第7話 ギルドはパニックです
「査定を頼む。それから報告がある」
なんとか日が沈む前に街につき、ギルドに駆け込んだシンとアルクの2人は、カウンターに本日の依頼の果物を並べた。時間は止まらないが、マジックバッグに入れてきたから潰れたり傷がつくことはなかった。ちゃんと依頼書にある数もある。
「はい。確かに、プリムの実が6個ですね」
ギルドのカウンターには鑑定装置が付いていて、不正ができないようにされている。ギルドカードと依頼の品をカウンターに乗せれば、自動的に鑑定され、依頼が達成されればカウンターの中にいる受付には、その持ち込まれたアイテムの状態がわかるようになっている。当然、品質がよければプラス査定だ。
「品質がAランクでしたのでプラス査定がつきました」
「マジかよ」
思わずシンが声を上げた。何しろプリムの実はダンジョンにいたゴーレムが銅貨3枚で売ってくれたものだ。今回だけ特別と言っていたから、シンとアレクがダンジョンに潜っているうちに用意されていたのだろう。なにしろ、名乗ってもいないのに名前がバレていたほどだから。
「どうぞ」
シンのつぶやきなんてスルーして、受付嬢は依頼達成金をカウンターに出してきた。トレーに乗せられて、支払金額がちゃんとわかるようになっている。
「どうも」
シンとアレクは半分ずつを受け取ると、カウンターに乗り出して、受付嬢の耳元で囁くようにいった。
「ダンジョンを見つけた」
受付嬢は表情を変えずに備え付けのベルを鳴らした。すると、2階からウェーブのある赤みがかった金色の長い髪をした年齢不詳の女性がやってきた。
「Cランクのシンとアレクか……来な」
カウンターの扉が開かれ、中に招かれた2人は、周りからくる視線を気にしながらも、案内された2階へと上がっていった。
「随分と小綺麗だな、とても街の外で依頼をしてきたとは思えんほどに」
部屋に入るなりシンとアレクにかけられた言葉には棘があった。それはそうだろう、2人が請け負った依頼はプリムの実の採取という一件簡単そうな依頼である。
だが、実際は違う。なぜなら、プリムの実は森のやや深いところでしか採れないからだ。街道から外れ、木々をかき分けて奥に入ると見つけることができる。他の木にツタを絡めて上へと伸びたところに薄紫色の実をつけるつる性の植物なのだ。だから、探すときにはだいぶ上の方を見なくてはいけない。そのため、足元がおろそかになり転ぶことが多い。しかもプリムの実がなるツルは、なかなか頑丈で、簡単に切れたりはしない。おまけにしっかりと寄生した木に根をはるので下から引っ張っても取れないのだ。
そのため木に登らなくてはならないから、服に木の皮や枯葉がつくはずなのに、シンもアレクもとても綺麗な服を着ていた。
「ダンジョンに潜ったからな」
シンはニヤリと笑って答えた。プリムの実はちょっとズルをしたかもしれないが、ギルドの査定にはひっかからなかったから不正ではない。服が綺麗なのは、ダンジョンの前にあるゴーレムが営む宿屋で洗ってもらったからだ。
「なるほど、それで、証拠は?」
そう言われて2人はマジックバッグから、ダンジョンで手に入れたアイテムをテーブルに並べた。ポーションに短剣、それからちょっといい服に数枚の銀貨、それから小さいけれど鉱石の塊。
「これは……」
鑑定眼を持つギルドマスターが息を飲んだ。間違いなくダンジョン産で、本物だった。
「それからこれも、な」
2人はギルドマスターにゴーレムから渡されたカードを見せた。そこには名前が記されていて、潜った回数とポイントが表示されている。まるでギルドカードのような作りに、ギルドマスターの喉が鳴った。
2人からの説明を受け、ギルドではダンジョンを調査する調査隊が組まれた。もちろん緊急依頼という形でダンジョンに潜る冒険者を募集した。新しいダンジョンとあって応募が殺到したが、信頼と実積を考慮してBランクのパーティーとCランクのパーティーが選ばれた。もちろん、シンとアレクは案内人として参加する。
「では、出発」
