第3幕 芋っ娘お嬢様をプロデュースするだけの簡単なお仕事

第17話 大丈夫。下だけ穿いてますよ

 ここから第3幕、天城さん改造計画はじまります。よろしくお願いします!

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 天城あまぎさんの世話を焼き始めてから3日が経過した。

 慣れというのは怖いもので、四六時中一緒にいたら緊張感も薄れていく。



「よし。完成だ」



 今日も今日とて俺は朝から天城さんのマンションを訪れ、朝食のベーコンエッグを焼いていた。完成した二人分のトーストとトマトサラダ、デザートのオレンジをダイニングテーブルに並べる。



「おーい、天城さーん。朝飯できたぞー」



 俺はエプロンを外しながら廊下の先に声をかける。

 その間に冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して、コップに注いだ。



「ふあぁぁ~い…………」



 しばらくすると寝室のドアが開き、ダボダボTシャツに身を包んだ天城さんが姿を現した。



「ふへへ。風馬かざまきゅんのあさごはん……美味しいごはん……」



 いま目覚めたばかりなんだろう。天城さんはだらしなくヨダレを垂らしながら、ヨタヨタとした足取りで廊下を歩いてくる。



「おはよう天城さん」


「おはようございましゅ、風馬くん」



 リビングに顔を出したところで、俺は天城さんと挨拶を交わす。

 天城さんは温泉に入っているカピパラのような、ゆるふわな表情で笑みを返してくれた。



(天城さんは寝起きも可愛い……)



 化粧をせずとも素顔が可愛くて、受け答えも子供っぽくて見ているだけで癒やされる。それはいいのだが……。



「まずは顔を洗ってこい。それと”下”を履くのも忘れずにな」


「下……?」



 俺が顔を背けながらそう言うと、天城さんは自分の寝間着――Tシャツ一枚に下着だけという大胆な格好にようやく気がついた。



「もっ、申し訳ありません! 急いで着替えてきますっ」



 天城さんは一瞬で顔を真っ赤に爆発させながら、踵を返して寝室に戻った。

 慌てて逃げ帰ったためTシャツがひらりと舞って、綺麗な太ももとピンク色の下着がチラリと見えていた。



「はぁ……。やれやれだ……」



 俺はため息をつきながら、天城さんの分の牛乳をコップに注ぐ。

 口から漏れるため息は、天城さんへの呆れではなくて心労からくるものだった。


 天城さんは朝が弱いのだろう。

 初日も寝ぼけて鍵を閉め忘れて風呂場で裸体を披露していた。

 俺だって今年で16になる健康な一般男子だ。年頃の女の子の裸同然の姿を何度も目撃したら、異性として意識もするわけで。



(とはいえ、手を出すわけにはいかないけどな……)



 そんなことをしたら契約を反故にすることになる。

 というか、その前に暴行とかの罪で捕まるだろう。

 だけど同意の上、恋人同士ならありか……。



「だからダメなんだって」



 俺は頭を横に振って馬鹿な考えを消し飛ばす。

 勘違いするな。バイトだから天城さんの傍にいられるのだ。

 そこをはき違えたら取り返しの付かないことになる。これからも自重しよう。



 ◇◇◇



 朝食を済ませたあと、俺たちはいつものように時間差でマンションを出た。最初は慣れなかったが3日も経てば以下略で、もはや日常の風景になりつつあった。

 下着を見せたことで羞恥心が抜けていないのだろう。天城さんは真っ赤になった顔を俯かせたまま俺の隣を歩く。



「はしたない姿をお見せして申し訳ありませんでした……」


「俺は気にしてない」



 目の保養になったからな……とは口にできず、俺は素っ気なく首を横に振った。

 すると天城さんは、どこか不服そうにため息をついた。



「気にしていないのですか……。はぁ……」


「どうした。いよいよ自分のズボラ加減に呆れてきたか?」


「うぅ……。ひどいです風馬くん。これでも頑張ってるんですよ。以前なら声をかけられても30分は起きませんでしたから」


「天城さんはもっと自分に厳しくした方がいいと思う」


「がーん……。フォローすらしてくれないなんて。もっと甘やかしてくださいよぅ」


「甘やかしたら30分が1時間になるだろ」



 千鶴さんに生活態度を改めるように言われていたのに、このていたらく。

 俺もビシッと言った方がいいだろう。



「あまりにも目に余るようだったら直接起こしに行くぞ」


「お、起きます。起きますからそれだけはご勘弁を」



 俺が脅しをかけると天城さんは慌てたように首を横に振り、両手で拝み倒してきた。

 俺は部屋の掃除を任されているが、寝室には一度も足を踏み入れたことがなかった。プライベート空間だから遠慮していたのもあるし、天城さん自身が頑なに入室を拒むからだ。部屋に入れたくない理由としては……。



「部屋にゴミを溜め込んでないよな。生ゴミがあったら悲惨だぞ」


「寝室には食べ物を持ち込まないので平気です。お洗濯物もきちんと毎日出してるでしょう?」


「だとしても週に一度は掃除しろよ。もうすぐ梅雨の時期だ。部屋を締め切ってるとカビも生える。特にベッドの下は湿気が溜まってだな」


「千鶴さんみたいなこと言わないでくださいよぅ。風馬くんから頂いたお掃除グッズや除湿剤も使ってます。対策はバッチリです」


「ならいいけど」



 必死に弁明する天城さん。それ以上突っ込むと可哀想なので俺は引き下がった。


 天城さんは俺の家事を見よう見まねで真似るようになり、進んで部屋の掃除を行うようになった。

 彼女の世話を焼くのは俺の役目だが、本人がしたいと言い出したのだ。

 無理に拒むこともできず、負担にならない程度に天城さんに家事を教えた。



(このまま教え続けたら俺の仕事も終わるのかな……)



 俺の仕事は天城さんの世話を焼くことだ。明確な期限を設けられているわけでもない。天城さんが手のかからない子になったらお役御免だ。明日の朝、突然クビを切られてもおかしくない。実に曖昧で、ふわっとした雇用契約だった。



(クビを切られたら天城さんとの関係はそこまで……か。それはいやだな)



「ぼうっとしてどうかしましたか?」


「ああん?」


「今日でお世話になって3日ですよね。毎朝訪ねてくださってありがとうございます。お疲れでしたらお休みになってもいいんですよ」


「これくらい平気だよ。気にするな」



 親身になって俺を心配してくれる天城さん。俺は首を横に振り、素っ気なくそれに応える。すると、近くを通りがかった女子生徒二人組がヒソヒソと話を始めた。



「見て。”だいだらぼっち”が芋子ちゃんを脅してる。きっと吹かして食べるつもりよ」




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