第5章 山岳放浪編

第17話 山岳

「こんにちは」

「森林の白の方が来るのは珍しいね、何か用事かな?」


村の門が見える位置で出会ったのは赤髪のズングリとした体型の髭面の男だった。目はつぶらで団子鼻で森林の白とは随分と見た目が違っていた。


「こちらは山岳の赤の方の集落で間違いありませんか?」

「あぁ・・・ここから先は山岳の赤の集落しか無いよ」


ここが山岳の赤の中で1番麓の街ということなのだろうか?


「ここから先の事を教えて貰いたいと思いまして」

「なるほど」

「教えていただけるのでしたら持参したお酒を謝礼でお渡しいたします」

「何?酒だと?」

「謝礼の酒が気に入ったなら持参した残りの分のお酒と村の産物を交換致しますよ」

「それは願っても無いことだ、是非立ち寄ってくれ」

「はい」


山岳の赤が酒に目がないというのは間違い無いようだ。

村に入ると8件ほどの地面に立ててある建築物がある集落だった。村の1番奥の少し離れた建物から湯気が出ているので仕事の煙か何かなのだろう。その奥に大きな洞窟らしい穴が見えるので坑道で、鍛冶でもしているのかもしれない。

僕は村の入口で会った男に誘導されて、村で周囲より少しだけ立派な家に案内された。


「村オサ!森林の白の方が酒を持って訪ねて来たぞ!」

「何だとっ!」

「何ですって?」


案内の男はノックもせず家の扉を開け叫ぶと奥から案内の男と見分けがつかない程似たような姿の人と、ズングリしたところは似ているけれど胸部に膨らみがあるので女らしい髭面の人が家の奥からドスドスと音を立て駆けて来た。山岳の赤種族は男女共に体毛が濃いようだ。


「酒を持って居ると言うのは本当か!?」

「えぇ、ここから先の山岳の事を教えて頂ければお近づきの印に1壺お譲りいたします。」

「おお!」

「またおお酒をお気に入りのようでしたら残りの酒の壺も村の産物と交換も致しますよ」

「本当かね!?」

「えぇ」

「最近ここから先の道が土砂崩れで通れなくなって物流が止まって大変だったんだ、それだけならまだ良いが酒も切れそうになってて困ってたんだよ」

「それは大変でしたね」

「数日後には復旧するので大事ではないんだが酒の量を減らさなけれならなくて仕事の効率が落ちていたんだよ」

「そうでしたか」

「道が復旧するまで先は進めんのだし、その間は村に滞在するといい、森林の白の方が気にいるか分からんが温泉もあるしな」

「温泉ですか!?」

「おっ?知っているのか?」

「えぇ、とても好きなんです」


まさか温泉があるとは思わなかった。もしかして1つの建物から出ていた湯気は源泉か何かだったのかもしれないな。


「物流が滞っているので大した持てなしは出来んが、夕方には歓迎の宴を開こう、その頃には道の復旧に当たっている奴らも帰ってくるのでな」

「ありがとうございます」

「そういえば森林の白の方は肉を食べないんだったよな?」

「はい」

「物流の関係で肉は少ないが、茸や山菜が豊富だ、森林の白の方を歓迎するには丁度いい宴かもしれん」

「それは楽しみです」


むしろ自分にとっては好都合なタイミングだったのかもしれない。


「せっかくだし先に温泉に入って頂いたら?どうやらお好きなようですし」

「それもそうだな、おい、案内頼めるか?」

「勿論!」

「では先にお約束の酒1壺とこちらは温泉と宿と宴のお酒2壺をお渡しいたします、全部違う種類の酒ですので、宴の時にでも飲み比べてみて下さい」

「あら!」

「おお!」

「なんと!」


背負子をおろして荷解きして巨大樹の実、アプ、カラから作った蒸留酒の入った壺を1つづつ村オサに手渡す。3人のつぶらな瞳が大きく見開かれ爛々と輝いて居る。


村オサの家の客間を宿として提供してくれるそうなので、背負子はその部屋に置かせて貰った。


「お客人は気前が良いな」

「そうですか?」

「こんな何も無い村に数日泊まったぐらいであの謝礼は多いぞ」

「お酒を飲んで陽気になればとても仲良くして貰えそうでしたから」

「ガハハハ!お客人は山岳の赤の事をご存知のようだ!気に入ったぞ!是非仲良くしよう!」

「はい」


案内された温泉は煙の出ている建物では無く、その奥の洞窟にあった。採光用兼換気用の穴があったけど少し薄暗かった。火のエレメントを使役して火を灯すと奥までとても広い範囲にお湯が溜まっている事が分った。川の水を引き込む仕組みがあるので温度が高ければそれで冷ますのだろう。


「大きいですねぇ」

「お客人は魔法が得意なんだな」

「えぇ、森林の白なら大概は得意だと思いますが」

「前に来た森林の白の方は、あんなに奥まで魔法をコントロール出来なかったが」

「そうなんですか、僕はまだ母から独立したばかりで、他の人は良くわからないんです」

「まだ結構若かったんだな」

「まだ150巡にも満たない若造ですよ」

「そういえば森林の白はとても長生きだったな」


そういえば山岳の赤の種族は200巡から250巡が寿命だったな。150巡というとそれなりの年配の扱いになってしまうかもしれないな。


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