ピン刺し急襲! ~狙った獲物は絶対逃がすな~
んぎぃ
第1話 : 死、そして白い箱
◇
俺こと
燦燦とした陽光が、まるで嘲笑うかのように俺を照らしている。
ついさっきの事だった。
学校帰り、俺は近くの自販機でポカリを買って飲んでいた。
今は夏、しかも今年最高気温と来た。
飲料無しでこの暑さを耐えられる奴なんて、
指折りで数えられるくらいしかいないだろう。
そうやって歩いていると、横断歩道に直面した。
普段なら気を付けていたとは思うが、暑さで頭がいってしまったのだろうか。
赤信号であったのにも関わらず、俺はポカリを飲みながら横断歩道を歩き始めた。
横断歩道の中腹辺りまで歩いた時だろうか、右からクラクションが聞こえた。
横を向くと鼻先にトラックが見え、逃げる暇もなくそのまま──。
薄れゆく意識の中で、撥ねられ道路に横たわった体をどうにか起こせないか、
そしてどうにか動かせないか、懸命に考える。
しかし体は無情にも一切動かない。
意識が薄れているせいか、考えが纏まらなくなっていく。
これは何か、高熱を伴う病気に罹った時の感覚に近い。
頭が重くなり、考えている事がぼやけていく。
体を起こそうとしても起きず、出来る限り横になろうとする。
そろそろ身体も限界か、と思った時、遠くから足音が聞こえて来た。
誰か来たのか、そう胸を撫で下ろす。
来た奴が驚いて通報でもしてくれれば、俺が助かることは無くても、
俺の遺体ぐらいは回収してもらえるだろう。
しかし足音の主 ─銀色の髪を下ろした少女─ は予想に反し、
通報する素振りひとつすら見せずに、
平然と俺の遺体に手をかざして。
「これからよろしく。」
確かにそう言った。
(今から死ぬのに『これからよろしく』ってどういう事だよ。その前にまずこいつは誰だよ。)
俺の頭はその瞬間、急激に混乱したようだったが。
身体の限界が来たのだろう。
すぐに落ち着き、そして視界が暗転していった──。
◇
気がつくと巨大で真っ白な箱の中にいた。
さっきまでの道路も人通りは少なく、無機質ではあったが、
この空間はそれを遥かに凌駕するほどの無機質。
多分他に人でもいれば、デスゲームの会場ではないかと思ってしまうだろう。
それほどまでに何もなく、ただ白いだけの空間が広がっていた。
何故こんなところに。
俺はトラックに撥ねられ死んだはずでは。
一旦起きて立ち上がり辺りを見回すと、一人の少女が目に入る。
銀色の髪を下ろしている、見やった感じ15歳ほどの少女。
間違いない、ついさっき俺の遺体に手をかざした奴だ。
何故こんな所に俺を連れて来たのか。
もしかして治療してくれたのだろうか。
いやだとしたら病院か何かで目覚めるはず。
そもそも周りに医療器具は全くない。
治してくれたかも定かじゃない。
人間とは未知に対しとことん脆弱で、複数の見知らぬ物事を前にすると、混乱して動けなくなる。
何が起こっているのか分からずに、頭を回しながら立ち止まっていると、少女がこちらに向かってきた。
「改めて、これからよろしく。君、名前は?」
自己紹介くらいお前が先にしろ、という言葉が出そうになったが、
ここは何もかもが未知。
下手したら本当にデスゲームの可能性もあるので、慎重に行くことにする。
(『
よしいくぞ──)
「自己紹介くらいお前が先にしろォ!!!」
「どうした」
口が滑った。
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