第29話 守る意志

 カミラのいる場所に、盗賊団が向かっているらしい。ということで、俺はひとりでどうするかを考えていた。


「カミラは今どうなっている? なにか状況を探る手立ては……そうだ、贈った剣!」


 俺は魔力を侵食された物体の状況を探ることができる。だから、カミラに渡した雷閃サンダーボルトの状態を探れば良い。そう思いついて、すぐに調査を実行する。


 すると、カミラは剣を振り回していた。他の剣に当たっているかのような動きもあって、焦りが抑えられない。


「明らかに、戦闘での剣の振り方だ。急いで向かわないと!」


 魔力を放出しながら、全力で走っていく。姉さんの居るソーラの森まで、すぐにたどり着けるように。だが、本来ならば数日をかけてたどり着く距離だ。全力で加速しても、1時間はかかるだろう。


 その間にも、カミラは戦い続けていた。俺は、間に合うようにと必死に祈り続けていた。バカ弟と呼んでくる相手だが、俺の剣を大切にしてくれているし、ちゃんと好意も感じるんだ。


 それだけじゃない。俺にとっては、初めて贈り物をした相手。メアリとの関係を作ってくれた人。だから、絶対に死なせたりしない。


 だが、1時間かかるということは、それだけの時間カミラは戦い続けるということだ。走りながらも、悪くなる状況を感じていた。


「やばいやばい、カミラの動きが鈍くなっている。もっとだ。もっと速く!」


 多少体が傷ついても良い。最悪、骨が折れても闇の魔力で治してみせる。そう決めて、人間の限界を超えたスピードを出していく。


 痛みが体中を襲うが、カミラを助けられる可能性が増えるのなら、それでいい。ただ一念だけを心に、全身全霊をかけて進んでいった。


 そして、ようやくカミラの状態が見えるようになる。明らかにボロボロで、今にも倒れてしまいそうだ。同時に、大勢の敵に囲まれている。


「ご自慢の雷も、道具で対策してしまえばこんなもんか」

「うるさい……すぐに殺してやるんだから……」


 声を出すのもつらそうだ。だから、何が何でも守らないと。まずは、カミラの安全を確保することからだ。


「間に合った! 闇の衣グラトニーウェア! 姉さんを守れ!」


 盗賊たちは、俺のことを無視してカミラに剣を振り下ろしていく。だが、もう防御は完璧だ。少なくとも、ただの盗賊ごときにどうにかできるものではない。


「これで、トドメだ! はあ!? 何で攻撃が通用しないんだよ!」


 盗賊は困惑しているようだが、もはや関係ない。俺としては、八つ当たりしたい心でいっぱいだった。傷だらけのカミラを見ていると、頭が沸騰しそうになる。


「簡単なことだ。俺の防御は誰にも貫けないんだよ」


 俺の言葉を聞いて、ようやく盗賊はこちらを見る。そして、醜い顔を更に歪めていった。


「お前、ただのガキじゃなかったのか!」

「わざわざ武器を持つ集団のところへ向かうただのガキが居るかよ。頭に脳が入っていないのか?」


 とりあえず、俺を狙ってくれれば良い。いくらカミラを闇の魔力で防御しているとはいえ、攻撃されるのは負担だろうからな。


「舐めた口を! 後悔させてやる!」


 剣を振り下ろしてくるが、何も通用しない。そして、俺は盗賊の集団に魔力の塊をぶつけていった。敵達は気絶していって、ついでに手足も折れていた。


「無駄なんだよ。さあ、終わりだ。今は殺さないでおいてやる。だが、どうせ父さんが殺すだろうさ」

「たかが、ひとりのガキに……」


 最後に残っていた人間も気を失って、ようやく一息つけた。カミラの方を見ると、息も絶え絶えだ。だが、呼吸を感じることによって、彼女の生を実感できるようになった。俺は、間に合ったんだな。


