第3話 デッドorダイ○○ メイドの勧誘
メイドさんの背後からサングラスをかけた屈強な黒服たちが現れた!
「な……っ!?」
予想外の状況に思考が停止する。
俺が戸惑っているうちに、黒服たちは俺の手足を掴んで神輿のように担ぎ上げる。
廊下の奥にあるドアを開くと、「えいや」と部屋の中に俺の体を放り投げた。
「うわぁっ!?」
俺は受け身も取れず、床にたたきつけられ……。
「ない?」
衝撃が体を襲うかと思ったが、ふかふかとした何かがクッションになった。
クッションの正体は、体長1メートルほどの巨大な猫のぬいぐるみだった。
「ここはいったい……」
体を起こして周囲を見回す。
玄関から廊下にかけて、通販用段ボールや空のペットボトルが所せましと積まれていた。それだけでなく、脱ぎっぱなしの靴下、女性用下着(!?)までもが床に散乱しており足の踏み場がなかった。
「見事なまでの汚部屋だ……」
「ふふふ。この部屋の秘密をご覧になりましたね」
オートロックのドアがガチャン、と閉まる。
振り向けば、ドアを背にしたメイドさんが仁王立ちしていた。
メイドさんは玄関に置いてあったコードレスハンディ掃除機を手にして、俺に呼びかける。
「デッドorダイ○ン。清掃か死か。好きな方をお選びください」
「いきなり人を拉致って何を言い出すんだ!? 警察を呼ぶぞ!」
「ふむ……。当然の反応ですね」
悲鳴にも似た俺の叫びに、メイドさんは手にしていたハンディ掃除機を置いた。
ロングスカートの端を両手でつまみ、
「
「瑠璃お嬢様……って、天城さんのことか」
状況から考えると、このマンションの一室に天城さんが住んでいるのだろう。
「天城さんはどこに?」
「お嬢様は席を外しております。代わりに、わたくしめが用件を伝えにまいりました。風馬颯人様……。どうかこのお部屋をお掃除していただけませんか?」
「掃除……?」
状況が掴めない。俺が何度も首を傾げていると、千駄木さんは長い睫毛を揺らして涼やかに微笑んだ。
「風馬様のお噂はかねがね。綺麗好きで細かいことに気がつく気配り上手。箒を手にしたら一騎当千。あなた様が通ったあとは塵ひとつ残らないと言われている、伝説の掃除屋だとか」
「どこでそんな噂を……」
「企業秘密です」
千駄木さんは自分の唇に人差し指を当てて、色っぽくウインクを浮かべる。
千駄木さんの言うように、俺は小さい頃から掃除が好きだった。
簡単な掃除をするだけで達成感を得られるし、鏡のようにピカピカと輝いている洗面台を見ると毎日を新鮮な気分で迎えられるからだ。
みんなが嫌がる美化委員に立候補したのも、趣味と実益(内申点)を兼ねたものだ。
(だけど、”伝説の掃除屋”の噂はデタラメだ)
コワメンのせいで不良だなんだと陰口を叩かれているが、いい噂なんてひとつも聞いたことがない。
「失礼ながら風馬様の身辺を調べさせていただきました」
千駄木さんはエプロンのポケットからスマホを取り出すと、表示された内容を事務的な口調で淡々と読み上げた。
「風馬颯人16歳、私立棚橋高校に通う高校1年生。市内にて母親と二人暮らし。犯罪歴なし。彼女いない歴=年齢。現在童貞」
「童貞っ!?」
「違いましたか?」
「…………違わないです」
事実をありのままに述べられて反論できず、俺は顔を火照らせながら俯く。
女性経験がなくて悪かったな! 顔のせいで近づくだけで逃げられるんだよっ。
「ご家庭の事情も把握しております。
「……本当によく調べてますね」
千駄木さんの言う通りだった。ウチは母子家庭で決して裕福とは言えない。
そんな家庭事情にも関わらず、息子の将来のために入学金を工面してくれた。
ウチの学校は私立だ。高い授業料を払うため、母さんは何個も仕事を掛け持ちしている。
そんな母さんの負担を減らしたくて、高校進学と共にバイト探しを始めたわけだが……。
「わたくしのお願いを聞いてくださるなら、報酬として100万円お渡しいたします」
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