第32話 草原
「主に放牧してるって聞いてたから、柵に囲った土地で飼育でもしてる人が多いんだろうと思ってたよ」
「草原の緑の人は入居ごと移動しながら生活するらしいからね」
「平原というぐらいだから真っ平らだと思ってたよ」
「少しぐらいは昇り降りはあるみたいだね」
「この丘は少し傾斜が急だね」
「越えてしまえばしばらく下りがつづくでしょ」
「方向はあってるの?」
「多分ね」
「適当なんだぁ!」
「良いじゃ無いか時間はいっぱいあるんだから」
「うん・・・」
娘が何か少し言い淀むような返事をした。何か気になる事でもあったのだろうか?
「パパ・・・」
「なんだい?」
「私1回だけで良いからパパの子を産みたい」
「えっ?」
「産んじゃダメ?」
「今からすぐ作るの?」
「ううん・・・でもママがまだ生きている間じゃないとパパをひとりにしちゃうから・・・」
「そうか・・・ありがとう・・・」
草原の緑が多く住んで居るという平原を娘と二人で歩いている時に突然そんな事を言われてしまった。
現在娘は348巡で僕が448巡でママが607巡。妊娠出産子育ては平均的に160巡程度時間がかかる。ママの寿命が1000巡だと仮定すると230巡と少しの間に考えないといけないって事になる。
「どこで育てる?」
「パパとママと一緒に育てたい・・・」
「外で暮らさないんだね?」
「ずっと一緒だって決めたから」
「子供も森林の白では暮らせなくなるかもしれないよ?」
「うん・・・」
「わかった、ママと相談してみよう」
「うん・・・ごめん・・・」
「どうして謝るの?」
「ママが私を育てて居る時パパは頑張ったけど辛そうだったって聞いていたから・・・」
「それは僕が悪いんだよ。森林の白の立派な男になり切れ無かったのは僕なんだよ」
「パパを苦しめるかもしれないけどどうしてもパパの子が欲しいの・・・」
「嬉しいよ」
「ありがとう」
娘は僕の胸に抱きついて泣いていた。僕は娘に抱きついて言わなければならないと思うことを言うことにした。
「僕はね・・・」
「うん・・・」
「君が出来た時からママの気持ちが僕から離れていって寂しく感じてたんだ」
「うん・・・」
「でも一度も君が出来て嫌だと思った事は無いよ?」
「うん・・・パパが私を可愛がってくれてたのは今でも忘れてない・・・」
「君がエレメントを初めて使役した日に僕は二人と別れる日が近いことを悲しいと思った」
「うん・・・」
「だけど一度も目から涙を零さなかったよ」
「うん・・・」
「僕はベムだ・・・」
「うん・・・」
「だからあまり森林の白の男らしく無いかもしれない」
「うん・・・」
「それでも僕は森林の白の男なんだよ」
「うん・・・」
「僕を君の子供のパパにしてくれないか?」
「うんっ!」
娘がスキップ気味に走り出し稜線の向こうに消えた。僕も少し早足になって稜線を越えると娘が立って待っていた。娘の隣に立つとパァっと視界が広がった草原の先に点々と何十という移動式住居があって、何百という家畜がその周りで草を食んだり頭のぶつけ合いをしていた。
「すごいね・・・」
「すごいもんだ・・・」
「いこっ?」
「あぁ!」
僕と娘は1番手前にある移動式住居に向かってなだらかな下り坂を走り出した。移動式住居の持ち主らしい草原の緑の男性は家畜の乳搾りをし、近くにいる女性は赤ん坊を抱っこしてあやしているようだった。
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