第10章 終活編

第37話 公害

「後は広げていくだけね」

「うん」


僕とママの苗床の候補地は山岳の赤の領地の遊水池周辺に決めた。

自らの木が大きくなるには周辺に木が密集していてはならない。だから古木を切って材木にしたり、まだ若い木は植樹を行って領域を広げておく必要があるのだ。特に僕達は居大樹の苗床になろうとしている。だからとても大きな領域を作っておく必要があった。ママが死んだあと150巡は僕がママの木を大きくし飛び蜥蜴の一部を移住させ住み着かせる。僕が死んだあとは僕とママの木をナツに大きくして貰えば飛び蜥蜴の一部が僕の木に住み着き始めるだろう。森には多くの生き物が生息して居るので僕とママの木の周辺に集まってくれるようになれば飛び蜥蜴が捕食し、それを栄養として僕とママの木をどんどん大きくしてくれるだろう。あの巨大樹の大きさになるのにどれほどの時間がかかるか分からないけれどいつかは木の根や枝葉が重なりあうぐらい大きくなってくれると思っている。そうなれば地面は影に覆われて大きな木は生えて来なくなる。そうなれば僕とママの木は隣り合う様になるはずだ。


「ここは良い場所よね・・・」

「うん・・・領地として貰ってよかったよ」


僕の死後もここを下手に開発しない状態を維持する為に総産業組合に溜まり続けた基金を作って保護して貰うようにしている。僕の苗床の候補地だという事は伝えているため僕が山岳の赤に尊敬されている間は維持してくれるだろう。


山岳の赤は経済発展と共に技術発展が進んできている。蒸気機関が発明され鉱山開発が一気に進み始めたのだ。その弊害により大気汚染や鉱毒が河川に流れるという公害が問題になり始めている。水生の生き物が大量に死んだり、森が枯れてしまったり、畑の作物を食べた人が体調を崩したり。それらの原因を人は気が付きながらも、一度手に入れた利便性を手放す事は難しい。確実な証拠が無いため抜本的な対策がまだ出来ずに一部の学者が調べているだけだ。学校設立基金管理組合と孤児院乳児院設立基金管理組合と製薬組合と医術組合が過剰な鉱山開発や工場の排水や排煙に警鐘を鳴らして居るけれど鉱山組合や鍛冶組合が反発して居るのが現状だ。

1回目の生でもそういったものが問題になってから解決策が見つかるまでには長い時間を要した。その間に多くの人が辛い目にあったし、1つを克服してもまた新たな問題が発生する事の繰り返しだった。山岳の赤はそれを繰り返していくしかなくなる時代に突入し始めたんだと思う。

川の上流下流問題も出ている。鉱毒で汚染した水は森林の白や密林の黒や草原の緑の方に流れていっているからだ。これらの解決はさらに長い時間がかかるかもしれない。部族間の争いになる可能性もある。ベムである僕は解決策が分かるけどそれを教える事が出来ない。だから静かにそれを見守り続けるしか無かった。

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