第54話 目覚めた力

 いつも通りに学校もどきの様子を見ていると、武器を持った人間がやってきていた。万が一の時のため、知り合い達に魔法で防御をかけていく。それから、相手の方へと向かう。


 間違いなく、こちらの味方ではない。だから、すぐにでも殺せるように魔力を準備して、話しかける。


「何者だ、お前達?」


 相手はバカにしたように笑い、こちらにナイフを向けてくる。


「盗賊だよ、盗賊。さあ、金目のものをよこしな。さもなければ、お前を殺す」

「お断りだ! さっさと死ね!」


 こちらが攻撃を仕掛けるよりも前に、相手は笛を吹く。その後、俺の魔力に貫かれて、相手は死んでいった。


「笛? 何のために……いや、合図か! お前達、気をつけておけ!」

「分かりました、レックス様! 僕も戦います!」

「私も! ただ見ているだけなんて、イヤですから!」

「あたしも、協力します!」

「私は、子供達を集めさせていただきます! 守りやすいように!」


 本当に盗賊たちが襲ってくるのだとすると、状況は良くない。流石に、生徒全員に防御を与えられるほどの時間も魔力もない。いま闇の衣グラトニーウェアを仕掛けられているのは、ジュリア、ラナ、シュテル、ミルラの4人だけだ。相手の人数にもよるが、積極的に攻撃を仕掛けられたら、守りきれるか怪しい。


 少なくとも、俺と4人は絶対に助かる。相手が何人だろうと。だが、それで満足するなんてありえない。誰も犠牲を出さないために、全力を振り絞る必要があるだろう。


 四方八方から、敵がわらわらと湧いてくる。その数を見て、苦戦する未来を予見した。ぱっと見では、数え切れないほどだ。


 何が厄介って、まとめて火力で葬り去れないところだ。全力で技を放てば、盗賊たちは死ぬだろう。だが、生徒達も巻き込まれてしまう。そうならないように、慎重に攻撃する必要があるんだ。少なくとも、闇の刃フェイタルブレイドは封じられたに等しい。あれは広範囲を巻き込みすぎる。


 盗賊たちは、とにかく生徒達を狙っている。だから、魔力や剣を利用して、ひとりひとり殺していく。俺の剣、誓いの剣ホープオブトライブは、どこに居ても呼び寄せられる。こういう状況で、とても便利なものだ。


「さあ、誰でも良い! 殺してやれ!」

「そんなこと、させるものか! レックス様の邪魔は許さない!」

「あたしも、手伝います! 水の槍アクアランス!」


 ラナ達も戦っている。だが、分が悪そうだ。少なくとも、本人は無事で済むだろうが。だが、あの人数では、押し切られるだろうな。


「皆さん、私に着いてきてくださいませ!」

「ミルラ先生、待ってください!」


 ミルラは、生徒達を一箇所にまとめようとしてくれている。ありがたいことだ。完全に散らばられたら、もっと困っていたからな。とはいえ、まだ油断はできない。


「どこの盗賊だ? 数が多いな。面倒だ。まとめて殺せれば、楽なものを!」


 色んなところから攻めて来られるので、大技を撃てない。それだけのことで、かなり追い詰められていた。守るべき相手を絞り切ってしまえば、どうとでもなる。いま闇の衣グラトニーウェアで守っている以外の人間を見捨ててしまえば。


 だが、あり得ない選択肢だ。未来ある子供達を、犠牲にする訳にはいかない。力を振り絞って、守り切ってみせるんだ。


 盗賊を見つけるたびに、魔力を放ち、剣を振り、確実に殺していく。正直に言って、吐きそうだ。初めて人を殺したばかりで、もう次を殺さなくちゃいけない。


 だが、そんな苦しみに負けて、誰かを犠牲にする訳にはいかない。今は、全力で耐えるだけだ。ただ、状況が良くない。あまりの数なので、手が回りきらない部分が出てきそうだ。


