第2話 イケメン男装麗人

「クソ……ダンジョン配信者め、おかげで私は明日の飯を食うのも不安だ」


 私は動画サイトを見ながらそんなことを呟いた。

 現在の同接者ナンバーワンはやっぱりダンジョン配信者、それも最近勢いを付けている「井上純いのうえ じゅん」なる女性配信者だ。

 彼女は元自衛隊員で、ダンジョンには自衛隊時代を含めて数百回も潜っているらしい。


 年齢は20代前半らしく、ボーイッシュで中性的な見た目、そしてその美貌とは裏腹に迫力ある配信で、老若男女から支持を集めている。

 男性の視聴者はその圧倒的なパワーに見とれ、女性の視聴者はイケメンが活躍する場面を遠くから見守れる……男性視聴者が多めで女性視聴者が少数派な私とはもはや比べ物にならない……こんなの勝てるわけがない。

 私はその悔しさを嚙み締めつつ、興味本位で、井上純の配信を開いた。


「それでは、今からあっちにいるモンスターを倒したいと思います! ちなみに今使ってるWebカメラは『センテンドー社』の最新ドローンカメラ! 防具一式もセンテンドー社の最新防具! 興味のある人は下のリンクから買えるから見てみてね!」


 ……ページを開くと、彼女はスポンサー企業の宣伝を交えつつ、笑顔で視聴者にこれからやることの説明をした。

 井上純……関西の歌劇団に居そうな凛々しい顔つきからなる眩しい笑顔……通りで人気が出るわけだ。

 スポンサー企業、私にもついてたのにな……。


「おりゃああああ!!」


 画面の中の彼女は己の拳と脚で、モンスターを一掃している。

 モンスターたちは煙となって消え、煙の中から宝石のようなものが出現した。


「みなさん! こんなに魔石が取れちゃいました!!」


 彼女が視聴者に向かってそう告げると、コメント欄が勢いよく加速した。


『うおおおおおおおお!!』

『かっけえええええええ!!』

『純様かっこいい!!』

『結婚して!!』

『笑顔の純様かわいい!!』


 絶賛の声の嵐……前は私がこんな風だったのにな。

 あぁもう、興味本位で開いたはいいけど、結局嫌な気分になっちゃった……観るんじゃなかったよ。

 私はパソコンを閉じ、ベッドに飛び込んだ。


「はぁーあ……私、このまま続けても仕方がない気がするな」


 世間の注目はダンジョン配信、かくいう私は時代遅れなVtuber……ここから先、食っていく術を探そうにも、私には配信しかない……。


「せめて……ダンジョン配信ができたらな」


 生身の体を原則晒せない私たちVtuberにとって、ダンジョン配信者はかなり脅威だ。

 まぁ中には生身を晒しているVtuberもいるが、そんな承認欲求丸出しの奴なんてごく少数だ。


「もういっそ……引退しちゃおうかな……」

 

 そんなことを考えながら、私は目を閉じた。

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