第71話 合理的チャレンジ!

 土曜日。いつも通り星景岡のダンジョンの前にやってきた僕だが、心持ちはいつもと大きく違った。


「今日は、行けるところまで行くぞ……!」


 前にツイスタリアを手に入れてから、ダンジョンの奥へは潜っていなかった。ツイスタリアを実戦に持ち出すのは初めてだ。


「まずは恒例の、モンスター殲滅タイムといきますか」


 やることが多いダンジョン攻略だが、最初はいたってシンプルだ。

 弓を引くと、<具現化>と<五倍>の効果で5本の矢が出現する。後は手をパッと離すとーー、


 矢が自動で中のモンスターに向かっていってくれる。おまけに<貫通>の効果で、モンスターを貫いた後でも継続して攻撃してくれる。


 たった5本の矢が、まるで執事のように全ての敵を倒してくれる。こちらとしては楽で仕方ない。


「さて、そろそろ行くか」


 この方法で倒せるのは9層までのモンスターだけ。その先にいるのは次の関門だ。


「ゴオオオオオオオオオオオオ!!」


 出迎えてくれたのはゴーレムだ。相変わらずデカい。巨大な石造のような見た目は、いつ見てもとてつもない圧迫感だ。


 だが、最初と比べてその脅威は格段に落ちている。


「悪いけど、通してもらうよ」


 ゴーレムが腕を上げた瞬間、僕が放った矢で顔面を粉砕され、即座に膝を地面に突いた。


 倒すのは簡単になったけど、サイズが大きいから音がうるさいんだよなあ。なんとか

ならないかなあ……。

 とはいえ、ひとまず何事も10層は超えられたのだからよしとしよう。


「そろそろ出してもいいかな? ツイスタリアを!」


 ここから先はさっきのように普通に矢を放つのでは時間がかかる。というわけで早速だがバッグに入れておいたツイスタリアを使ってみよう!


 前に使ったときは全く制御できていなかったけど、今日は前よりも上手く扱えるようにしたい。大丈夫だ、体育祭の時にあれだけ風を吹かせて大丈夫だったんだ。


 地面に向けて狙いを定め、グッと弓を引いていく。すると、徐々に体の周りを風が巡っていく。


「くそっ、やっぱり具現化するのとパワーが違いすぎるな……!」


 ただ立って弓を引いているだけなのに、まるで洗濯機の中にいるみたいだ。地面が、空間が、まるで目まぐるしく変動しているような感覚が襲ってくるーー!


「くっ、限界か……!」


 僕は体が吹き飛ばされる直前で手を放し、矢を放つ。


 すると、ゴゴゴゴゴという音を立てながら矢が爆風を巻き起こし、床を貫通して先へ進んでいった。

 既に見えなくなってしまったが、<観測者>の力で矢がどうなったのかはわかる。ツイスタリアから放たれた矢は、爆風でフロア中のモンスターを倒し、既に12層に行こうとしている。


「この様子だと今の一発だけで19層まで行きそうだな……相変わらず使いこなせる気がしないけど」


 でも、これを使える様になったら今より格段に強くなれることに違いない。


 そんな期待感を持ちながら僕はツイスタリアの後を追うように下の層へと降りていく。

 矢は予想通り19層に突き刺さっており、その道中のモンスターを全て倒していた。…

…さて、そろそろ次の関門だ。


「もう次がバフォメットかあ、気が重いなあ……」


 以前戦ったときはあの執念深さに手を焼かされた。出来ればあの鬼ごっこはもうやりたくない。

 かといって、戦わないという選択肢はないし……となると、無茶かもしれないが、やってみるしかない。


「キメるぞ……ツイスタリアを使っての<ラショナル・ワン>を……!」


 出来るかはわからない。が、最も確実に奴を倒すにはそれくらいしかするしかない。


 僕は大きく深呼吸をし、再び弓を引いてみる。


 <ラショナル・ワン>は僕が出来る限界の威力を具現化しなければならないので、発動までに時間がかかる。逆に言えば、成功するには溜めの時間が重要だ。

 しかし、ここで問題が発生する。溜めを作ると、今度はツイスタリアの力の方が強くなってしまうということだ。


 つまり、この攻撃を成功させるには両者のバランスを上手く取らなければならない。試したことがないのでわからないが、最悪の場合はバフォメットに大したダメージを与えられず、逆に自分がダメージを受けてしまうということもあり得る。


「落ち着け……合理的なタイミングを見つければいけるはずだ……!」


 既に風は僕の体を吹き飛ばす勢いで吹き荒れている。だが、まだ手を放すわけにはいかない。全力で<ラショナル・ワン>を撃つには、まだ時間が必要だ……!


 大丈夫なのか、これ……!? もう既に腕が千切れそうだぞ!?


 マズい、体が浮き始めてる! まだ時間がかかるというのに、このままじゃ僕の体が―ー、


 ――バラバラになる!


「くそっ!」


 止むを得ず、僕は咄嗟に手を放す。すると、これまでで一番の一撃が放たれ、あまりの衝撃に僕はダンジョンの天井に数秒張り付いた。


「失敗、か……」


 もう少し体が頑丈だったらいけたかもしれない――が、これじゃ完全に消化不良だ。理想とするパワーには程遠い。

 いや、悔しがってる場合じゃない! バフォメットは――、


――


 レベルが27に上がりました。


――


「え……? レベルが、上がった……?」


 慌てて20層の状況を感知する。すると、さっきまでそこにいたはずのバフォメットの気配は完全に消えていた。


「もしかして、倒したのか……!? たった一撃で、しかも失敗したのに!?」


 本当に、どんだけ規格外なんだよ……ツイスタリア。


 僕はあまりの安心感から脱力し、その場に座り込む。

 だが、まだ終わりじゃない。今日はここから先、どこまでいけるかの挑戦だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る