ギルドマスターが合図を出すと、調査のための職員と冒険者を乗せた馬車が動き出した。なぜだか今回は、ギルドマスター自らが参加する異例の事態となっていた。そのため、冒険者たちは、どんな危険なダンジョンが出現したのかと見送りながら噂しあった。
「それで、この街道を進むとなぜだか途中で道が分かれているのだな?」
御者台に座り道案内をさせられているのはシンだ。流石に狭い御者台に何人も座ることができないので、御者を挟んで座っている。間に挟まれている御者もギルドの職員だ。元Dランクの冒険者でそれなりに腕が立つ。
「歩いて3時間弱だったと記憶してるよ」
「馬車なら半分程度か」
何しろ馬車の荷台には20人ほど乗っているから、二頭立て馬車だがそんなにスピードは出せないでいた。冒険者たちの装備もあるし、野営のための荷物もある。ただ、本当にダンジョンの目の前に宿屋があるのなら、これらは使わなくていいことになる無駄な荷物ということだ。
「あそこだ」
分岐点に立っていた看板を見つけたシンが前方を指差した。緩やかに道が枝分かれしているのではなく、いきなり横にそれる道ができていた。街道とほぼ同じ道幅でそこから木の柵で囲われていた。
「随分と立派な道だな」
ギルドマスターが辺りを注視するが、怪しいものはなにも見つからない。それどころか、魔物の気配さえ感じられなかった。
「な、なんだと」
馬車が緩やかなカーブを経てたどり着いた所には、平らな広場に石でできた門があった。そうして確かに宿屋のような建物もある。
「おお、着いたぞ」
シンが御者台から飛び降りると、ギルドマスターの制止も間に合わない勢いでアレクも荷台から降りてきた。驚きすぎて荷台の上で棒立ちになっているギルドマスターの視界に、突如として一つ目のゴーレムが現れた。
「な、な、な、ゴ、ゴーレムだと」
思わず身構えるギルドマスターに、ゴーレムは丁寧にお辞儀をした。
『ようこそーダンジョンにーだーんたーいさまでーいらっしゃーいまーすーかー』
「え?あ?な、なんだって?」
驚きのあまり答えられないギルドマスターに代わり、シンが答えた。
「おう、また来たぜ。総勢20人ってとこだな」
『こーれはこーれはーさーいらーいてんーあーりがとーがーざいまーす』
ゴーレムはそういうと、馬車の荷台から降りてくる人数をちらりと確認して、シンとアレクに向き直った。
『おーとーもだーちしょーうかーいせいどはー10にんでーけいひんぷーれぜーんとでーす』
そういうと、なぜかゴーレムの手にはシンとアレクのカードがあった。そこには人型の模様が10個ずつ並んでいた。
「と、友だち?」
「紹介?せいど……って言ったか?」
戸惑う2人にゴーレムは意気揚々と説明してきた。なんだかよくわからないシステムだが、なにかをくれるというのなら、ありがたくもらっておくのが冒険者だ。
『あるじーとーくーせいのークッキーかーポーションになーりまーすどちらにーなさいますかー』
そう言って見せられたのは、よく見るポーションの瓶と、見慣れ茶色の袋だった」
「おい、クッキーってのはなんだ?」
聞き慣れないに言葉にアレクは尋ねた。
『おおークッキーをしーらなーいのでーすねークッキーとはーこむぎこでーつーくったーあまくてーさくさくとーしーたーおかしでーす』
そう言ってゴーレムは袋の中身を2人に見せてきた。香ばしくて甘い香りが2人の鼻をくすぐった。何より、お菓子だなんてそうそう平民の冒険者が口にできるものではない。なぜなら、甘味である砂糖がとても貴重だからだ。
「「そ、それをくれっ」」
2人が同時に返事をすると、2人の手には茶色の袋が握られていた。2人は顔を見合わせると、袋の中から一つ取り出し口に運んだ。
「「う、うめえぇ」」
最初の一つを飲み込むと、すぐに二つ目三つ目と手が伸びる。だが、そこで2人はものすごい人数に見られていることに気がついた。
「「だ、ダメだ、やらないからなっ」」
2人同時に叫んで、マジックバッグにしまい込んだ。
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