第11話 総副団長補佐エイベル
「会うことはできますか?」
侯爵家になど行ける訳もなく、まだここなら呼び出してもらうことも。
「それは……」
申し訳なさそうな彼らの様子に難しいのだと感じ取った。それはそうだ。私が第二部隊隊長のときだって騎士団総隊長となんてめったに話をしたことはない。
「アニー隊長に助けてもらった娘だと彼に伝えてください」
アニーの名を出すと会ってくれるかもしれないと一縷の望みを託した。
「彼もお忙しいので難しいでしょう。ですが、一応お伝えしますので少しお待ちください」
私は懐かしい待合室へ通された。マギーは不安そうに私を見遣って付き添っていた。
でもマギーへどう説明してよいのかまだ分からなかった。もしかしたら今も不審に思っているかもしれない。それに私がメルティアではないとうすうす気がついているのかも。
暫くして、慌ただしくドアが開かれるとエイベルが入ってきた。
酷くやつれていたが、彼に間違いはなかった。
エイベルは今まで見たことないほど冷たい表情をしてこちらを見ていた。
いつもの穏やかな笑みを向けてくれていたエイベルとは違う様子に胸がちくりとした。だが、これが本来のエイベルなのかもしれない。
「私はソードラーン男爵家の娘のメルティアと申します。以前にアニー隊長に助けていただきました」
そういえば貴族令嬢のする礼など習っていないので普通に頭を下げた。
敬礼をするわけにもいかないのだが、これでますますマギーに不審がられるかもしれないが仕方がないだろう。
「ソードラーン男爵のご令嬢ですか。それでアニー元隊長へのお礼とは……」
「以前に広場で絡まれていたのをお助けいただいたお礼に参りました。暫く臥せっておりましたのでお礼が遅れたのです」
嘘は言っていない。
「ああ、そうですか、あのときのお嬢さんですね」
エイベルは懐かしそうに表情を緩めた。その表情に私はまた酷く胸が痛んだ。
「それで、あの、アニー隊長は……」
自分で自分のことを聞くのはどうにもやりにくい。でも何も詳しいことは魔道新聞にも書かれていなかったので聞くしかない。
エイベルは口を開いたが俊舜していた。どんどん嫌な予感は膨らんでくる。
「彼女は……一月前に亡くなりました」
予期していたつもりだが、その言葉をエイベルから聞いて一瞬くらりと眩暈がした。
エイベルがさり気なく私の体を支えてくれた。私は懐かしいエイベルの温もりを感じながらなんとか姿勢を立て直した。
「そ、そうでしたか……。伏せっていましたので、詳しくは存じませんでした。アニー隊長が亡くなられたことはとても残念です」
「ええ、とても今でも信じられません」
エイベルの悲哀に満ちた声にそれが嘘ではないことが思い知らされた。
私、アニーはもう死んでいた……。
「どうして、どこで……」
無意識に出た言葉にエイベルの顔が酷く歪んだ。そのときのことを思い出しているようだった。
「それは、自宅の方で転落して、私が見つけた時にはもう……」
「ああ……!」
ふわふわとした浮遊感に今度こそ私は意識を失った。
あの日はいつになく酔って心配したエイベルが部屋の中まで送るというのを断わり、宿舎に着いた。自分の部屋の階に行く途中でどうやらふらついて足を踏み外したのだった。そのときのことがゆっくりと思い出されて私は意識を失った――。
目を覚ますとマギーが側にいた。
どうやらここはまだ騎士団の詰め所のようで医務室に私は横になっていた。もちろんここも良く知っている。何度もお世話になったところだ。
「お嬢様!」
マギーが涙目で抱きついてきた。
「だから外出はまだ駄目だと!」
「ごめんなさい。マギー」
「ソードラーン男爵令嬢、少し意識を失っていたようだが、目が覚めたようで安心した。もう少し休んでから帰るように。そでまでここで……」
エイベルも私が目覚めるまで部屋にいてくれたようだった。どうやらここまで運んで心配して付き添ってくれていたようだった。
「エイべ……、コートナー総副団長様。いろいろとありがとうございました」
「いえ、住民の安全安心のために私達は存在しているので気になさらず」
そうして家に帰る私を馬車まで見送ってくれた。
マギーと共に馬車に乗り込むため馬車の踏み台を上がったところで振り返るとエイベルの顔が間近にあった。彼は至近距離で私を見つめることになってしまい少し戸惑っていた。
「あの、総副団長様にお願いがあるのです」
「願い?」
エイベルは怪訝そうにした。
私が知っているエイベルとは違う余所余所しいものだった。
それがどうしてか息苦しく思えた。
「……アニー隊長の寝室の床板を外してください。あなたにそれをお返しします」
私はエイベルだけに聞こえるように囁いた。
それから男爵家に戻った私は疲れを理由に部屋に閉じ籠った。
実際体も酷く疲れていた。
メルティア嬢の体はアニーに比べてもかなり弱いみたいだった。
周囲の者は彼女を幼少期から病弱とも話していた。魔力もさほど多くない。寧ろ僅かで貴族でいられるギリギリらしい。日記の幼いころに書かれていた。
それでも身体強化すると平民よりかは丈夫なはずなのだがそれもできていなかった。よく分からないと悲しんで人前に出ることが怖いので引きこもっていたことが書かれていた。
だからあまり行動すると使用人達に怪しまれてしまう。
既にマギーは私に対して不信感を露わにしていた。
帰りの馬車の中では無言の状態だった。
気まずいのでマギーに用事を頼むのも気が引けてきた。そもそも着替えから誰かの手を借りないとできない貴族の生活はまだ馴染めない。
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