第14話 家族として

 メアリに魔法を教えると約束して、頭の中で計画を練っていた。自分の時は、原作知識を元に適当に実行していたんだが、人に教えるとなると、ちゃんとやりたくなる。


「とりあえず、魔法をメアリに教えるのは決まったこと。とはいえ、できることならフィリスにも協力してもらいたいよな。なにせ、最高峰の魔法使いなんだし」


 という訳で、またフィリスに相談することにした。俺だって、何もしないつもりはない。それでも、彼女の協力があれば、ぜんぜん違うだろうからな。


「フィリス、俺の妹に興味はあるか? 魔法を教えてみる気はあるか?」

「……否定。でも、レックスが教えるのなら、アドバイスくらいはする」


 振られてしまったか。まあ、フィリスは闇魔法に興味があるだけだったみたいだからな。仕方ないか。メアリが闇に目覚めるのなら、話は別なのだろうが。原作的に考えて、ありえないよな。


「まあ、いいだろう。どんなアドバイスをするつもりだ?」

「……簡単。魔力の操作。レックスは感覚で実行しているけれど、コツはある」


 実際、前世で感じたことのない物だったおかげで、楽に感覚がつかめた所はあるだろうな。少しでも違和感があれば、それが魔力だったのだから。となると、メアリはすぐに魔力を操れない可能性はある。


 ということで、フィリスのアドバイスを聞いていく。内容自体はとても簡単だったが、俺には役に立たないものでもあった。話を聞いたからといって、特に魔力の操作がうまくなったりはしなかったからな。とはいえ、メアリにとっては大事な内容かもしれない。しっかりと頭に刻んだ。


 フィリスのアドバイスを受けて、授業内容は固まった。ということで、メアリの元へ向かう。


「メアリ、今日から魔法を教えていくぞ」

「うん! メアリ、五属性ペンタギガになるの!」


 『デスティニーブラッド』では、メアリは水、土、風の三属性トリキロだった。そして、後天的に属性が伸びる事例は、原作では確認されていなかったんだよな。まあ、原作でも、不可能と描写されていたわけではない。神話の時代には、属性が増えたって噂があった記憶がある。


 だから、俺の方でも、メアリの属性を増やす方法を探していきたい。可愛い妹だから、夢が叶ってほしいという思いはある。同時に、属性を増やしてやれたら、好感度を稼げるだろうという考えも。


 自分の俗っぽさが嫌になる時もあるが、生き残るためには手段を選んでいられない。少なくとも、恥ずかしいとかいう理由では。流石に、積極的に人を犠牲にする方法は嫌だが。


 まあいい。まずはメアリに魔力を目覚めさせることからだ。目の前の問題から解決しないことには、何も進んでいかないのだから。


「まずは、瞑想からだな。目を閉じて、深呼吸するんだ。そして、自分の中にある力を感じていくんだ」


 メアリは俺の言葉に従って、目をつぶってから、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりしていく。それから二十分ほど続けていたが、成果がない。


 我慢できなかったのか、メアリは目を開いてしまう。これは、難しいな。


「お兄様、分からないよ」

「なら、俺の魔力を送る。これと似たようなものを、自分の中に感じられないか?」


 フィリスから教わったことだ。外部からの刺激で、自分の内側への意識も変わるのだと。


 実際、俺の魔力は感じられている様子だった。それから、メアリはもう一度目を閉じて深呼吸していく。すぐに、明るい顔になった。


「分かったよ、お兄様! これが、魔力なんだね」

「その魔力を、動かすことはできるか? 血の流れを意識するような感覚だと、楽なんだ」


 これもフィリスのアドバイスだ。俺はすぐに魔力を操れたが、個人差がある。うまくいかない時に、血流を意識させると、比較的成長が早いのだとか。血の流れと魔力の流れは、器官が違うだけだという仮説があるのだとか。


 まあ、理由はなんでも良い。実際にメアリが魔力を動かせるかどうかだけが問題だ。そして、顔を見る限りはうまく行っているようだ。


「うん、動かせたよ、お兄様。体中を回る感じなの」

「それができたのなら、後は属性の判別だな。手のひらの上に、魔力を集めることはできるか?」

「できるよ、お兄様。こうでしょ?」


 メアリの手のひらに、三色の光が浮かびだす。俺の原作知識と同じ、三属性の光が。


「青、黄、緑か。なら、メアリは水と土、風の三属性トリキロだな」

「ちょっと、残念かも。でも、メアリ頑張る。いつか、五属性ペンタギガになるために!」


 メアリは明るい顔で、希望を見ている様子。俺も、メアリの夢に協力したい。短い期間の付き合いでしか無いが、大切な妹だと思えるようになったからな。懐いてくれているおかげだろうか。


 まあ、未来の話は置いておいて、まずは魔法を使えるようになってもらわないとな。


「じゃあ、軽く魔法を使っていこうか。まずは、色ごとの魔力の違いは分かるか?」

「うん。ちょっと冷たいのが水で、ザラザラしてるのが土で、フワフワしてるのが風!」


 なるほどな。イメージ通りではある。その辺の感覚は、闇魔法使いの俺には分からないんだよな。フィリスは個人差があると言っていたから、同じ属性だとしても、違う感覚なのかもしれないが。


「なら、そのうちひとつを集めようか。まずは、水からでどうだ?」

「分かったの。……うん、集めたよ、お兄様」


 複数属性を使えない俺には分からないが、ひとつの属性の魔力だけを集めるのって難しそうなイメージだ。そうだとすると、メアリには才能があるのかもしれないな。


「そうしたら、水になれって魔力にお願いするんだ」

「水になれ、水になれ~。ひゃっ、冷たい!」


 メアリの手のひらで、魔力が水に変化していく。驚いているメアリの顔は、いかにも子どもって感じだ。ひとつ年下とは思えないな。


「これが、水魔法の基本だ。後は、水を操っていくだけだな」

「うん、水は動かせたよ! 他のも同じなの?」

「そうだな。同じようにやれば、同じように魔法を使えるはずだ」


 それからも、土、風と、同様に魔法を使えるようになっていく。まずは、一歩目だな。いずれは、複数属性を同時に扱えるようになってもらいたいが。急ぎすぎて失敗させるのも、良くないだろう。だから、フィリスのアドバイスも貰いながら、慎重に進めていこう。


「これで、3つの属性は全て使えるようになったな。おめでとう」

「ありがとう、お兄様。お兄様のおかげなの!」


 メアリは元気いっぱいの笑顔で、俺まで嬉しくなる。やはり、仲良くしていきたい相手だ。カミラのときも思ったが、家族と殺し合う未来は避けたい。メアリは俺を慕ってくれているのが分かるから、余計にだ。


「メアリが頑張ったからこそだよ。いずれ、五属性ペンタギガになれると良いな。頑張れよ」

「うん! その時は、お兄様の闇魔法ではできないことを、メアリが手伝ってあげるの!」


 すぐに手伝うなんて発想が出てくるあたり、メアリは根がいい子なのだろうな。こんな子が歪んでしまうブラック家の環境には思うところがある。だが、急ぎ過ぎたら、メアリ自身の命だって危うくなるかもしれない。だからこそ、一歩ずつ。


 いつか、領民からも慕われるような家にしたい。それでも、まだ遠い未来の話だろう。だが、全力で突き進んでやる。カミラやメアリが、世界の敵にならないように。家族として、仲良くできるように。ずっと先の未来でも、笑い合えるように。


 メアリの笑顔が、いつか曇ってしまわないように。そう願いながら、改めて決意を固めた。

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