第77話 超えるべき壁

 あれから、ルースとハンナとは、ある程度は交流するようになった。とはいえ、仲が良いかは分からないが。何にせよ、できるだけ仲良くしたいものだ。


 原作で起こる事件の多くは、放っておけば大災害につながるものも多い。それを考えると、戦力は多ければ多いほど良い。とはいえ、利益を考えて仲良くするのも、あんまりな。どうせなら、損があっても切れない関係が理想だ。


 まあ、今は急ぎすぎず、段階を踏むところからだな。いくら原作で相手を知っているからと言って、軽率に踏み込むのは問題だろう。王女姉妹の時は、急ぎだったから踏み込んだとはいえ。


 相手にも、俺にも、触れられたくない部分はある。それを理解した上で、一歩ずつ距離を縮めていきたい。


「レックスさん、あたくしの爆殺陣エクスプロードスフィアはいかがでして?」

「わたくしめの閃剣テンペストブレードも、研鑽の証でありますよ」


 ルースもハンナも、俺に魔法を見せてくる。2人とも、自信を持っている様子。実際、原作でも強い技だ。


 まず、ルースの爆殺陣エクスプロードスフィアは、周囲を結界で包み込んで、その範囲に強い爆発を起こす技。鉄の鎧くらいなら、軽く粉々にできる技だ。四属性を超える魔法使いの技は、一発一発が必殺の威力を持っていると言って良い。とはいえ、同格以上の相手には防がれることも珍しくないが。


 そして、ハンナの閃剣テンペストブレードは、剣の形に固めた魔力を雨のように降らせる技。回避をするのは、ほぼ不可能と言っていいだろうな。まあ、俺の闇の衣グラトニーウェアなら、簡単に防げる程度ではあるが。


 どちらも、確かな才能と研鑽を感じる技だ。少なくとも、多くの魔法使いが一生をかけても届かない領域だろう。とはいえ、原作の敵には、通じない相手も多いだろう。世界の命運をかけた戦いも多いからな。それ相応の規模を持つことになる。


「まあまあだな。それなりに強いようだが、俺には届かないだろうさ」

「そこまで言うのでしたら、あなたの魔法を見せていただきたいものでしてよ?」

「同感でありますな。どれほどのものなのか、見せていただきませんと」


 2人とも、挑発的な目をしている。まあ、俺の言葉に対するものとしては当然だ。2人の魔法を軽く扱うようなセリフを言ったのだから。とはいえ、どうだろうな。カミラに見せたときは、ちょっと恐れられた。同じことになってしまえば、困るんだよな。


 仮に心が折れたりしてしまえば、大きな問題であることは間違いない。だからこそ、あまりやり過ぎたくない。ただ、手加減をしても、相手をバカにしているように捉えられるかもしれない。どうしたものか。


 いや、レックスのキャラなら、全力を見せるのが普通だよな。そこに従うのが、無難なところだろうか。仕方ない。見せるとするか。


「なら、望み通りにしてやろう。闇の刃フェイタルブレイド!」


 俺から放たれた闇属性の刃は、進路上のものを切り裂いた上で、大爆発を起こした。地面の土が、天高くまで吹き飛ぶくらいに。最低限は制御しているから、俺達には被害はない。とはいえ、強い風がこちらに飛んでくる。


 2人は、目を見開いて俺の魔法を見ていた。驚いているのは間違いないだろうな。まあ、フィリスですら感心するほどの魔法を、さらに研鑽したんだ。強いのは当たり前だ。


「……ま、まさか、ここまで差があるなんて……。あたくしは……」

「わたくしめが見た中で、最大級の魔法というほかありません。悔しいですが、完敗ですね」


 ルースはうつむいているし、ハンナは拳を握っている。これは、どんな反応だろうか。奮起してくれるのが理想ではあるが。


「まあ、俺は天才なんだからな。当然だろうさ」

「あたくしは負けなくってよ。必ずあなたに、あっと言わせてみせるわ」

「わたくしめも、諦めません。近衛騎士になるための試練ですから」

「せいぜい、努力を続けることだ。俺だって進化を止めないのだからな」


 とりあえず、少なくとも俺に反抗的な態度を取れる程度ではあるようだ。ありがたい話だ。もっと強くなってくれれば、王女姉妹だって助かるだろう。


 それからは、2人とも俺の様子を見に来ることが多かった。魔法の威力が高くなったと見せに来たり、俺の魔法を見せろと言ってきたり。なんとなく、ライバルっぽい関係に思える。


「それなら、魔力の伝達の効率が悪いだろう。ルース、見ていろ。こういう魔力操作をするんだ」

「確かに、効率は良くなりましたわね……。不本意ではありますが、聞いてあげましょう」


 魔法について議論することもあったし、こちらからアドバイスすることもあった。反発される時もあるし、従われる時もある。総じて、悪い関係にはなっていないと思う。


「恐るべきことですね。レックス殿は、圧倒的な才能に溺れていない」

「全くよ。少しくらい、油断してくれれば可愛げもあるものを。嫌になることだわ」

「こんなもの、まだまだ頂には程遠い。油断するなど、気が早すぎる」

「生意気ですこと。でも、悪くないわ。あなたに勝てるのなら、あたくしは自分を認められるもの」

「同感でありますな。少なくとも、実力は本物です。良い目標となるでしょう」


 これなら、お互いに成長するためのきっかけになるだろう。正直、あまり好かれている気はしないが。まあ、良い。敵対していないだけでも、十分だ。遠ざけられていないだけで。


 俺の全力は、誰かを恐れさせることもある。以前のカミラや、入学試験の時の教師や他の受験生とか。そうなっていないのなら、まだ目はあるはずだからな。


「レックスさんには、本当に弱点が見当たりませんこと。まあ、人徳では勝てそうですけど。それは、あたくしの目標ではなくってよ」

「とはいえ、王女殿下の好意では負けている様子でありますから。数では勝てても、肝心な部分では……」

「確かに、強く慕われている相手では、負ける可能性もあるものね。でも、何よりも先に、あたくしは実力で勝ちたいわ」

「その通りではありますな。人徳を軽視するつもりはありませんが」


 まあ、実際、俺は傍から見て、あまり良い人格とはいえないだろう。少なくとも、外部から見れば。口が悪いし、調子に乗っている感じだからな。とはいえ、最低限は認められていると思う。だから、悪くない。


 これまでは、うまくいくことが多かった。とはいえ、嫌われてもおかしくはないのは事実だからな。


「さて、何年後になるだろうな。せいぜい、楽しみにさせてもらおうじゃないか」

「その顔を屈辱で歪ませる姿は、どれほど見応えがあることか。こちらこそ、楽しみでしてよ」

「言葉ほどには、油断していないのでありますね。ある程度は、分かってきましたね。だからこそ、勝ってみせます」

「突き放されないように、気を張っておくことだな。俺だって、こんなところで立ち止まるつもりはないんだから」


 なんというか、超えるべき壁と思われた感じか? これからに期待といったところだな。2人との関係も、2人の実力も。さあ、まだまだ先は長い。気合を入れていこう。

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