転生しても侍 〜この父に任せておけ、そう呟いたカシロウは〜

ハマハマ

一章✳︎あの日の誓い

序「吉祥」

 王はたいそう困っておられた。


 民からの甚大な忠誠を一身に集めた名君――先王が崩御し、急遽その跡目を嗣ぐ羽目になったから。


 新王リストル四世は齢十五。

 名君と呼ばれたビスツグ四世と比し、取り留めて言うところのない凡庸な後継ぎだと言われてきたが、残念なことに当の本人もそう思っていたらしい。


 けれどそんな事はお構いなしに国民たちは、王の崩御の悲しみと新王への忠誠心とでぐちゃぐちゃになった心で泣き笑う。


 王の崩御と新王の即位。

 この二つの触れを同時に出したのがマズかった。


 この国ディンバラのがそうさせたのだが、国民たちは王城に殺到した。さながら王城を蹂躙せんとする暴徒の如くに。


 青褪めた新王とその側近たちが、もうどうにもならんとさじを投げかけたその時――


 王城三階、北側の広場へ向けて開け放たれたテラスで戦慄わななく新王リストルのさらに上空。


 ――突如として現れた光球がきらりと輝いた。


 ふわりふわりと揺蕩たゆたう様に、ゆっくりゆっくりと降下するソレは、若き新王が広げた両掌に吸い込まれる様に柔らかく落ちた。


 息を呑む新王リストルと同様、側近も、群衆も、黙してそれを見守った。


 そうしてしばし、ぱちん、と弾けた光球の中から、ほぎゃぁほぎゃぁと元気に響いた赤子の声。

 静まり返るディンバラの王城付近。


 ただ赤子のその――新王が幾らあやせども泣く――その泣き声だけが響き渡った。


 新王の両掌の上で喚く小さな赤子と、彼を護る様にして共に舞い降りた二振りの刀がリストルの両腕の上に横たわる。


 慌てて駆け寄る側近へと刀を預け、リストルは赤子へ顔を近づけ言った。


「ようこそへ。は新たなリストル。だが少し困っておる。来てすぐで悪いが……良ければ助けてくれぬか?」


 にこりと微笑んだ魔王に驚いたらしい顔で見つめた赤子は泣き止み、さながらその言葉がわかるかの様ににへらとんだ。


 それを了承と受け取り、その赤子を頭上に掲げ上げた魔王は宣した。


「我が魔王国の皆よ! 吉兆ぞ! 天も我らを祝ってくれておるぞ!」


 魔王の言葉に国民すべてが喝采を上げた。


 この世界ではは吉祥の証しとされる。


 この赤子は確かに、父も母も持たずに無から産まれた者なのだ。





 ――この物語は終わったあと、が知り得た全てのことに加えて、各人から直接聞いたことを詳細に取りまとめて書き出したもの。


 僕としては努めて硬く書くつもりなんだけど、ちょっとが緩くなっちゃうかも知れない。その辺り大目に見てね。


 では、さぁ気を取り直して。

 いざ――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る