化させた魔力の流れを読んでくる。それに合わせて、こちらも魔力の流れでフェイントをかけてみたりする。
しばらく攻防が続き、またエリナは俺の動きに対応してきた。
「そう簡単に、負けていられないものな! お前の剣を、もっともっと!」
エリナに剣技で対抗するのなら、エリナの剣を全力で真似るしかない。そう考えて、魔力の尻尾を生み出す。そうして、尻尾を振った反動で体を動かし、剣の速度や威力を高める。
そうすると、エリナも対抗してくる。お互いの剣が何度もぶつかり、火花を散らす。その衝撃の一つ一つをしっかりと感じながら、エリナの動きと実際の剣技の感触を味わっていた。
「尻尾を使うのは、私のマネだものな! 最高だよ、レックス! もっと私の剣を覚えろ!」
「それでも、勝つのは俺だ!
俺は魔力を剣に込めて、まっすぐに斬りかかる。受けられないのなら、相手の選択肢は絞れる。そう考えたが、エリナは笑っていた。
「
エリナは切り札である神速の剣技を放ってきた。俺の剣をかいくぐり、右腕を切り裂いていく。血が吹き出たのを感じていると、ミーアが強く手を叩く音が聞こえた。
「そこまでです! エリナさん、見事な技を見せてくれました。レックスさん、手を出して」
「結構深く斬られたものですね。流石はレックスさんの師匠というところでしょうか」
ミーアの魔法で治療されながら、エリナとの戦いを振り返る。魔力を切り裂く剣を実際に見せてもらえたのは、とても大きい。俺も、魔力の流れを意識すれば、同じことができる。
いや、俺ならもっと先に進めるはずだ。エリナにはない、闇魔法があるのだから。エリナの剣技と俺の魔法。それらを組み合わせて、最強の剣技を生み出す。以前からの目標が、さらに色を持った気がしていた。
「ま、あたしの方が深く傷を刻んでやったけどね。ねえ、バカ弟?」
「もっと大事なものを、私はレックスに刻んだのさ。なあ、レックス」
エリナの剣技は、俺の目に深く焼き付いた。きっと、そのことだろうな。これから先も、もっと俺の剣技は進化する。その証を、いま見せてもらった。
すぐにでも、また剣が振りたい。そんな気持ちがあふれていた。
「まったく、模擬戦とはいえ二度も負けるとはな。悔しいものだ」
「そう言って、楽しそうですよ。レックス殿にも、競い合う相手が生まれたということでしょうか」
「これからは、ハンナさんの同胞として、おふたりには頑張っていただきましょう。よろしくお願いしますね」
そういえば、近衛騎士の採用という話だったな。完全に忘れていたことを、思い出した。カミラやエリナなら、きっとミーアやリーナを守ってくれるだろう。
とはいえ、近衛騎士になったのなら、会う機会は少なくなるだろう。そんな寂しさもあった。
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