神様不在の世界で俺は何をすればいいのでしょうか?
ひよっと丸
第1話 ダンジョンに落とされました
「えっと、ここはどこだ?」
何も無い空間。周りに誰もいなければ、天井も床もない。
「異世界転生モノだとテンプレなんだけどなぁ」
辺りをキョロキョロと見渡しても、やはり何も無ければ誰もいない。この空間に一人で存在する羽目になったのは
そんな高橋の趣味は作る系のゲームだった。街をつくったり、国を作ったり、ダンジョンを作ったりするゲームにはまっていた。オフラインでコツコツと作ったものを、オンライン上にアップして、世界中のユーザーに遊びに来てもらい、そして評価をもらう。高橋は、特にダンジョン部門で世界的に高評価を得ていたプレイヤーだった。
「テンプレならそろそろ神様とかが出てきて解説してくれるんじゃないの?」
よくあるラノベ系、ネット小説のお約束を期待したけれど何も起こらなければやはり、誰も出てこない。一応立ってはいるけれど、真っ白すぎて床も天井も未だに確認できていなかった。
「誰かいませんかぁ、そろそろ解説お願いします」
なんて言葉を口にした時、目の前にポワンと画面が表示されたのだった。
「おおおお、お約束のステータス画面……じゃなさそう?」
映画で見るような半透明の画面に横書きで並ぶ文字を目で追えば、そこに書かれているのが自分のステータスなどではなく、取り扱い説明書であることに気がついた。
「最近パッケージ買いなんかしてなかったから、取説懐かしいな」
そんなことを呟きながら画面をスクロールし、全てを読み終えると、高橋は無言になった。なぜなら自分の身に起きた現象をしっかりと把握してしまったからだ。長々とした取り扱い説明書の形をしたいわゆる前書き、そこに書かれていたことは、たしかに異世界モノのお約束だったりテンプレだったりが書かれていて、これから自分が何をするべきなのかも書かれていたからだった。
「神さま手抜きすぎん?」
自体を把握して、別段騒ぎ立てる気にもならなかった。お約束で自分は死んでいた。爆発事故が起きて、その爆発に巻き込まれたらしい。で、爆発のエネルギーが豊すぎて、次元の狭間に飛ばされてしまった。という解説が書かれていた。だから、ここまでは理解した。つまり、元いた世界で高橋の体は骨も残っていないということなのだろう。そんなわけで異世界に転移してきたらしいが、次元が違うためいきなり外界に出るわけにはいかないらしい。気圧なにか重力なのかが地球とだいぶ違うと解釈しておこう。
「ダンジョンコア?」
そう高橋がつぶやくと、半透明のモニターの先に、白っぽい球体が現れた。
「お、おおおおお」
ダンジョンコアが現れた途端、高橋の足元に床ができ、3メートル程頭上に天井も現れた。
「ここがマスタールームってことか」
なんて理解しつつもただ空間ができただけで、30人ほどが作業できそうなオフィスといった広さだった。これはまさしく生前高橋が遊び倒した作る系ゲーム、しかもダンジョン作成とほぼ同じである。
「やっぱり机が欲しいな。司令官っぽいやつ」
なんて頭にアニメで観たサングラスをかけた司令官が座っていた大きなデスクを思い描けば、ほとんどそっくりな机と椅子が現れた。
「おおおお、すげえ。さすがはダンジョンマスター」
椅子に座り、半透明のモニターを正面において、左手側にももう一つモニターを出した。
「いきなり巨大な迷宮とかは無理だから、10階層ぐらいのから始めてみるか。で、5階に中ボスで各階層には脱出ゲート設置、と」
高橋が口にしたことが箇条書きでモニターに表示されていく。一階には弱めの敵。RPGのお約束スライムに見た目は可愛いツノうさぎ。見通しのいい草原のエリアにして、浅い川を一本流す。ちょっとした岩や木を配置して、その影に宝箱を置く。1階だから中身は銅貨2、3枚かポーション1つほどにしておく。近寄らなければ襲ってこない巨大なスライムを3体ほど配置してそいつのそばに金貨が入った宝箱を置いてみた。金貨は日本円で10万円程だから、1階で入手できればぼろ儲けではある。だが、2メートル近い巨体なスライムがそばにいて、近づけば攻撃されてしまう。ランクが低い冒険者にはきついだろう。しかも、巨大なスライムは自己回復スキル持ちだから、戦闘が長引けば冒険者が不利になるというわけだ。冒険者としてランクの高い、つまりスキルのレベルが高くなければ金貨の入った宝箱を開けることはできないという仕組みだ。
