第19話 桜庭、ボロ負けしてしまう「あたじ……し、死にたくないっ! 一緒にいさせて? いいでしょ? だってあたし、賢者だよ? いろいろ役に立てるからさ、あたしだけでも一緒に……」

「我が劫火で焼き尽くせ……ファイアーボールっ!」


 ファイアーボール——


 炎属性魔法の中では、上級の攻撃魔法だ。


 俺に向かって、デカい火の玉が飛んでくる。


「あはははっ! 死ねえっ! 湊川!」


 ついに狂ってしまったか……


 前回の迷宮攻略でも、


 恐怖に狂ってしまう奴がいた。


 唾を吐きながら、俺を罵倒する桜庭——


 もうダメだな。


 ここはブロンズナイフを使って……


 ガキんっ!


「な……っ!」


 桜庭が驚く。


 俺がファイアーボールを弾き飛ばしたからだ。


【マジかよ。桜庭の魔法を弾いたぞ……】

【あり得えねよ】

【湊川、強すぎる】


 後ろの男子たちが、驚きの声を上げる。


「どうして……? あたしの魔法が効かないの?」


 動揺して焦りまくる桜庭。


 額から冷や汗が垂れている。


「簡単なことだよ。お前は俺に勝てない」


 そう。本当に簡単なことだ。


 さっき亜美と(クソまずい)オーガの肉を食って、

 

 俺は魔力耐性を獲得した。


 さらに、俺は桜庭よりレベルが高い。


 桜庭が現れた時に、こっそり鑑定しておいたのだ。


 桜庭のレベルは10だ。


 一方、俺のレベルは21。


 2倍も以上もレベル差がある。


 桜庭のレベルが低いのは、たぶん笹山に経験値の大半を持って行かれているからだろう。


 経験値の分配は、迷宮攻略に必須。


 生き残るための、必要条件——


 桜庭も笹山も、それをわかっていないわけだ。


 ……まあ桜庭に、わざわざ解説してやる気はないが。


「桜庭……お前は俺に負けた。これ以上やると、お前が死ぬことになる」

「ぐぬぬぬ……っ! 湊川のくせに・湊川のくせに・湊川くせにーっ!」

「諦めろ。桜庭」

「クソぉぉぉ! ファイアーボール・ファイアーボール・ファイアーボールっ!」


 ファイアーボールを連射する桜庭だが、


 俺はすべて弾き飛ばす。

 

「おいおい。最後にアドバイスしてやるが、ここで魔力を使い切ったら、後でヤバいことになるぞ?」

「うるせぇっ! 陰キャ・ゴミ・クズっ! ファイアーボールゔゔゔっ!」

 

 俺の忠告を無視して、ファイアーボールを連射する桜庭。


 当然、俺はすべてを弾き飛ばす。


 桜庭の魔力が尽きるまで……


「はあ、はあはあ〜〜っ! このあたしが、湊川なんかに負けるなんて……」


 魔力が尽きた桜庭は、地面にへたり込む。


「……しばらく魔力は回復しない。モンスターに出会わないことを祈れ。じゃあな」


 (やれやれ。無駄に疲れた……)


 俺が背を向けると、


「ま、待ってぇぇぇっ! あたしを見捨てないでっ!」


 俺の足に縋ってくる桜庭。


「……見捨てるも何も、お前は俺を襲ってきただろ?」


 まったく理解できない行動に、俺は困惑する。


「あたじ……し、死にたくないっ! 一緒にいさせて?

いいでしょ? だってあたし、賢者だよ? いろいろ役に立てるからさ、あたしだけでも一緒に……」


 桜庭は泣きながら縋りつく。


「いや……桜庭は俺を追放したし、さっきも俺を殺そうとしただろ? 今更無理だよ」


 自分が勝てないとわかった途端、敵の仲間になりたいか……


 ある意味、わかりやすいというか、都合の良すぎる性格というか。


 俺も亜美も委員長も、泣き喚く桜庭に呆れる。


「桜庭さん。自分のしたこと、ちゃんと責任とろう? 湊川くんを追放したことも、さっき殺そうとしたことも、全部自分がやったことなんだよ?」


 見かねた委員長が、桜庭を諭す。


「違うっ! さっきのは気が動転して……誰ががあたしを操っていたのよ! あたしのせいじゃないっ!」


 あり得ない言い訳を並べ立てる桜庭。


 聞いていると、だんだんイラついてくる。


「あんたなんか死んじゃえばいいのよ! 委員長、優斗。もう行こう!」


 ついに亜美がキレてしまう。


 俺も同じ気持ちだ。


 あまりにも虫が良すぎるし、ファイアーボールのこともあって桜庭を全然信用できない。


「……湊川、本当にごめんなさい! この通り謝るからさ、あたしを許してっ!」


 桜庭はついに謝るが、


 ——鑑定、アクティベート。


【桜庭の本心:油断させてブッ殺す!】


 (はあ……やっぱりな……)


「今更、もう遅い。じゃあな」

「……クソっ! 湊川っ! 絶対後悔するからねっ!」



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