「まずいな、このままでは、せっかく集めた生徒が……」


 こんな状況でも、演技は続けるしかない。大切な生徒なんて、言えはしない。本当に、困ったものだ。


「魔法使いが居ようと、この数はどうにもならねえだろうよ!」

「うるさい! さっさと死ね!」


 八つ当たりのように、盗賊に魔力をぶつける。即座に死ぬが、気は晴れない。当たり前だ。今も、生徒達は危険なのだから。


「全員でガキどもを攻撃しろ! 勝てないのなら、せめて妨害してやれ!」

「クズどもが……! 大人しく死んでいれば良いものを!」


 とにかく、手数が足りない。それだけが問題だった。せめて一方向を放置できれば、だいぶ楽になるのに。そう考えていると、強い魔力の奔流を感じた。


「レックス様のことは、傷つけさせない! 僕が、みんなを守るんだ!」

「なんだ、この力は! おのれ……!」


 魔力を収束して、ただぶつけるだけの技。つまり、無属性の魔法だ。ということは、ジュリアは主人公だったということになる。だが、そんな事を考えている時間はない。


「ジュリア、そちらは任せるぞ! 俺は、残りの盗賊共を殺してくる!」

「もちろんだよ、レックス様! 絶対に、誰も傷つけさせないよ!」

「盗賊ごときに殺されるようなら、笑ってやるからな!」

「安心してください、レックス様! 私達は、絶対に死んだりしませんから!」

「あたしも守りますから、行ってください!」


 そう言われて、ジュリア達を置いて盗賊の数を減らすことに集中していく。近場の敵から殺していき、ジュリア達が見えなくなるくらい、遠くまで来た。


「ここなら、聞こえないか。さて、俺の大事な仲間たちを傷つけようとした罪、お前達の身で、償ってもらおうか」


 目に見える範囲の敵を、まとめて葬っていく。生徒達が近くに居ないだけで、とても楽だ。


「おのれ、化け物! お前みたいなやつが居るから……」

「敵の言葉を聞く間抜けだとでも思っていたか? さっさと死ね」


 順番に敵たちを殺していくと、土下座を始める敵も出てきた。


「お、俺達は頼まれただけなんだ! 頼む、見逃してく……」


 相手の言葉を聞く気も起きず、すぐに殺していく。罪悪感も少しはあるが、気にしてなんて居られない。


「情報を引き出した方が良かったか? いや、すぐにでも始末しなきゃ、ジュリアの負担が増える。これで良いんだ」


 そうして、急いで盗賊たちを始末していった。一通り殺せたことを確認して、ジュリア達のところへ戻っていく。すると、そちらでも、盗賊は全員死んでいるようだった。


「お前達、無事だったようだな。褒めてやろう」

「弓が当たっちゃったけど、助かったんだ。レックス様のおかげなんだよね?」


 その言葉を聞いて、少し肝が冷えた。闇の衣グラトニーウェアをかけた俺の判断は、正解だったようだな。うかつに主人公だからと任せていれば、危険だったことになる。


「闇の魔力を感じましたから。あたしも、助けられちゃいましたね」

「感謝します、レックス様。また、助けられてしまいましたね」

「確認しましたが、生徒は皆無事でございます。レックス様のお力のおかげですね」


 ミルラの言葉を聞いて、安心できた。これで、今回の事件は一段落ついた。とはいえ、なぜ盗賊が襲ってきたのか、知る必要があるだろうな。


 一応、学校もどきの周辺には、警備も置いておいたのだから。何らかの形で、警備をかいくぐられたか、始末されたか。


 そう考えて調査すると、警備の人員は無事なようだった。つまり、内部犯の可能性が高いことが分かった訳だ。


 ブラック家か、学校もどきか、あるいは警備か。その中に、黒幕がいる。なんとしても正体を明かして、殺してやる。そんな暗い感情が、俺の中にあった。

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