「姉さん、大丈夫だった? ケガだらけじゃないか。いま治すから」


 闇の魔力を通して、正常な細胞を生み出していく。クローン培養のような感じだな。ウェスの時にも、似たようなことをした。あの時の方が、規模は大きかったが。


「うるさい……あんたなんかに助けられなくても、勝てたんだから……」

「それでも、姉さんのことが心配だったんだよ」


 間違いなく、俺の本音だ。カミラが死んでいたら、後悔では済まなかっただろう。一度交流した相手が、自分の手が届かないせいで死ぬ。許せることじゃない。


「余計なお世話なのよ、このバカ弟……」

「ごめんごめん。じゃあ帰ろうか、姉さん」

「そうね。疲れちゃったわ。……ありがとね」


 聞こえるか聞こえないかくらいの感謝の言葉。それを聞いた瞬間に、苦しい思いをしながらも駆けつけたことが、全て報われたような気がした。そして、自分の体を治療してから、カミラと一緒に帰って、家族に兵を手配してもらって、盗賊たちを捕らえてもらった。


 そのあと部屋でひとりになって、一息つきつつも状況を整理していた。


「よし、なんとかカミラを助けられた。それにしても、雷に対策していた。つまり、カミラを狙っての行動だよな」


 というか、盗賊たちはわざわざカミラのいる方へ進んでいた。その事も考えると、他の可能性は考えづらい。


「誰だ。誰が怪しい。カミラの情報を知っていて、それでカミラを殺そうとするのは」


 父、兄、弟。誰もが疑わしく見えた。


 父に、娘への愛情なんてあるのか怪しい。自分にとって都合が悪いのならば、殺すことをためらわないだろう。


 兄は、自分が当主になるために邪魔になる人間を排除したそうだった。そのために、兄弟姉妹を殺そうとする可能性はある。


 弟は、盗賊への対処に手を挙げた。つまり、盗賊たちを制御できてもおかしくはない。


 誰でもありえて、だからといって証拠もない。考えはそこで行き詰まっていた。


「分からないな。もっと、情報を集めなければ。それにしても、カミラに剣を贈っておいて良かった。雷閃サンダーボルトさまさまだな」


 剣がなければ、絶対にカミラを助けることはできなかった。本当に、当時の俺に感謝したいものだ。


「とりあえず、他の誰かが襲われないように気をつけておかないと。これ以上、親しい人を傷つけさせてたまるものか」


 カミラはボロボロだったとはいえ、骨折すらもしていなかった。それでも、心が引き裂かれそうなくらい苦しかったんだ。出会ったばかりの相手に、愚かなことかもしれない。原作では悪だったのが、変わらないのかもしれない。それでも、失いたくなかった。傷ついてほしくなかった。


「何か、俺の方でできる対策は……やはり、俺の魔力を侵食させたものを持ってもらうというのが良いだろう。考えておくか」


 そうすることで、状況をつかむ上で役に立つだろう。なにかおかしな動きをしていれば、分かる。だから、守れる確率が上がるはずだ。


「現状、フェリシア、カミラ、メアリ、ウェスは持っている。後は、フィリスとエリナ、アリアだよな。王女姉妹は難しいだろうし」


 ということで、三人になにか贈ることに決めた。だが、何を贈るかで悩まされたんだよな。フィリスもエリナも、使い慣れた道具があるだろうし。杖や剣は、変えると感覚が違うからな。


「持たせるにしろ、アクセサリーのようなものが良いか」


 ということで、さっそく制作して贈った。それぞれに、花をかたどったネックレスを。フィリスにはパンジーを、エリナにはタンポポを、アリアには、あじさいをイメージした装飾をした。


「……感謝。レックスからの贈り物、良い気分」

「ありがとう、レックス。大事にさせてもらうぞ」

「レックス様、ありがとうございます。この命尽きるまで、大切にいたします」


 それぞれがそれぞれに喜んでくれて、身につけてくれた。これで、守りやすくなる。


 誰が俺の周りの人間を狙ったのかは知らない。それでも、絶対にみんなを守り切ってみせる。そう誓った。

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