第2話 失われた危機②
西暦二千百六十二年、五月八日。
N国は突如として飛来した地球外生命体の襲撃により、絶望の淵へ立たされることとなる。
地球外生命体は両生類のような見た目のものや、巻貝のように殻を背負い触手を有するもの、中には人間と同じように二足歩行のものも居た。その全てが地球上に前例のない外見を有していた。
その化物達は火を噴き、溶解液を吐き、熱光線を放ち、あらゆる生命体を捕食し、蹂躙の限りを尽くす。無論人類も抵抗したが、未知の力とビルをも凌ぐ巨躯に苦戦し、全てを駆除し終えた時には町の二つが地図から消えていた。
未知の襲来者は『タブー』と名付けられ、その後もタブーからの襲撃は定期的に発生し、数年で人口の一割を失う大損害を受けてしまう。
この人類の危機に対し、N国はタブーの巨躯に対抗しうる巨大ロボットの開発へ取り掛かった。開発、戦闘を旨とするその機関は『SGP』と名付けられた。
最初は球体に手が生えたようなものや下半身が戦車のキャタピラになっているようなものが造られたが、最終的に人間が搭乗する都合上操作しやすい二足歩行のロボットの開発が決まる。
試行錯誤と夥しい犠牲の末に産み出された第二世代型試作機三号、通称『ライゴウ』及び第一世代型浮遊戦艦『ビッグ・ボス』が遂に襲来したタブーの群れの殲滅に成功する。それは人類の反撃の狼煙が上がった瞬間であった。
ライゴウのパイロットとトトリオンの乗組員は一躍国民のヒーローとなり、その後も数多くの戦果を上げる。そして月日が経ち、ライゴウに改良を加えられた量産型が製造されたのみならず、タブーの残骸から採取した未知の鉱石からUG機関という重力を大きく軽減する機関の開発に成功し、技術の革新も加わってロボットはより素早くかつ精密な動きが可能となった。
結果、ロボットの見た目はよりスマートになり、機能以上にデザイン性が求められるようになる。
ライゴウの開発から半世紀。今ではタブーの襲来も容易に予測できるようになり、圧倒的な科学力で造られたロボットは最早タブーなど敵ではなく、今やタブーとの戦いは国中に中継され国民の娯楽となっていた。
この二足のロボット達はいつしか『バベル』と呼ばれるようになり、人々の信望を集める事となる。
「いけぇ!マクダリオン!そこだぁ!」
どこにでも映像が展開できるホロビジョン。そこに映る深紅のロボットとタブーの戦いを子供が齧り付くように応援する。その様子を両親が暖かい目で見守っていた。
マクダリオンと呼ばれるUG機関を備えた細身のロボットはまるでホバーの様に浮遊しながら、巨大なカエルのようなタブーの周囲を縦横無尽に飛び回り、両手に握った二本のビームソードで軽やかに切り付ける。
タブーは為す術無く、ただ悲鳴を漏らし続けた。今まさに絶命という瞬間、マクダリオンは敢えて距離を取り、UG機関の出力を全開にし高速でタブーに対し一閃を放つ。
タブーはX字に切断され、夥しい緑色の体液を噴き出しながら道路に倒れた。
マクダリオンはまるで刀に付着した血を払うかのような動作でビームソードを振るうと、出力をオフにし収納する。最期にドローンカメラに向かってポーズを決めると、そこで放送は終了。スポンサー企業のCMが始まるのである。
「凄いや!さすがマクダリオン!ね!パパ!見てたでしょ!?」
「あぁ、見てたよ。カッコ良かったな!」
「でしょ!でしょ!?今度の誕生日プレゼント、マクダリオンのプラモデルが欲しい!でっかいやつ!」
「ハハハ、そうだな。でも、ゼロラグナやジークムントも強いしカッコいいぞ?」
「あ、そうだった!どうしよう、迷っちゃう……」
家族を暖かい笑い声が包み込む。
人類の危機。それは既に遠い過去。
とてつもない力を手にした人類は、例えタブーでさえも脅かす事の出来ない存在へと変貌を遂げていた。
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