ピン刺し急襲! ~狙った獲物は絶対逃がすな~

んぎぃ

第1話 : 死、そして白い箱




俺こと品田雄介しなだゆうすけは、道路に倒れ込んでいた。

燦燦とした陽光が、まるで嘲笑うかのように俺を照らしている。


ついさっきの事だった。

学校帰り、俺は近くの自販機でポカリを買って飲んでいた。

今は夏、しかも今年最高気温と来た。

飲料無しでこの暑さを耐えられる奴なんて、

指折りで数えられるくらいしかいないだろう。


そうやって歩いていると、横断歩道に直面した。

普段なら気を付けていたとは思うが、暑さで頭がいってしまったのだろうか。

赤信号であったのにも関わらず、俺はポカリを飲みながら横断歩道を歩き始めた。


横断歩道の中腹辺りまで歩いた時だろうか、右からクラクションが聞こえた。

横を向くと鼻先にトラックが見え、逃げる暇もなくそのまま──。


薄れゆく意識の中で、撥ねられ道路に横たわった体をどうにか起こせないか、

そしてどうにか動かせないか、懸命に考える。


しかし体は無情にも一切動かない。

意識が薄れているせいか、考えが纏まらなくなっていく。


これは何か、高熱を伴う病気に罹った時の感覚に近い。

頭が重くなり、考えている事がぼやけていく。

体を起こそうとしても起きず、出来る限り横になろうとする。


そろそろ身体も限界か、と思った時、遠くから足音が聞こえて来た。

誰か来たのか、そう胸を撫で下ろす。

来た奴が驚いて通報でもしてくれれば、俺が助かることは無くても、

俺の遺体ぐらいは回収してもらえるだろう。


しかし足音の主 ─銀色の髪を下ろした少女─ は予想に反し、

通報する素振りひとつすら見せずに、

平然と俺の遺体に手をかざして。


「これからよろしく。」

確かにそう言った。


(今から死ぬのに『これからよろしく』ってどういう事だよ。その前にまずこいつは誰だよ。)


俺の頭はその瞬間、急激に混乱したようだったが。

身体の限界が来たのだろう。

すぐに落ち着き、そして視界が暗転していった──。




気がつくと巨大で真っ白な箱の中にいた。

さっきまでの道路も人通りは少なく、無機質ではあったが、

この空間はそれを遥かに凌駕するほどの無機質。


多分他に人でもいれば、デスゲームの会場ではないかと思ってしまうだろう。

それほどまでに何もなく、ただ白いだけの空間が広がっていた。


何故こんなところに。

俺はトラックに撥ねられ死んだはずでは。


一旦起きて立ち上がり辺りを見回すと、一人の少女が目に入る。

銀色の髪を下ろしている、見やった感じ15歳ほどの少女。


間違いない、ついさっき俺の遺体に手をかざした奴だ。

何故こんな所に俺を連れて来たのか。

もしかして治療してくれたのだろうか。


いやだとしたら病院か何かで目覚めるはず。

そもそも周りに医療器具は全くない。

治してくれたかも定かじゃない。


人間とは未知に対しとことん脆弱で、複数の見知らぬ物事を前にすると、混乱して動けなくなる。

何が起こっているのか分からずに、頭を回しながら立ち止まっていると、少女がこちらに向かってきた。


「改めて、これからよろしく。君、名前は?」


自己紹介くらいお前が先にしろ、という言葉が出そうになったが、

ここは何もかもが未知。

下手したら本当にデスゲームの可能性もあるので、慎重に行くことにする。


(『品田雄介しなだゆうすけです。こちらこそよろしくお願いします。』でいいか。

よしいくぞ──)




「自己紹介くらいお前が先にしろォ!!!」


「どうした」



口が滑った。

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