第37話 次への一歩
オリバーを倒して、父親に引き渡して、今回の事件は終わった。ただ、王宮にみんなを待たせたままだ。だから、すぐに会いに行かないとな。
という訳で、ウェスの反応を頼りに転移していく。とつぜん現れた俺に、ミーア達は驚いていない。1回転移を見せたから、納得されたのかな。
ミーアもリーナも、アリアもウェスも、それぞれの形で俺に微笑みかけてくれた。その姿を見て、帰ってきたような感覚になる。まあ、王宮は家ではないのだが。
それでも、親しい相手がいるところが俺の居場所だ。それでいい。
「レックス君、ぜんぶ終わったのね。じゃあ、いったんお別れね。寂しくなっちゃうわ」
「また、会いに来てもいいですよ。まあ、王宮に来るのは難しいでしょうが」
また、何度でも会いに来たいな。王女姉妹との時間は、とても楽しかった。だが、相手が王族だからな。気軽に会いに来るのは難しいだろう。それに、アクセサリーを渡す機会もなかった。というか、作る時間だな。急に王宮に呼び出されてしまったからな。準備をする時間はなかった。
だから、次に会いに来るときには、何か贈り物を用意したいな。それを通して、王女姉妹が危険な目にあった時には助けに来たい。
「ご、ご主人さま、ありがとうございました。わたしを助けてくれて」
「では、帰りは私達がお世話をさせていただきますね」
ということで、王宮から帰っていく。その間は、ウェスが今までより笑顔で居るような気がした。オリバーから助けたことで、心の距離が近づいたのだろう。
やはり、ウェスの命を助けられて良かった。初めて出会って、処分されかけていた時も、オリバーに襲われていた時も。そういえば、新しい
そして、ブラック家へとたどり着いた。すると、カミラとメアリが出迎えてくれた。家族として絆を結べている様子で、とても嬉しい。
「レックス、よく帰ってきたわね。オリバーのやつを倒したんだって?」
「お兄様、お帰りなさい。メアリを抱っこして?」
ふたりとも、いつもの様子で居てくれて、とてもありがたい。帰るべきところに帰ってきたのだと思えた。
それでも、カミラはいつもより柔らかい雰囲気だ。俺が帰ってきたことを喜んでくれているのを、素直に信じることができる。やはり、俺に情を感じてくれているのだろう。
メアリは甘えてくる。抱っこして欲しいとの甘えも、可愛らしいものだ。全身から信頼を感じて、とても心地良い。この子と一緒にいるのは、間違いなく幸せだな。
そうしていると、ジャンもやってくる。嬉しそうな顔なので、ありがたい。
「兄さん、流石ですね! 裏切り者も、簡単に倒してしまうなんて!」
家族に暖かく迎え入れられながら、父の元へと向かう。そこで、軽く話をしていくことになった。
「よく戻ってきたな、レックス。オリバーは、もう処分しておいたぞ」
そう言われて、とても驚いた。オリバーは死ぬとは思っていたが、急すぎる。少しどころではなく、困惑している。だが、冷静さを保たないとならない。父の前では、いつものレックスでいる必要があるのだから。
「そうなんだ。王家に引き渡さなくてよかったの?」
「運ぶ間に、逃がす方が問題だったからな。首だけ渡せば問題ない」
これは、完全に死んでいるな。せっかく生きたまま渡したのに、悲しいな。悲しい? 俺は手間が無駄になったことが悲しいのだろうか。オリバーが死んだことが悲しいのだろうか。
自分に問いかけていくが、よく分からない。俺が関わったことで、人が死んだ。その重さがあるような気がするが、確信が持てない。
「なるほどね。息子を殺して、大変なんじゃないの?」
「フェリシアやカミラに、もう一度襲いかかられたら大変だからな」
そう言われて、頭の中に何かが走ったような気がした。だが、その正体にまでたどり着けない。もやもやした気持ちを抱えながら父のところから去っていくと、今度は母に話しかけられた。
「レックスちゃん、大丈夫でしたの?」
とても心配そうな顔をしていて、少し嬉しくなってしまう。原作では、アリアを殺した相手だというのに。やはり、家族として情が湧いてしまっているのだろうか。
だが、エルフ達が殺される事件が起こらないのなら、母と敵対する意味はない。できれば、そっちの未来であってほしいな。知っている誰かを死なせるのは、ごめんだ。
「問題なかったよ、母さん」
「わたくしの愛する子を殺そうとするなんて、オリバーは息子とは呼べないわね」
とんでもない言葉だ。やはり、悪の家にふさわしい人間だな。それでも、積極的に敵にしようとは思えない。暗殺されるという危険を抜きにしても。俺は愚かなのだろうな。
簡単に我が子を捨てられる人間が相手なのだから、情を持つのは危険だと分かっているんだ。それでも、完全に嫌いになりきれない。
始めから主人公に関わる家に生まれていれば、もっと楽だったのだろうな。だが、それではアリアやウェス、カミラやメアリと関係を築くことはできなかった。他の原作キャラは、主人公の近くにいれば関われたのだろうが。
だから、今の環境を悔やむこともできない。いま親しい相手と出会えなかった可能性は、あまり想像したくはないからな。
「そんなものなんだね」
「だって、わたくしを想ってくれる息子は、レックスちゃんだけですもの。それに、カミラちゃんやフェリシアちゃんを殺そうとしたのも許せないわ」
一応、カミラのことは愛しているのだな。その感情に触れることができて、かなり嬉しい。もしかしたら、これから先も仲良くできる可能性があるのだから。
「確かに、俺も許せないけど」
「また、同じことがあったら大変ですもの。注意しておくに越したことはありませんわね」
そう言われて、父と会話していた時の違和感が理解できた。そうだ。俺がオリバーを殺しておかなかったことで、もう一度カミラ達が危険な目にあっていたら。そんなの後悔では済まなかっただろうに。
母と別れた後は、ひとりで考えていた。自分の中途半端さについて。
「やはり、俺は甘かったな。オリバーを殺さないという選択は、単なる甘えでしかなかった」
本当に大事なことだ。俺は、身内としての情か、あるいは殺人への忌避感か、とにかく殺しを避けていた。それが、この世界では正しい選択ではないと、分かっていたはずなのに。なにせ、悪役は殺されるゲームだったのだから。
「俺が殺したくないという感情のために、カミラ達を再び危険にさらすリスクを負っていたんだ」
俺の感情と、カミラ達の安全。どちらを優先するべきかなんて、考えるまでもないのに。
「なら、次からは殺すべきだ。みんなのために。甘さを捨てるんだ」
俺が殺さないことで、周りの人間に危険が及ぶ可能性がある。それを忘れるべきではない。
「誰かを殺してでも、みんなの平和を守ってみせる。それが、俺の誓いだ」
そうだ、殺せ。俺自身のために、みんなのために。俺の甘さのせいで、周りを危険に巻き込む訳にはいかないんだから。
「原作までも、原作の間も。必ずみんなと一緒に生き延びてやる」
どれほど手を汚そうとも、みんなと一緒に居られるのなら、幸せなはずだ。そう信じよう。
だから、これから先は、敵は殺してしまう。俺の代わりに、誰かの手を汚させないためにも。きっと、アリアやウェス、王女姉妹は殺しが嫌いなのだから。
その人達のためにも、もう迷わない。他者を殺してでも、未来をつかみ取ってみせるんだ。
―*―*―*―
ここからは後書きになります。
まず、この話で1章は終わりになります。よろしければ、フォローや星をいただけると嬉しいです。
また、同時進行で他の話も連載しています。よければ、読んでいただけるとありがたいです。
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