第16話 未来に向けて

 俺はメイド達に世話を受けたり、師匠達と訓練したり、姉や妹と交流しながら過ごしていた。できるだけ、関係が壊れなくて済むように、慎重に行動しているつもりだ。


 そんな中、誰も捕まらなかったので、自室でひとりで訓練をしていた。すると、ノックの音が聞こえてくる。返事をすると、扉が開く。


「レックス様、お父上から、大事な用があるとのことです」

「わ、わたしたちも、集められるみたいなんです」


 アリアとウェスに案内されて、広間のような場所へとたどり着いた。よく考えると、自分の家なのにあまり詳しくないな。機会を設けて、ちゃんと覚えておきたいところだ。


 それはさておき、俺は父母とともに壇上へと案内され、その前には大勢の人がいた。俺と関わったことがある人も、ない人も。家にいる人間の大部分は集まっている。そんな感じがあった。


 まずは父が前に出て、堂々と話し始める。


「皆のもの、よく集まってくれた。今日この場において、闇魔法を覚えたレックスを次代の当主にすると決めた。レックスならば、良き当主となってくれるであろう」


 青天の霹靂へきれきだった。いや、急だな。俺に相談もなく、いつの間にか決まっている。恐ろしい話だ。だが、都合が良いのか? 当主になれたのなら、俺にとって好ましい方向に、家を誘導できるかもしれない。いや、次代か。そうなると、いつか分かったものじゃないな。


 なんにせよ、本当に驚いている。というか、心の準備くらいさせてくれよ。


「さ、レックスちゃん、当主としての意気込みを言いなさいな」


 母にうながされる。急に当主になるって言われて、言葉なんて用意していないぞ。まあ、仕方ない。普通のことを、普通に言う感じで良いか。というか、他に思いつかない。なぜ根回しも何もなかったんだよ。おかしいだろ。


 だが、話が進んでいるのだから、何も言わない訳にはいかない。父や母に失望されれば、俺の命も危ないのだからな。深呼吸したかったが、我慢して、堂々とした格好を取りつくろっていく。


「ここに宣言する。俺の代において、ブラック家は無類の発展を遂げるだろう。そのために、あらゆる手段を用いると誓おう」


 まあ、暗殺でも何でもって方向性じゃない。ブラック家の常識から外れてでもって意味だ。どうせ、俺以外には理解できないだろうがな。


 万雷の拍手を受けて、俺は下がっていく。すぐに会場は解散されて、家族だけが集まっていた。


「レックス、おめでとう。兄として、お前のことを誇りに思うよ」

「ありがとう、兄さん。これから、俺の力になってくれ」


 本当に力になってくれると良いが。『デスティニーブラッド』に出てこない人間なので、性格がイマイチつかめていない。原作開始時点で死んでいたのか、それとも他になにかあるのか。いずれにせよ、要注意だな。


「ま、好きにすれば? あたしは当主になんて興味ないもの」

「姉さんに負けないように、俺ももっと強くなるからな」


 カミラは、本当にツンデレっぽい動きをするな。俺にケンカを売ってきた割に、当主になることには反対しないし、お前には無理とも言わないのだから。希望的観測かもしれないが、少しでも好意を持ってもらえているはずだ。そうじゃなきゃ、もっと反発していたはずだ。


「お兄様、おめでとう。お兄様なら、きっと良い家になるよね」

「メアリが喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ」


 メアリは懐いてくれていて、とてもありがたい。俺にとって、かなりの癒やしだ。今のところは、悪人っぽい要素がゼロなんだよな。だからこそ、これから先の未来でも、ずっといい子でいてくれたらな。


「兄さん、流石だよ。僕の尊敬する兄さんだけあるよ」

「その尊敬に、応えられる当主になってみせるさ」


 弟とは、これから関係を深めていきたいな。原作では、良くも悪くも素直だった記憶がある。原作のレックスを尊敬していて、その悪事に付き合っていたんだよな。だからこそ、今の尊敬が本物であってほしい。それならば、未来に希望が持てるから。


