第22話 リーナ・ノイエ・レプラコーンの執着
私は、
そんな日々が続くばかりで、いつしか、あるいは初めから。人生を楽しいものとは思えなくなっていたんです。お父様は、いつの日か理解者が現れるなんて言いますけど。バカげた話だとしか思えませんでした。現実が見えていない、単なる戯言。そうとしか聞こえなかったんです。
「私は、生まれてこないほうが良かった……」
ある日、つい口からこぼれた言葉がありました。そしてそれは、私の心からの言葉。誰からも愛されず、ただ居ないものとして扱われる日々に、疲れ切ってしまったんです。
お父様は味方だろうなんて言う人は、私が殺してやります。ただ口だけで慰めて、何ら解決策を打とうとはしない人の愛など、所詮は偽り。分かりきった話じゃないですか。それを、お前は愛されているんだなんて言われたら、私はその人を許さない。
幸い、私には他者よりも優れた力を持っています。姉さんには負けますけど、他の大抵の人間なんて、私の足元にも及ばない。にもかかわらず、私を無才などと言うクズの集団。それが、私にとっての人間というものでした。
「
フィリスが五属性を使えるから素晴らしいと言うのなら、私だって優れているはず。そんな理屈すらも理解できない人々に、私は何の期待もできませんでした。仮に好かれたところで、ゴミくらいにしか思えなかったでしょうね。
そんな私に、わずかな変化を与えてくれた人が居ます。それが、レックスさん。初めて出会った時には、私の才能は本物だって言っていたんです。それは、きっと適当な言葉。そう考えていたのですが。
だけど、少なくとも、私に期待しているという言葉は本当だったのだと思います。だって、彼はフェリシアさんを信じ切っていた。単なる
つまりは、生まれ持った属性の才能で全ては決まらないという言葉は、レックスさんの本心なんです。それだけで、少しは信じて良いと思えました。光属性を持っていなくても、その相手に本当に才能があると思える人だって。
それだけじゃなかった。私はレックスさんに向けて、全力の魔法を放ちました。余波だけで、私まで傷ついてしまいそうな魔法を。にもかかわらず、私をケガさせないように、体でかばってくれた。それがどれほど嬉しかったのかなんて、きっと誰にも分からない。レックスさんにだって。
「レックスさんは、私を助けてくれた。あれはきっと、体が勝手に動いただけ。そうだとしても、だからこそ、嬉しかったんです」
つまり、私を助けたいって思いが本当だったという証だから。これまで、あらゆる人からどうでもいいと思われていた私を、本気で助けたいと思う。それが、どれほどの希望になったのか。誰にも知られたくない気持ちです。
私だけが、レックスさんとの思い出を抱えていれば良い。だって、レックスさんに助けられた喜びも、感動も、全部、他の誰かに渡したくないから。私が苦しんでいた日々に、何もしなかった人たちには。
レックスさんは、私と姉が仲違いをしていれば、自分に迷惑がかかるんだって言っていました。だから、私のところへやってきたのだと。仲を深めたかったのだと。
「レックスさんが素直じゃないのは、感じるところです。でも、そんな態度も悪くない。私を好きでいてくれるのは、伝わるから」
だって、彼の目には、私を慈しむような心があった気がしましたから。自分を悪し様に言いながらも、それでも他人を大切にしている人だって、分かりましたから。
「それに、単一属性の魔法で三属性を重ね合わせた魔法を打ち破る例がある。それなら、光属性を超えることだって……」
その希望が、私にとっては光でした。いつか、全ての人間を見返すための、大きな
ですが、レックスさんは私の考えなんて、ぜんぶ吹き飛ばしてしまったんです。光魔法と、闇魔法。そして、残りの五属性。それらを混ぜ合わせた魔法を、私と姉さんに使わせることによって。
だから、姉さんを打ち破ることによって私を認めさせるという道は潰えてしまった。レックスさんが見せてくれた道だったのに。
「レックスさんは大馬鹿者です。私に希望を見せておいて、それを捨てろと言うんですから。でも、私を想ってくれているのは確か。だから、許すんですからね」
フェリシアさんは、レックスさんは私を口説きたかっただけだと言っていました。流石に、信じては居ませんけど。でも、本気で私を口説きたいのなら、それでも良いかなって思えました。別に、レックスさんに恋愛感情を持っている訳ではありません。ただ、他のゴミのような人たちとは、比べる気にすらならない。それくらいには、信じていたんです。
「それにしても、七属性を重ね合わせることができるんですか……興味深いですね」
五属性を使いこなすために努力していた私にはわかります。光魔法がどんなものか、詳しく調べていたこともありますから。レックスさんの力が、どれほど凄まじいものか。
普通は、異なる魔力どうしというものは反発するんです。それらを混ぜ合わせた魔法は、複数属性を生まれ持った魔法使いであっても、簡単には扱えない。
同時に、光属性の魔力は、五属性の干渉を防ぐことができるんです。光魔法は、魔力が尽きない限りは、他の魔法を弾き続ける。にもかかわらず、レックスさんは光の魔力と他の五属性を混ぜ合わせることに成功した。恐るべきことです。いくら闇の魔力が、他への侵食に長けているからといって、普通は実現できません。
まあ、それほどの難題だからこそ、
「確かに、協力した方が強くなれる。それは事実だと分かります。でも……」
私としては、姉さんを倒したかった。光属性を超えたかった。その思いも、くすぶり続けていたんです。
ただ、私は姉さんと和解することになった。レックスさんが、わたしを狙っていた暗殺者を捕まえて。姉さんがその男に向けた怒りは、間違いなく本物でしたから。だから、姉さんは私を好きでいてくれるのだと、信じることができたんです。
「レックスさんが暗殺者から助けてくれた。自作自演の可能性だって、ありえますけれど。そうだとしても、私の好意を手に入れようとしてくれる人だから」
真実がどちらかなんて、どうでも良かったんです。レックスさんは、私を必要としてくれている。姉さんも、私に生きて欲しいと思っている。それだけで、生きる希望が生まれていましたから。
「ねえ、レックスさん。私をもっと求めてくださいよ。姉さんよりも、他の誰よりも。そうすれば、私は自分を好きになれる気がするんですから」
レックスさんの才能は、姉さんすらも上回っています。そんな人に、必要とされる。それは、想像しただけでも、とても興奮できるものですから。実現したら、それは幸せなのでしょうね。
「でも、きっとレックスさんは私の思い通りにならないのでしょうね。そんな風に振り回されるのも、悪くないと思ってしまう。重症ですね」
私を大切だと思ってくれた、初めての人だから。だから、私を裏切らないでくださいよ。そうなったら、私はどうなってしまうのか。自分でも分からないんですからね。
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