第324話 勝利への手がかり

 王宮での式典も終わり、俺達はブラック家に帰ってきていた。ルースがホワイト家の当主になるという驚きもあったが、基本的には変なことはなかった。


 とりあえずは、王家との、というか王女姉妹との関係は良好と言えるだろう。腕輪なんてものも貰ったくらいだからな。


 この調子ならば、敵は増やさなくて済むかもしれない。とはいえ、原作で起きる事件への対策は必要だろうが。いずれは、他の国も関わってくるからな。


 まあ、まずはつかの間の休息を楽しみたいところだ。


「ようやく帰ってこられたな。これで、一段落というところか?」

「メアリ、疲れちゃった。お兄様。今日はもうお休みするね」


 そんな事を言いながら、眠そうにしている。まあ、式典でじっとしているのは疲れるよな。メアリは、まだ元気いっぱいなお年頃だろうし。


 なら、ゆっくり休んでもらいたいところだ。俺は、どうしたものかな。


「ああ、お疲れ様。姉さんは、どうするんだ?」

「そうね。訓練場にでも行きましょうか。体がなまっちゃいけないわ」


 確かに大事なことだ。式典での疲れは主に気疲れだから、そこまで体力は削られていない。それなら、ちょうどいいかもな。


 カミラの訓練を間近で見たら、俺にも得るものがあるかもしれない。結局のところ、俺は才能だけでどうにかしているからな。恵まれない才能のまま強者になったカミラは、相当な努力をしているはずだ。


 盗めるものは盗んでおくのが、強くなるコツだよな。せっかくだし、見せてもらおう。


「なら、俺も行くよ。じゃあな、メアリ」

「今度、魔法の練習に付き合ってほしいの。またね、お兄様」


 メアリは去っていき、俺はカミラと訓練場に向かった。すると、カミラはこちらに剣を突きつけてくる。かなりきつい目で、こちらをにらみながら。


「さて、バカ弟。邪魔者は居なくなったわね。……剣を取って、構えなさい」


 つまり、また戦おうということなのだろう。訓練ではなかったが、まあいい機会だ。カミラの剣や魔法には、学ぶものが多い。俺がもっと強くなる手がかりも、つかめるかもしれないからな。


 それにしても、カミラらしいな。負けっぱなしで終わるつもりはないのだろう。俺も見習うべき姿勢だよな。こういうのを、誇り高いと言うのだろうから。


「なるほど。久しぶりだな、姉さん。いい勝負にしようじゃないか」

「その余裕を剥ぎ取って、ギッタンギッタンにしてあげるわ。覚悟しておくことね」


 手に持っているのが俺の贈った剣なのだから、なんだかんだで負けても優しくしてもらえそうな気もするが。まあ、お互い真剣で戦っているから、怖くはあるよな。防御魔法があるとはいえど。


「ああ。姉さんとの戦いで油断していたら、死んでしまいそうだからな」

「手加減を失敗したりしないわよ。寸止めくらい、問題なくできるわ」


 そんな事を言うが、目は剣呑だ。かなり、熱が入っている様子だな。まあ、俺を恨んでのことでないのは、どう考えても分かる。単に、負けたままが悔しいのだろう。


 俺なら、同じ立場だったら諦めていそうだよな。本当に、尊敬できる人だ。


「その割に、本気で叩き切ろうとしてきてないか……?」

「あんたの防御を貫かないことには、何も始まらないもの」

「やっぱり、気を抜けないな。……来い、誓いの剣ホープオブトライブ

「この雷閃サンダーボルトの、サビにしてあげるわ! 行くわよ!」


 俺が剣を手元に喚んで、カミラも剣を構える。数秒見合って、合図もせずにお互いに動き出した。


無音の闇刃サイレントブレイド!」

迅雷剣ボルトスパーク!」


 俺もカミラも、剣に魔力をまとわせて攻撃する。数度甲高い音を響かせながら剣がぶつかり、そして距離を取る。カミラの剣は、魔法で加速している部分だけでなく、踏み込みなんかの力を同時に叩きつけてきた。


