第30話 フェリシア・ルヴィン・ヴァイオレットの計画
わたくしは、レックスさんの幼馴染。ブラック家とヴァイオレット家は、それは良い関係と言えますわ。ですから、当然の帰結として、私達も仲を深めることになったのですわ。
レックスさんに、わたくしの炎を認められてから、レックスさんをからかうために知恵を尽くしていました。彼が困る姿は、とてもわたくしを高揚させてくれますから。
彼に、盗賊団がブラック家の領地に近づいているという情報を伝えて、その帰り。わたくしは傭兵か何かに襲撃されていました。
もちろん、軽く焼き殺したのですが。死体を検分すると、丸の中に六芒星が描かれた紋章を持っていました。すなわち、ブラック家の家紋。同時に、ダリアの花が武器に彫られていました。
状況的には、レックスさんがわたくしを殺そうとした。なんて考えるはずもありませんわ。彼は、どう考えてもお人よし。ブラック家には、似つかわしくないほどに。ですから、答えは分かり切っていました。レックスさんに罪をなすりつけたい誰かがいるのだと。
「ふむ。わたくしを殺そうとするには足りない戦力。誰の仕業でしょうかね。ブラック家の家紋があるあたり、関係者ではあるのでしょうが」
わたくしは、すぐに家に帰って、お父様に状況を報告しました。わたくしの推論は抜きに、事実だけを。おそらくは、わたくしの意見を聞こうとはされないでしょうから。
そして、新たに調査を終えたお父様の報告が、こうでしたの。
「フェリシア、レックスに近づくのをやめろ。あいつはお前を襲撃した容疑者でもあるのだぞ」
なんて、わたくしが従う訳がないのですが。レックスさんをからかうのは、わたくしの生きがい。それを奪おうとするのならば、誰だろうと許しはしません。
まあ、お父様とて、疑っているだけだろうとは思うのですが。確信しているのなら、レックスさんを殺そうとするはずですから。その時には、お父様の命はなかったのですがね。
「お断り、ですわ。わたくしが付き合う相手は、わたくしが決めますわ」
「分かるか。このダリアの紋章が。どう考えても、レックスの仕業ではないか」
そこまでハッキリと犯人だと思っているのなら、なぜ殺そうとしないのでしょうか。いくら付き合いのある家とはいえ、見限るには十分でしょうに。ですから、他の思惑があるのでしょう。知ったことではありませんが。
「知りませんわ。仮に犯人なら、わたくしの手で引導を渡して差し上げる。それだけでしてよ」
「私は、お前のためを想って……」
「ならば、レックスさんと関わる邪魔をしないでいただきたいものですわね」
わたくしの楽しみは、レックスさんをからかうことですのに。彼が困った顔をするのは、とても愉快なのですわ。
実際のところ、彼は善性の存在なのでしょう。なぜブラック家に生まれたのかが不思議になるほどに。だから、わたくしの言葉で困ってしまう。
ですが、それこそがわたくしを高揚させるのですわ。わたくしに、
彼は何度も、ブラック家の人間らしくない行動をしていました。わたくしの時も、
彼が悪を演じる理由など、簡単に理解できますわ。ブラック家は、他者を軽んじるのが当然の家。ヴァイオレット家も、同じ。そんな人々に囲まれているのですから、善人だと思われたら困るのでしょう。
だからこそ、からかい甲斐があるのです。本当は善人なのに、善き人だとは思われたくない。その矛盾が、わたくしにとってはスキなのですから。ちょっと本心を突こうとしただけで、慌てている心がまるわかりなのですから。必死で、隠そうとはしていますけどね。
「レックスさんのことですから、わたくしが襲われたと聞けば心配するのでしょうね」
彼にとっては、わたくしだって大事な人。分かりますわ。だからこそ、怒り、悲しみ、傷つくのでしょう。自分が傷ついた訳でもないのに。正直に言って、理解できませんわ。他人をそこまで想うことは。ただ、レックスさんの想いは心地いい。それは否定のできない事実なのですわ。
「ですが、そういう心配は望むところではありませんわ。やはり、からかわれて困っているのがお似合いなのですわ」
わたくしの一挙一動に、焦り、戸惑い、うろたえる。それが楽しくて仕方がないのです。
「本当に、黒幕は邪魔ですわね。わたくしは、レックスさんを困らせたいだけ。傷つけたい訳じゃありませんのに」
わたくしにとっては、レックスさんの傷つく顔は楽しいものではありませんわ。彼は、わたくしの手のひらで踊る。それが似合いなのです。他の人間に苦しめられるレックスさんは、見たくありませんわ。
ですから、黒幕をどうするかなど決まり切っているのです。当然、地獄へと送って差し上げますわ。わたくしの楽しみを邪魔した罪は、その程度で償えるものではありませんが。
「さて、どうやって殺して差し上げようかしら。もちろん、できる限り苦しめるのが理想ですわ」
焼け死ぬというのは、一説では最も苦しい死に方なのだとか。でしたら、黒幕をじわじわと焼いていって、苦しむ姿を眺めるのも一興ですわね。
とにかく、私とレックスさんの関係を邪魔するものは、誰であっても許しません。肉親であっても。だからこそ、黒幕は一刻も早く消して差し上げたいものですわね。
これからも、レックスさんをからかうために、邪魔者は殺しますわ。それが、わたくしの幸福につながるのですから。レックスさんは、殺しなど嫌いなのでしょうが。可愛らしいものですわよね。ただ他人を踏みにじることは、苦痛でなどありえませんのに。
ですが、そんなお人よしのレックスさんだからこそ、わたくしのオモチャにふさわしいのですわ。ただの悪人なんて、掃いて捨てるほど居るのですから。
「黒幕を始末したら、またからかって差し上げますわね、レックスさん」
そんな日々が待ち遠しくて、だから、すぐにでも黒幕を殺したいのですが。それでも、今は誰か分かっておりませんからね。
おそらくは、ブラック家の関係者。そして、レックスさんが邪魔な人間。そう考えれば、おのずと候補は絞られるのですが。それでも、確信にまでは至りません。まとめて容疑者を殺せば、話は早いのですがね。
とはいえ、ブラック家の人間を大勢殺せば、わたくしはレックスさんと引き離されてしまうでしょう。それは、望むところではありませんから。ですから、証拠を集める必要があるのです。
「レックスさん、わたくしの行動で、困ってくださいな。驚いてくださいな。悩んでくださいな。それだけが、わたくしの望みですわ」
レックスさんがわたくしの言葉で右往左往する。そんな光景を思い浮かべながら、わたくしを襲撃した人間を焼き殺していきました。
待っていてくださいね、レックスさん。あなたを困らせて、悩ませて、それでも、あなたを幸福に導いてあげますから。わたくしだって、あなたを大切に想う人間なのですから。幼馴染として、支えて差し上げますからね。
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