第36話 ZEKKYOU体験

「あ、ゆっくりですね! これなら僕でもいけそ……うわあああああああああああ!?」


 ゆっくり動き出したのもつかの間、コースターは急に猛スピードで走り始めた。

 まるで風を切るような猛スピードでカーブを走り抜け、なすすべもなく私たちは文字通り「ZEKKYOU」した。


「きゃああああああああああああ!? なんかこれ前がああああああああああ!?」

「すごい爽快感がああああああああああああ!?」


 猛スピードの中実況するも、あまりのスピードでそれもままならなかった。

 しかしドローンカメラは私たちの素の一連の様子を、凄まじいスピードで追いかけ続けた。


『美羽ちゃんの顔やべぇ』

『2人とも絶叫で何言ってるか分からねぇ』

『楽しそう ¥500』


 コメント欄が動いているのは分かるものの、あまりのスピードで何が書いてあるかは分からなかった。

 コースターはしばらくして減速し、車止めと思われるところで止まった。


「はぁ……はぁ……これで終わりですか?」


 純ちゃんは安堵の表情を浮かべるも……このコースターはここからが本番だ。

 車止めに着いたコースターは……そのまま後ろに急発進を始めた。


「えええええええええええええええええ!?」


 純ちゃんは安堵の表情から一変、またも絶叫顔に変わる。

 ……そう、このコースターの醍醐味、逆発進だ。


「きゃああああああああああ!!」


 私もパンフレットなどで見ただけだが、実際に体験してみるとかなり爽快感がある。

 後ろ向きに強烈な風が吹き、私たちは後ろ向きのままトンネルの中へと入った。


「も、もう終わりですよね? 美羽さん? はぁ……はぁ……もう心臓が持ちません……」

「純ちゃん、残念なお知らせ」

「なんですか?」

「……まだあるよ」

「そんなあああああああああああああああ!?」


 有無を言わさず、バイクは再び急発進した。

 猛スピードでカーブを繰り返し……スタート地点へと戻ってきた。


「はぁ……はぁ……地上だ……地上だああああああああ!!」


 安全バーが外れると、純ちゃんは床に野垂れこんだ。

 もうコースターは終わったのに、純ちゃんは安心のあまり絶叫した。


『純様お疲れ! ¥1000』

『イノジュンの反応クッソ笑った ¥5000』

『純様の珍しい姿が見れてよかった! ¥10000』

『イノジュンも人間だね ¥30000』


 コメント欄の言う通り、純ちゃんの人間らしいところというか、珍しい一面が見れた。


「お疲れ様、純ちゃん」

「美羽さん……もう配信終わりじゃダメですか?」

「ダメ、これは案件配信なんだからセンテンドーランドの中を隅々まで回らなきゃ」

「そ、そんなぁ……」

「ほら立って! まだ20代でしょ!」


 私は純ちゃんを無理やり立たせ、外へと連行させた。


『流石ママ』

『まだ20代……?』

『イノジュンが珍しく項垂れてて美羽ちゃんがまともに見える』

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