第76話 学園での出会い

 アストラ学園に合格して、準備を終えて、いよいよ原作の舞台に突入することになる。まあ、俺の影響で、大きく流れが変わる部分もあるだろうが。


 やってきた学園は、とても広い。気を抜けば、敷地の中でも迷子になってしまいそうなほど。ジュリア達とは、別の寮に住むことになる。ということで、別々にやってきていた。正確には、道中は一緒だったのだが。手続きやら何やらで、別れる必要があった。


 そして、自分の入る寮に入っていくと、知っている顔を見つけた。王女姉妹だ。相変わらず、姉のミーアは太陽みたいだし、妹のリーナは月みたいだ。印象は、大きく変わらないな。


 とりあえず、『デスティニーブラッド』では見ることのできなかった光景がある。王女姉妹は、殺し合った上で妹が死ぬという流れだったからな。だからこそ、今の状況が感慨深い。胸が一杯になりそうだ。


 ただ、まだ気を抜くには早い。いくらでも事件が起こる世界なんだ。親しい人を失わなくて良いように、気合を入れなければな。


「あっ、久しぶりね、レックス君! やっぱり、あなたも合格していたのね!」

「レックスさん、お久しぶりです。元気そうで、何よりですね。私は、色々と面倒でしたが。本来、入学する予定なんてなかったんですよ」


 なるほど。もしかしたら、それで以前、カミラが実家に帰ってきていたのかもな。王族がひとりだけ入学する予定だったのが、変わったから。準備に忙しかったのかもしれない。


 とりあえず、また仲良くできそうで、今後が楽しみではある。王女姉妹は、どちらも尊敬できる相手だからな。


「リーナちゃんと一緒じゃないなんて、そんなのダメだわ! せっかく仲良くなれたんだもの!」

「お前達は、相変わらず能天気そうで何よりだ」


 どうも、何も考えなくてもレックスっぽい言葉が出るようになってきた。この調子なら、周囲の環境による縛りが解けても、余計なことを言いかねない気がする。それは嫌なんだよな。


 まあ、それまで生き延びないことには、未来の話なんて無いようなものだ。今は、演技を続けないと。


「もう、レックス君! 私はともかく、リーナちゃんは能天気じゃないわ!」

「否定するのはそこで良いんですね。確かに、姉さんは能天気ですね」

「リーナちゃん、ひどいわ! 私のどこが能天気なのよ!」

「そういうところですかね。まあ、別に嫌いじゃありませんけど」


 こうして2人が仲良くしているのを見ると、心が満たされるな。原作を遊んだ時に、見てみたかった光景だから。それに、親しい人どうしが仲良くしているのは、単純に嬉しい。


「ああ、確かにな。お前は、能天気なままで良いんだろうさ」

「つまり、ありのままの私で良いってことね! ありがとう!」

「姉さんに任せておくと、話が進みませんね。できれば、レックスさんに紹介したい人が居るんですよ」

「そうだったわね! ルースちゃんとハンナちゃんは、良い子だもの! きっと、レックス君とも仲良くできるわ!」


 ルースもハンナも、原作で聞いたことのある名前だな。というか、パーティメンバーだった。相応に、思い入れの深い相手だ。とはいえ、今の俺にとっては、ただの他人。態度を間違える訳にはいかない。


 まあ、仲良くできるのなら、嬉しい限りではあるが。優秀なのは間違いないし。俺としても、戦力は多いに越したことはない。


「なら、付き合ってやる」

「ついてきて! 待たせているから、きっと2人は待ちくたびれちゃうわ!」

「姉さんが話を伸ばしたんですよ……」


 ボケとツッコミって感じで、見ていて楽しいな。正反対な2人だが、見るからに仲が良い。俺の行動の成果だと思うと、最高だよな。今後も頑張っていくための、活力になってくれる。


 2人に案内されるままについていくと、部屋に待っている人が2人居た。どちらも女の人で、とても目立っている。


「ごきげんよう、レックス・ダリア・ブラックさん。あたくしは、ルース・ベストラ・ホワイトよ。闇魔法を使えるみたいだけど、あたくしは負けなくってよ」


 白い髪を肩まで伸ばしていて、黒い瞳とは対照的な印象だ。高めのハキハキした声が、芯の通った人だと思わせてくる。姿勢もいいし、見るからにお嬢様って感じだな。俺と同じくらいの身長で、目線が合いやすそうだ。


 ホワイト家は、確か公爵家だったはず。その娘であるルースは、四属性の使い手。火、水、風、土だったはずだ。原作では、五属性を使える人間をライバル視していたはず。勝つために、努力を重ねていたのが印象深い。


「わたくしめは、ハンナ・ウルリカ・グリーンと申します。近衛騎士となれるよう、精進するつもりであります」


 緑のポニーテールに、青い瞳を持っている。こっちは、俺よりも身長が高いくらいだ。とても大きい。力強い印象を受ける声と表情で、騎士のイメージには一致していると思う。


 この人も四属性使いだったはずだ。確か、水、雷、風、土。原作では、近衛騎士に憧れているだけだったが、ミーアの人格を知って、彼女のための騎士になりたいと考える流れがあった。感動したのを覚えているんだよな。


「知っていると思うが、レックス・ダリア・ブラックだ。並大抵の努力では、俺の影を踏むことすらできないだろうよ」

「レックス君は、口は悪いけど、とっても良い子なのよ! 私達の仲を取り持ってくれたもの! そんなの、他の誰にもできなかったわ」

「まあ、否定はしません。良くも悪くも、レックスさんの勢いに押し切られましたね」


 悪く思われていないのなら、何よりだ。どうしても、口の悪さは捨てられない。少なくとも、悪役の家に生まれた因果に縛られているうちは。どうせなら、信頼も好意も伝えたいのだがな。難しい。


「良い人か悪い人かなんて、関係なくってよ。あたくしは、必ず勝ってみせるだけよ」

「どんな方であれ、姫様方をお守りいたします。それが、近衛を目指すものの役割でありますから」

「うーん、ごめんね、レックス君。いつもは、もっと良い子なんだけど。ちょっと、警戒しているのかも」

「私達の目を疑っているようで、あまり好ましくはないですよね」


 まあ、俺だってブラック家の外からレックスと会えば、警戒していたのは間違いない。だから、仕方のないことではある。とはいえ、原作で好きだったキャラに敵視されるのは、悲しくもある。


 ただ、これから仲を深めていけばいいだけだ。諦めるのは、打てる手を打った後で良い。今のところは、前向きに考えていこう。


「申し訳ありませんわ、ミーア様、リーナ様。ですが、彼はあのブラック家。警戒してしかるべきでしてよ」

「わたくしめは、姫様方を除く全てを疑うのが役目でありますれば。お許しいただきたい」

「好きにしろ。お前達ごときが何をしたところで、俺には関係のないことだ」

「許してくれるんだって、2人とも! やっぱり、レックス君は優しいわよね!」

「今の言葉が、許しの言葉でして……? よく分からないことを言いますのね」

「それでは、素直に疑わせていただきましょう。わたくしめに、信じる心など不要なのです」


 まあ、俺の言葉を好意的に解釈してくれるミーアの方がおかしいくらいだ。これから頑張って、打ち解けていきたいものだな。まだまだ時間はかかるだろうが、一歩ずつ。


 とりあえずは、ルースとハンナと仲良くなることを、当面の目標としよう。警戒すべきこともあるが、生徒の立ち位置でできることは少ないからな。


 目標は決まったから、突き進んでいこう。良い未来を手に入れるためにも、立ち止まっている時間はない。

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