第5話 舞い降りた翼
「あなた今日は機嫌が良さそうね。何か良いことでもあったの」
「ふふ、分かるのかマーガレット」
「当然です。何年一緒にあなたと連れ添ってい ると思うの」
「早いものだな、もう20年にもなるのか」
「ええ、あっという間でしたね」
「いつも迷惑ばかりかけてすまない」
「いいえ。私は幸せですよ」
機嫌が良いのには訳がある。私は世界で唯一無二の存在と縁を結ぶことが出来たからだ。
私の名前はエドモンド・アズ・ナーブル・ライド。サンライーズ王国の辺境都市ライズで辺境伯をしている。私が治める町は鉱山資源に恵まれており、採掘、鉱物の選鉱や製錬などを主な産業としている。
金銀銅の他にも希少金属なども取れるので、採掘に従事する町の者は多い。鉱山の近くには魔の森と呼ばれる魔物が多く生息する森があり、この森の魔物達は時折森を出て来ては畑や家畜や人を襲い深刻な被害を出す。そのため町では工夫や住民を守るために冒険者達を雇い護衛や討伐を行っているため、多くの冒険者が滞在している。町には冒険者相手の店や宿、露店が数多くあり、種族を問わず様々な者が行きかい賑わいをみせている。
冒険者達はギルドから依頼を受けて報酬を得て生活をしている。護衛依頼や魔物の討伐依頼、また森に生える希少な植物の収集依頼など依頼の内容は様々だ。
ギルドは冒険者が依頼で採集した素材を買い取る。魔物の素材、薬草や鉱物などだ。買い取った素材はギルドが管理する商会で販売させるので、素材を求める商人・職人が集まり、町に賑わいをもたらしている。
中には不埒な行いをする輩もいるが、衛兵が常時交代で警備をしているため、大きな問題も起きず比較的治安の良い町だ。
先日のことだ。王都からある知らせが届いた。
「隣国で召喚の儀が行われた。しかしどうやら召喚の儀は失敗したらしい」
隣国神聖アマミナカ国が召喚の儀に失敗した。ここではいそうなのですかと話が済めば良かったのだが、調査の結果、召喚の儀は半分成功していたとのことだ。
世界に召喚はされたが、儀式の魔法陣には転移されなかったと言うことらしい。
恐らく儀式の行われた場所からはそう遠くはない所にいる可能性が高い。
王国魔法省の役人の報告を受け、この国の女王が捜索の命を下されてしまった。サンライーズ王国全土を捜索せよと。
厄介なことだ。
居るのかも分からない者を探せと命じられたのだ。私個人の考えでは、ギャンブルと同じで時間と金の無駄だ。仮に勇者が見つかったとしても、素直に言うことを聞いてくれるかも疑問が残る。
だが、王命である以上自分は従わなければならない。私は非常に想い足取りで捜索隊を編成するために衛兵達が詰める衛舎へ足を延ばした。
衛舎につき衛兵隊の隊長を務めるラインハルトに呼び出す。この男は優秀な男で腕もよく他の兵からも信頼が厚い。王女からの命を伝えて終えた後、ラインハルトから拘留者についての報告を受けた。
大通りに全裸でいる所を捕まえたという。
その全裸の男は訳のわからないことを言い、抵抗の気配があったため、武を持って鎮圧した。
ラインハルトほどの男が武を持って対応したことにも驚いたが、更に驚いたのはその全裸には、ほとんどダメージを与えることが出来なかったとの報告だ。
ラインハルトはまだ30前で心身共に精強である。隊員の中でも頭一つ抜けた存在だ。ラインハルトの前では並の男程度ならば一撃で倒されることだろう。
その全裸はラインハルトの3度にも渡る武の行使を耐えきり、何の怪我もなく自分の足でここ迄歩く頃が出来たと言う。
最後は結構本気で蹴りました。
ラインハルトはそう言うと与えられた任務に戻っていった。
俄然興味が湧いた私はその男に合って見ることにした。拘留されてから今日で4日目のとのことだ。
余計な尋問や暴力行為のないように男の取り調べや接近などは一切禁止としている。接触には注意を払い、私も自分の身分も隠して接触することにする。
牢の中にはタオルケットのみで下半身を隠す20歳前後の青年が寝ていた。
顔立ちは良い。 艶やかな黒髪で、スッと通った目鼻立ちをしている。全員が全員彼の事を美男子と言うだろう。体つきも悪くない。一瞬痩せている印象を受けたが良く見れば非常に良い筋肉質な体をしている。
どれ、魔力を調べようか。私は屋敷から持参した家宝の簡易魔力判定機マジカルルーペを身につけた。これは大まかに対象者の魔力総量を計ることが出来る。
人にとって大小はあるが、魔力は生まれた時から必ず持っていて、魔力総量も決まっていると言われている。マジカルルーペはその魔力総量を光の強弱で測定する。明るければ明るいほど魔力総量が高いということになる。
私は早速青年をマジカルルーペでの鑑定を始めたが、ここで異常事態が発生した。
今までにこのようなケースは見たことが無かった。
彼の魔力総量はマジカルルーペでは
測定不能。その膨大な魔力は、光り輝く4対の翼の形をしていた。
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