第6話 詐欺の才能

「シグニフィカティウムへ向かう海図?」


 この辺を取り仕切る海賊団、【アルゴナウタイ】の頭領に面会が許され、俺は海図を見せた。アルゴナウタイは、人身売買や武器密輸も行う悪徳組織だと聞いている。別に騙しても問題ないだろう。


「おいおい、まさかその噂、本気で信じてるのか?」


「あぁ、これは本物だ」


 俺はしれっと言い切る。不思議だ。悪人相手なら嘘をついても全く良心が痛まない。


「驚いたな。ここまでバカな地球人もいるのか」


 頭領がそう嘲ると、背後の仲間たちも一斉に笑った。


 実に不愉快だが、どうでもいい。どうせゴミのような連中だ。道端のゴミが音を立てたところで、気に留める者はいない。ましてや、それに対し怒り言い返すなど、馬鹿げている。


 だから俺は、適当に無視した。


「顔が知られていないので仕方ありませんが、ここにいらっしゃるのは聖地ルーラオムの大聖女様です」


「何言ってんだ、大聖女アルハスラ様は行方知れずのはず……って、お前が攫ったのか?」


 頭領は少し怖気づいたようだ。


 水の大聖女を誘拐するなど、常識的に考えて大それた行為だ。なかなかできるものではない。


 ん?


 いや待て。


 そんな大それたこと、やってる奴がいたな。


「お前、スカーレット・ウィンドの人間か!!」


 そういえばアルハスラ、この前まで盗賊団に捕まっていたんだった。全く、大聖女の威厳を利用しようと思ったのに逆効果だったな。海賊と盗賊の仲が良いとは思えない。ここで殺されてもおかしくないな。


「いや違う。俺はスカーレット・ウィンドから大聖女様を買い取り、助け出したんだ」


 これは真実だ。これを基に嘘で切り抜けるしかない。


「どうやってそれだけの大金を工面したんだ?」


「実は、邪龍の鱗を手に入れた。それを換金して一財産築いたわけだ」


「邪龍の鱗? 邪龍はアデオダトスに討伐されたはずじゃ……」


「俺はアデオダトスにも信頼されている。だから、邪龍の死体処理も任されたというわけだ」


 俺がそんな嘘八百を並べ立てると、一同はどよめいた。アデオダトスの信頼篤いと言っただけで、ここまでの効果があるとはな。


「あの伝説の魔法騎士様に信頼されるとは、そんなに腕が立つのか?」


「別に。俺は大したことはない。だが、俺には地球との伝手があるので信用されていた。元プライマリーアルファ社社員なんでな。ほら、これが証拠だ」


 俺はバツ印付きの入界カードを見せた。異世界のゲートを通るときに必須の通行証だ。


「なるほど。嘘ではなさそうだ。で、海図を使って何をしたい?」


「知っているだろう? 聖地ルーラオムは、五柱神の一角、【秩序】のヨハンナの拓いた土地だ。そのヨハンナ様の署名が入った海図なんだよ、これは。ルーラオムで見つかった。署名の正当性は聖女様が保証している。そこで、だ。聖地シグニフィカティウムの埋蔵資産を狙う連中に、この複製を売りつけようってわけだ」


 ゴールドラッシュ時には、採掘者向けにツルハシを売る商人が大儲けしたという。その線で一攫千金を狙ってみるか。


「なるほど。それで、まずは俺たちに売りつけて、危険な目に遭わせようってわけか」


「まさか。違うよ。【アルゴナウタイ】といえば有名な海賊だ。海軍や他の海賊どもに辟易しているだろうと思ってな。そいつらに海図を売れば、航路を見つけてくれる。見つからなくても、勝手に自滅してくれる。一石二鳥だろ?」


「もし聖地にたどり着かれて、権利を主張されたら?」


 俺は大げさなため息をついた。


「今さら何を。お前たちは海賊。無法者だろ? 権利なんて無視して奪い取ればいいだけの話だ」


 俺がそう提案すると、頭領は豪快に笑った。


「そうだな。欲しいものがあれば、権利だろうと法律だろうと無視して勝ち取る。俺たちのやり方をよく分かってるじゃないか、地球人。いいぜ、乗ってやる。買い取るぜ」


 そんなわけで気に入られた俺は、偽物の海図をばら撒き、まとまった資金を得た。聖地での略奪が成功した場合、配当金まで受け取る契約まで結べた。


 俺、案外詐欺の才能あるかもな。

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