パズルは解かれる為にある

そうざ

Puzzles are Meant to be Solved

 ママが家に持ち帰った仕事を休日返上で片付けていると、娘が紙切れを手に階段を駆け上がって来た。

「どうしても分かんないとこがあるぅ」

 休日の昼下り、娘が突然クロスワードパズルを解き始めた。月一でF県へ出張している夫の部屋で見付けたと言う。あの人にそんな趣味があったとは知らなかった。

「そろそろ降参してネット検索する?」

「それじゃズルなんだってばぁ」

 一度決めるとかたくなになる。何方どちらに似たのやら。

「実物を見せてみて」

「それじゃ自分で解いた事にならないのぉ」

 やれやれ、何方に似たのやら。

「ママは、3文字の言葉で、2番目が『ボー』、3番目が『プ』の奴をどんどん言ってみてっ」

 ママはパソコンに向かったまま字面じづらを思い浮かべる。『○ープ』という事か。

 カープ、キープ、ケープと意味のある単語を五十音順に口に出してみる。

「テープでもないしぃ、ホープでもないしぃ、ロープでも……」

 娘も思い付くに任せて単語を並べて行く。

「その3文字は、タテの列? ヨコの列?」

「ヨコ」

「タテの列の言葉はどうなってるの?」

「それも分かんない。タテのカギは《侍みたいな言葉遣い》で4文字だって。このタテ4文字の1番目と、ヨコ3文字の1番目が同じマスなの」

 ママはいつの間にか仕事を其方退そっちのけで腕組みをしている。勿論、検索になんか頼りたくない。誰に似たのやら。

「別の角度から考えよっか。そもそも『ー』と『プ』は正しい?」

「『ー』が入る言葉は、タテのカギが《道にある穴をふさぐ》で5文字。だから答えは『マンホル』」

「合ってそうね」

「『プ』が入る言葉は、タテのカギが《BWHのHとは?》で3文字」

「スリーサイズの『ヒッ』って事ね」

 ママは頭の中にマスを並べるが、いよいよ混乱し始める。

「ねぇ、やっぱり実物を見せて」

「だからぁ、自分で解きたいんだってばぁ」

「もし分かっちゃっても教えないわよ」

 娘が渋々渡した紙には、タイトルが記されていた。『夜のクロスワード』――隅の方に、販促用非売品クーポン付き、と書かれている。

 既に埋まっているマスを見回す。ママの顔がかっと熱くなる。アワビ、チンアナゴ、ナマ、キノコ、エキベン、クリ、ムスコ、イクメン、セイカントンネル等々、どれもこれもを匂わせる言葉ばかり。《侍みたいな言葉遣い》とは『ウロウ』の事。そして、娘が探していた3文字の言葉のカギには《お風呂があるけど健康ランドじゃない》とあった。答えは『ープ』のようだった。

 ママの脳内で全てのマスが埋まる。マスの中には、AからEまでのアルファベットが記されたものがある。その文字を抜き出して並べると、『ワ』『ン』『ナ』『イ』『ト』となった。

 ここで遂にネットの出番!

 検索ワードは《ワンナイト》《風俗》《F県》!

 上位に表示されたのは『ワンナイト』というソープランド!

 名探偵ママが娘の存在を忘れて決め台詞!

「謎は全て解けたっ!!」


 頭脳も見た目も子供の娘。

 頭脳も見た目も大人のママ。

 詰めの甘さは子供でも下半身は大人のパパ。

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