 明らかに以前より剣の速度が上がっていて、目で追うのも難しい。魔力で目を強化してすら、ブレて見えるくらいだ。


「うまくなってるな、姉さん! エリナの剣を、盗んだのか!?」

「癪だけどね! 使えるものは使ってこそでしょうよ!」


 セリフと一緒に、剣もぶつけ合う。カミラの剣があまりにも速くて、防御一辺倒になっている。今のまま剣で攻撃しても、その隙を突かれて終わりだろうな。


 だったら、別の手段で攻撃を仕掛けるしかない。そうしなければ、ジリ貧になってしまう。


「なら、俺も別のやり方を試すだけだ! 闇の刃フェイタルブレイド!」


 剣で防御しながら、カミラの横や後ろから魔力の刃を放つ。だが、平気で避けられてしまった。とはいえ、ほんの一瞬の隙ができたので、態勢を立て直すことはできた。


 ここから魔力の刃を爆発させたところで、回避されて距離ができるだけだろうな。それなら、魔力の消耗を抑えたほうが良い。そう考えて、刃を回収する。


「そんなものが、剣と魔法の融合? ただ同時に撃っているだけじゃない!」

「言ってくれるな! まだまだ、終わらないぞ! 闇の衣グラトニーウェア!」


 防御魔法を体にまとい、その魔法で体を動かしていく。魔力を利用して体の強化をおこなっているからこそ、壊れなくて済む。それくらいには、無理やりな加速だ。だが、カミラと速度が互角になっただけ。いや、ほんの少し負けているくらいか。


「あんた、体を魔法で、操ったの……? いや、所詮はこけおどしよ!」

「速いな、姉さん! だが、追いつけそうだぞ!」


 そのまま、剣の交錯を続ける。何度も金属音が響き渡るが、お互いの体に剣はぶつからない。回避することもあったし、剣を弾き返されることもあった。


「本気だと思ってるの!? 甘いわよ! 迅雷剣ボルトスパーク! 紫電撃エレキランス!」


 カミラは剣を振りながら、別の場所から電気を飛ばしてくる。激しい爆音が響いて、土煙も舞う。だが、カミラの動きは乱れない。このままなら、押し切られるだろうな。


「同時に撃つことの、お返しか! なら、こっちも!」


 魔力の刃を、相手の雷にぶつけていく。衝撃波がビリビリとした感触を与えてくる。そのままカミラの剣と打ち合う。


「甘いのよ! 受けてみなさい!」


 カミラは一段階速度を上げて、俺に切りかかってきた。対応が間に合わなくなって、俺の体に剣が届きそうになる。電気に染まった剣を叩きつけられて、防御が乱れていく。


闇の衣グラトニーウェア! 闇の衣グラトニーウェア! 闇の衣グラトニーウェア!」


 何度も防御魔法を重ねて貼り直して、ようやくカミラの剣は止まった。そのまま、カミラは剣を収めていく。


「ちっ、これでも通らないのね。でも、分かったわ。次は、ラナかミーアでも呼んでおくことね」


 真剣な声で、そう告げられる。まっすぐな目には、どこか自信を感じた。


「それは、どういう……?」

「あたしに切り裂かれて、死なないようによ。覚悟しておくことね」


 つまり、回復魔法が必要になるということなのだろう。そう言えるほどの、手がかりをつかんだ。俺の防御魔法を切り裂くだけの手応えが、確かにあったのだ。


 なら、本当に負けてしまうかもしれない。そんな予感があった。だが、ただ黙って負けを待つなんて、あり得ないよな。


「それは怖いな。ならもっと、訓練を積んでおかないとな」

「せいぜい、見下ろしていることね。あたしは、あんたに勝つ。その瞬間を、楽しみにしていなさい」


 笑いながら去っていくカミラの姿に風格を感じて、少し見とれてしまった。これから先もカミラの誇れる弟でいられるように、俺も成長しないとな。そんな覚悟を固めて、拳を握った。

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