第89話 未来への希望
アストラ学園での生活は、順調なのかどうなのか。一応は、交流を進められている相手もいる。そういう観点では、ここに来た価値はある。それ以外にも、授業の内容も、かなり良い感じだと思える。
まあ、誰も信用していないと思われていたことは、今でも心にトゲのように突き刺さってはいるのだが。ただ、解決策が思いつかないから、後回しにしている。
「レックス様、見て見て! 魔力の収束、鎌みたいな形とか、鞭みたいに動かしたりもできるようになったんだよ!」
「私も、火の扱いは更に上達したと思います。今なら、狙った場所だけを燃やせるかと」
とにかく、教師が優秀なのは間違いない。そして、他の生徒とも切磋琢磨できる。だから、魔法を学ぶという意味では、間違いなく今までより良い環境なんだよな。
フィリスや、今は疑っているアイク、その他の教師も、それぞれに優れた技術を持っており、授業を受ける中で、新しい発想が浮かぶことも多いし、実力が伸びているのを実感できる。
同じことを、ジュリア達も感じているようだ。それだけでも、学園に来た意味を感じる。このまま、何事もなく学生生活ができるのなら、何も言うことは無いんだがな。
「アストラ学園に来たのは、正解。これで、もっとレックス様の役に立てる」
「あたし達が想像していた以上に、学園の教育は高度ですね。やはり、レックス様の計画には、大きな価値がありますよ」
「やはり、フィリスが勤める場所だというだけのことはあるな。悪くない成果だ」
サラもラナも、成長を実感できている様子。本当に、ただの教育機関として考えたなら、最高に近い場所と言っても良い。少なくとも、魔法使いにとっては。
まあ、原作で起きる事件が多すぎて、アストラ学園は危険だというのは、きっと変わらないのだろうが。悲しいことだ。ただ、だからといって逃げる選択もできない。放っておけば世界が滅ぶレベルの事件も起こるからな。それを回避、あるいは打ち勝てなければ、逃げたところで意味はないんだ。
というか、俺が居ないところで、王女姉妹を始めとした知り合いが犠牲になる可能性だってあるんだ。それを考えたら、アストラ学園に入るしか無かった。いや、悪いことばかりではないのは、今も考えているとおりなのだが。
それでも、中々に困ってしまう状況ではある。悩み事が多いのは、実際あるな。
ジュリア達が成長しているのは、授業が優れているからだ。そんな授業を受けに向かうと、やはり教師の実力を実感する。
「ふむ。ミュスカ君、見ていろ。闇属性の侵食は、魔力と物質をつなぎ合わせることにも使える」
「アイク先生、ありがとうございます。これで、もっと成長できそうです」
「なるほどな。火属性の魔力を、物体につなぎ合わせる。面白いことができそうだな」
要するに、闇魔法で直接物体に侵食するのではなく、他の属性の魔力と物質を繋ぐことに使う。それで何ができるかというと、火属性の魔力を込めたアイテムを作ったり、あるいは発動した魔法を道具に貯めておいたり、応用の幅が広い。本当に、良い内容を教わったと言える。
こうしていると、アイクは良い教師なんだよな。どうにかして、敵対を避けられれば、それが理想だ。改めて、実感できるな。
ただ、現実問題として、アイクの計画する悪事は、かなり進んでいる様子だ。ミルラの調査報告を受ける限りだと、最終段階に近い。今から説得するだけの関係を築いて、実際に説得する。難しいなんて言葉では済まないくらい難しいだろうな。
「これを面白いと言うのなら、レックス君には素質があると言っていいだろう」
「当然だな。俺が天才だということを疑ったことは、ただの一度もないからな」
「レックス君、やっぱり自信満々だね。まあ、見ていて楽しいけどね」
それに、ミュスカをどう扱うかという問題も、まだ残ったままだ。できることなら、仲良くしたいものだが。原作では裏切る人間だとはいえ、必ずしも悪人とは言えないからな。要は、一度きりの裏切りなのだから。それさえなければ、素晴らしい人だと言っても、大きな問題はないだろうに。
頭を悩ませながらも、授業を受けていく。それが終わってからは、王女姉妹と話をする。
「そういえば、今日の授業のアイデア、私の光属性でも使えるかも!レックス君、試してみましょうよ!」
「姉さんは元気でいいですね。ただ、私達が協力する理由が増えそうで、何よりです。悪くないですね」
やはり、ミーアは前向きだな。その姿勢は、できるだけ見習いたいものだ。俺としても、悩んでばかりではなく、前に進みたいからな。
それにしても、アイクの授業で新しい発想が思い浮かぶのだから、良い教師だと改めて実感できる。生徒を確かに成長させているのだからな。
本当に、何も事件を起こさないでくれたらな。まあ、原作での描写を見る限り、アイクは真理にたどり着く為なら何でもする人なのだが。
学園の地下から魔物を復活させようとするのも、そうすると研究が進むと考えたからだったはずだ。つまり、教師としての信念だとか、良心だとか、その方向性で説得することはできないだろう。
まあ、今はミーアのアイデアの検証が先か。これも、現実逃避の一環なのかもしれないが。
「ふむ。最大の課題は、どうやって光属性の魔力に俺の魔力を侵食させるかだな。普通にやると、反発するからな」
「だったら、
「悪くない発想だ。一度くらいは、試す価値があるだろう」
ということで、3人で七属性の魔力を混ぜ合わせ、それを剣に侵食させるという実験を行った。結果としては、数度の試行で、魔力を込めることに成功した。
「この剣、持っているだけで元気になる気がするわね! 良い感じよ!」
「ふむ。あまり広めると、敵まで使いかねないですね。私達だけの秘密にしておきませんか?」
どうも、リーナは慎重だな。ただ、俺も似たような考えはある。持っているだけで元気になるとミーアは言うが、要はバフがかかる武器だ。つまり、多く作れば、それを敵が持つ展開も考えられる。
というか、製法が広まれば、他の人間だって俺達と同じことをするだろう。そして、厄介な武器が世界に広まることになる。そのリスクをどう考えるかが、今後を左右するはずだ。
「好きにしろ。どうせ、お前達が居ないと使えない魔法なんだからな」
「確かにそうね! つまり、私達とレックス君の絆の証ってことね!」
絆の証。確かにな。違う能力を持つ者どうしが協力しないと、
大きな成果を手にした充実感と共に、自室へと帰っていく。いつも通りに、メイド達とミルラが出迎えてくれる。
「ご主人さま、なにか良い事がありましたか? ちょっと、嬉しそうですっ」
「まあ、悪くないことはあったな。面白いものが見られたからな」
「それは、どのようなものでしょうか。レックス様、良ければ教えてください」
メイド達なら、他の誰にも言わないとは思う。それでも、秘密にすると決めたことは、隠し通す。この人なら言って良いというのは、俺が決めることじゃないからな。少なくとも、俺と王女姉妹の3人共が納得する形でなければ。
「一応、口止めされているからな。お前達にも、話すつもりはない」
「なら、仕方ないですねっ。私は黙っているつもりですけど、知らなければ、絶対に言わないですからねっ」
「全ては、レックス様の望むがままに。私が知らぬべきだとおっしゃるのなら、興味など持ちません」
「それも、きっとレックス様の優しさなのだと信じます」
メイド達やミルラは、間違いなく俺を信じてくれている。それが、少しだけ勇気をくれる気がした。
これから先、というか、今でも多くの問題を抱えている。それでも、未来には希望があるのだと信じる。信じたい。願わくば、素晴らしい未来が待っていてほしいものだ。
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