ショートショート

non

第1話

祐介は言った。

「俺、大丈夫だから。」

最後の力を振り絞って伝えた。声は声にならず、掠れていたが、京子には聞こえていた。祐介の手を握って何度も頷いた。涙で溢れて、顔は見えないものの、しっかりと感じられるものがあった。何か言いたいがなんと言えばいいのかわからない。ただただ、涙が止まらない。

それを察したのか、祐介は

「ほら、早く行って。」

と優しく言う。京子は涙を拭った。そして、祐介からそっと手を離した。もう二度と、繋ぐことはない。そう思うといつまでも居たかった。が、時間は迫っている。

「じゃあね、母さん。」

そう言って祐介は静かに消えていった。

辺りはいつも通りの風景に戻った。

京子は思った。血の繋がりがなくたって、かけがえのない繋がりを持つことはできる。それが世間からどんなに歪だと思われたとしても。

京子は大きく深呼吸をした。そしてゆっくりと歩き出した。その背中にはまるで、母が子に自分の生き様を見せるような固い覚悟があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る