「レックスちゃん、頑張りなさいな。わたくしも、母としてあなたを支えますわ」

「ありがとう、母さん。まだ未熟だから、よろしく頼むよ」


 正直に言って、母には警戒してしまう。原作で起こした事件の存在があるからな。自分勝手としか言いようがないのが、どうしようもないところだ。それでも、自分にとって都合のいい人間には甘かった記憶がある。そこを突けるかどうかだな。


「私の息子に闇魔法が目覚めて、どれほど嬉しかったことか。レックス、期待しているぞ」

「ありがとう、父さん。俺はもっとブラック家を大きくするよ」


 まあ、父の期待なんて、邪魔でしか無いが。すでに複数人を暗殺していて、方々から恨みを買っているんだから。そんな相手が当主として推す存在なんて、どんな悪人なんだって話だ。


 家族との会話は軽く終わって、その後は他の知り合いと集まっていた。メイドであるアリアとウェス、師匠であるフィリスとエリナ。この四人と一緒にいると、落ち着くな。


「レックス様。私はあなた様が当主になるのなら、全身全霊をかけて支えます」

「当然だ。お前の全ては、俺のためにあるんだからな。覚えておけ」


 本音では、礼を言いたいところなんだがな。俺を支えてくれてありがとうと。だが、今はメイドに感謝する姿を見せられない。せめてアリアが、悪い印象を抱いていないと良いのだが。ただの貴族なら、もっと仲良くできただろうにな。


「ご、ご主人さま。わたしは、ずっと、ご主人さまの味方ですっ」

「嫌だと言ったところで、関係のない話だ。お前は俺の道具なんだからな」


 ウェスは俺に好意を持ってくれている様子。恋愛感情だとは思わないが、助けてくれる人程度には思ってくれているのは間違いない。だからこそ、もっと優しくできたら良いのだが。俺だって、ウェスを大切に感じているのだから。


「レックス。お前がどこまで強くなれるのか、楽しみにしているぞ」

「お前だって超えて、最強の剣士になる。当たり前だろ?」


 エリナには感謝しているよ。剣の楽しみを教えてくれたのだから。その礼は、お前の剣を超えることで返すよ。師弟ってのは、そういうものだろ?


「……期待。レックスの闇魔法が、どれだけ進化するのか」

「無論、どこまでもだ。お前など足元にも及ばない魔法使いになってやるさ」


 フィリスがもっと喜んでくれるように、闇魔法を極めつくしてやる。そうすれば、珍しい魔法が見れて満足だろうさ。フィリスの興味は、魔法だけだろうからな。


 一通り皆に祝いの言葉を言われて、その後はひとりになっていた。ということで、今日のことについて、ゆっくり考えていく。


「俺が当主か。それまで、ブラック家が残っていれば良いがな」


 原作では、主人公の手によってブラック家は終わった。実際、物語では普通に悪役だったから、嬉しかったものだ。今では、絶対に避けたい未来だが。平和のための犠牲になんて、なってやるものか。


「いや、違う。俺の手で、絶対により良い未来をつかんでみせる」


 そうだな。自分で言っておいて何だが、良い覚悟だ。後ろ向きであるよりも、前向きでいたい。ただ震えて祈るより、自分自身の手で未来をつかめるように、努力したい。そっちの方が良いよな。


「メイド達だって、師匠達だって、傷つけなくて済むように」


 師匠達は、原作では敵対していた相手だからな。ブラック家を変えられなければ、彼女達は傷つくだろう。そう考えると、努力していかないとな。


「それだけじゃない。カミラやメアリ、できれば他の家族とだって、敵対しないように」


 カミラやメアリには、すでに情が湧いている自覚がある。だから、悪に堕ちてほしくない。その先の未来で、殺す未来が来ないように。


「俺だって生き延びてみせる。親しい人だって、殺さずに済むようにしてみせる」


 俺と、俺の親しい人たちで、絶対に幸せな未来をつかみ取ってみせる。何度でも誓っているが、また誓おう。絶対に、もっと良い未来を迎えてやるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る