「2階は迷路にしよう。ちょっとしたトラップを仕掛けて、落とし穴で3階に落ちたら面白いかな。ゴブリンを配置して、モンスター部屋はゴブリンの集落って事にしよう。群のリーダーが隠しボスだな。全滅したらゴブリンのお宝ゲットだ。一直線に走り続ける猪の魔物を置いておこう。宝箱の番人ガーコイルは顔を向けていれば動かない……」
高橋はダンジョンの階層ごとの設定をどんどんモニターに並べていく。砂漠設定した階層にはメイド姿の売り子を配置して、暑さをしのぐクーラードリンクと、寒さをしのぐホットドリンクの販売をさせる。もちろん飲まなくてもなんとかなるが、体力が奪われるから飲んだ方が安全だ。価格も銅貨1枚千円ほどに設定しておいた。
「10階のラスボスはバトルホースにしてみよう。大きさは象ぐらいでいいかな?皮膚は硬くしよう。いななくと雷を落とす設定だ」
中央のモニターに映し出されるのはお勧めのモンスターだ。色がついていなから高橋が好きな色に塗っていく。この世界に実在するモンスターと色が違っていて全く問題はない。なぜならここはダンジョンだから。
完全に高橋は生前遊んでいたゲームの世界に転生したのだと解釈して作業を続けた。オフラインで作業をして、完成したダンジョンをオンライン上に公開する。
「よし、いい感じじゃないですか」
設定の出来上がった10階層のダンジョンをモニターで確認する。誰かが攻略するまでリセットされることはない。ラスボスが倒され、攻略者がドロップアイテムを手にして転移門をくぐると、その時点でダンジョン内にいる全ての冒険者は強制的に排除される仕組みだ。そうしたら、また高橋が設定を終えるまでダンジョンは閉じられる。ダンジョンコアを誰かに破壊されたら、高橋のダンジョンマスターとしての人生も終わりとなる。
「あとは入り口だな」
入り口を考えていると、右側にもモニターが出現した。そうして、モニターには『監視者を設定してください』の文字が現れた。
「監視者?入り口の?管理人みたいなものかな?」
色々考えて、高橋が思い描いたものは、一つ目玉の石でできた人形だった。ただしサイズは小さく、90センチほどに設定した。モニターに完了の文字が表示されると、鬱蒼とした森が映し出された。そこには一体の石人形が立っていた。程なくしてモニターが二分割されると、そちらにも石人形が映っている。動き始めれば左右の画面は違う景色を写し始めた。
「二体いるのか」
どうやら石人形は二体いて、辺りを警戒するように動き回っている。チラチラと見えるのは小型の魔物のようだ。
「ダンジョンの入り口は石の門にしたいんだよな」
鬱蒼とした森の中に現れた石を組み合わせてできた石の門。そこに二体の石人形がたたずんで、訪れた冒険者をダンジョンに案内する。高橋の頭に浮かんだのはそんな光景で、だからこそ、石の門が設置される場所は少し拓けていなくてはいけない。
「石人形?」
なんと呼び掛けたらいいのか分からずみたまんまで呼びかければ振り返れば互いを見つめるようにしてくれた。
「そこにある木を少し切って小さな広場にしてくれないか?」
言葉が伝わるのか分からないので半信半疑で口にしてみれば、左側のモニターに指示が箇条書きに表示された。
『了解です』
ピシッと敬礼をするような仕草をして、二体の石人形が動き始めた。何をどうしているのか分からないが、辺りの木がどんどん切り倒され、切り株が抜かれ、土地が平らになっていった。そうして左側のモニターに、高橋が思い描いた石の門が『どのように配置しますか?』と表示されていた。
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