第11話 人間選別

「ていうかそれ、なんだか厚みが増してない?」


「え?」


 見ると、【別天鏡】の見た目に違和感を覚えた。確かにさっきよりページ数が増しているように見える。


 パラパラと捲ってみると、確かに最後の方に見慣れない記述があった。内容は全部覚えていたので分かった。


【ウィスパリングフェアリー社が人間選別を開始。2034年11月12日、南アで156万2984人が集団自殺。2034年11月14日、日本で3519万2457人が集団自殺。特定の『ささやき』を閲覧した者のみが自殺するよう仕向ける……】


「これって……」


「あぁ。新たな予言が追加されてるな。しかも、今調べた感じだと、南アの方は死者数まで完全一致する」


 今日は11月13日。明日の日本での大規模集団自殺が予言されているわけだ。

「そうかそうか。そんな商売しているのか。あの会社は」


 俺はやっと新たな獲物を見つけられた悦びに浸る。


「気に入らんな。潰そう」


「まーた始まった」


 アルハスラは呆れたように言う。


「仕方ないだろ。俺はこうやって偉そうに陰謀を企てる奴が大嫌いなんだ。テレプシコラーのようにな」


 実際、本音だった。俺は二年間の放浪生活で、異世界の闇組織をいくつも潰してきた。だが物足りないのだ。もっとでかい、世界的な陰謀を企てている組織をぶっ潰したい。


 テレプシコラーのような奴らを、嘘と暴力で徹底的に破滅させたい。


 そう思うようになっていた。


「テレプシコラー・コンプレックスの発作だね。はいはい。こうなったらとことん付き合いますよ。私は、水魔法を好きなだけぶっ放せればそれで満足だから」


「そうか。だがお前に暴れられると目立つ。今回は使いどころなさそうだぞ」


「なっ! ちょっと、たまには私のストレス発散に協力しなさいよ! 水魔法【水槍連刃】!」


「アイオロス、防げ」


 アルハスラの水魔法が文字通り無数の槍の形となって炸裂するが、風の障壁は全てを弾き、水は横に逸れていった。


「くそっ、前みたいにぶっ飛んでくれてもいいのに……」


 とんでもない悪態をつくな。


「俺だってこの二年で強くなった。それはお前が一番よく知っているだろう?」

「そうね。厄介な詐欺師になったものね」


 ハァ、とため息をつき、アルハスラは魔力を収める。


「明日の日本での集団自殺まで時間がない。とりあえず俺は情報を集めるから、お前は待機しててくれ」


「えー、つまんな」


「現世じゃ派手に動けないんだよ。勘弁してくれ」

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