第61話 合理的譲渡!

「付与される点数が全ての組で同じなら、最初に狙い撃ちされるのは間違いなく青組だ」


 入団届を出しに行ったその日、体育祭のルールを聞いた僕は比奈たちの前でそう言った。


「はいはいはい! 英夢くん、質問です! それはなんでですか!」


「比奈、考えてみてくれ。100点取るのに30分しかかからない教科と、1週間かかる教科。どちらを勉強するのがより合理的だと思う?」


「それはもちろん、30分の方だよ! 時間は有限だし、簡単に取れる方を優先するのは当たり前ーーあっ!」


 そう。青組は弱い上に人数も少ない。すぐに倒せるのに貰える得点が同じなら、赤も白も最初に潰しに来るはずだ。


 そして、現に青組の拠点には多くの敵が詰めかけている。



「よっしゃ、一番乗り! 青組の団長をやるのはオレだぜ!」


「おい! 白組の連中もいるんだ。あまり深追いするなよ!」


 最初に青組の拠点に乗り込んできたのは、赤組の2年生3人。その後に続く形で、白組の1年生も走ってきている。


「なに、別に気にすることはねえ。青組を最初に潰すのは例年15分しかかかってないらしいからな。段取りよくやれば問題ねえよ」


「おっ、さっそく獲物発見!」


 赤組の生徒はスキルで加速すると、青組の女子生徒の腕を掴み、捻り上げた。


「ははは、こいつを倒すだけで21点だ! 簡単な話だぜ!」


「ちょっと痛い目見てもらうから覚悟しとけよ。ヒヒヒッ!」


 赤組の3人組が、女子生徒に魔法を放とうとしたその時。


「……おい、ちょっと待て!」


 女子生徒の腕を掴んでいる生徒が、彼女の腕のスマートウォッチの画面を指して叫んだ。


「こいつ……1点しか持ってないぞ!」


 彼女だけではない。青組の生徒は力丸先輩以外、全員が20点失い・・、1点しか持っていない。



 これも全て作戦のうちだ。再び、入団届を出した日に戻る。



「でも、貰える点数がどの組も同じだとしたら、結局青組が狙われることには変わりないんじゃないの?」


 首を傾げる比奈に、僕は指を振った。


「さっきの話の続きに戻ろう。もし比奈が、30分で100点取れる教科の教員だったとして、生徒に点数を取らせないためにはどうしたらいいだろう?」


「うーん……テストの問題を難しくするとか?」


「それが出来れば一番いい。でも、それは出来ないんだ、問題が簡単すぎてどれだけ難しくしてもすぐ解かれてしまう。まるで青組の戦力みたいにね」


「えー! そんな条件付けられたら出来るわけないよ!」


 比奈は完全にお手上げとばかりに、空いている机の上に座って足を投げ出してしまった。


「あの……こういうのはどうでしょうか?」


 その時、黙って話を聞いていた冬香が申し訳なさそうに挙手をした。


「テストの配点を変えたらどうでしょう? 例えば満点を10点にするとか。そうすれば、その教科で満点を取ってもテスト全体の割合のごく一部にしかなりません」


「正解!」


 そう。30分で100点取れてしまう教科の問題点は、満点が他の教科と同じということ。

 だから満点の点数を下げてしまえば、むしろ他の教科を勉強した方が合理的になる。


「そんなのズルいよ! それに、その例えって体育祭に応用できないよね!?」


「いや、可能だ。体育祭のルールであるポイントの『譲渡』を使えばね」


 体育祭では個人にポイントが均等に振り分けられるが、個人が持っているポイントは、味方に渡すことが出来る。

 ただし、一人一回。個人は最低でも1点、団長は500点は持っていないといけないという縛りはあるが。



 青組は、スマートウォッチを渡されてからの準備時間10分でポイントの譲渡を行った。渡せるだけのポイントを全て僕に譲渡しているので、力丸先輩以外の青組の生徒を全員倒したとしても、55点しか手に入らない。


 そうなると、その次の展開も見えてくる。



「おい! 白組の連中がすぐそこまで来てるぞ! 思ったより数が多い!」


「……チッ、青組ザコ狩りは一旦ストップだ! 先に白組の奴らを倒して、最後に団長を倒す!」


 青組の拠点には白と赤の両方の軍勢が集まるから、徐々に乱闘のようになっていく。それに乗じて、青の生徒たちは逃げおおせるという戦法だ。


「凄い……影山くんが言った通りになってる……」


「合理的に考えればここまでは予想できる。問題はここからだよ」


 想定外はどんなことにでもある。どれだけ合理的に作戦を立てても、その可能性を完全に潰すことは出来ない。


「さて、それじゃ僕らは皆の無事を祈って……」


「見つけたぜ」


 その刹那。冬香ではない、男の声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにいたのは3人組の赤組の生徒たち。学院のジャージに3本線が入っているということはーー3年生のようだ。


「腕に青いウォッチ、ジャージには一本線ってことは……青組の1年生か」


「どうやら隠れてここまで逃げてきたらしいが、残念ながらゲームはここまでーー」


 中心に立っていたメガネの生徒はそこまで言って、声を詰まらせた。


「どうした?」


「こ、こいつのウォッチを見てみろ!」


 メガネの男が僕のウォッチを指した。他の二人も一緒にそれを見て、目を丸くする。


 なぜなら、僕のウォッチには青組のポイントの大半を意味する、『1620』という数値が表示されているからだ。


「青は頭がおかしいのか!? こんな弱そうな1年生に団長以外のポイントを全部預けたのか!?」


 思ってもいなかった事態に困惑する3人組。数秒間目を合わせた後、今度はギラリとした目で僕を見据えた。


 さて、青の皆も頑張っているみたいだし……僕も少し頑張りますか。


 前からやってみたかったんだよな、これ。映画とかドラマで見るたびに、どんなフォーム・・・・でやるかをずっと考えていたんだ。


 今、その時!


「すみませんでしたああああああああああ!!」


 僕は、3人組に向かって渾身の土下座をカマした・・・・

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