第10話 アニー元隊長
翌朝、自分であるはずのアニーがどうなったか確かめるべく騎士団へと行きたかった。
メルティアとして目覚めて三週間は経っていた。
アニーの方はどうなっているのだろう?
最後の記憶はいつのも懇親会の飲みの帰りだった。
それにエイベルがどうなっているのか知りたい。
だが、二週間の寝たきり、元々体が丈夫でないメルティア嬢は目覚めてから、熱が出てさらに一週間寝て過ごすことになった。メルティアとしての体になったこの状態から既に三週間が経ってしまった。
やっと外出許可が出たので、早速騎士団へ確かめに行きたかった。
幸いこのソードラーン男爵家は騎士団、それも第二騎士団の寮から近かった。
更にいつも行く馴染みの食堂や居酒屋から、そして王城からも近い。
それだけソードラーン男爵家は古くからの名門の貴族だったということだ。
「お嬢様。いくらなんでも外出許可が出て直ぐ騎士団に行きたいなど……」
マギーが心配そうに尋ねてきた。マギーはメルティアを仕えるというだけでなく妹のような感じで心配してくれている。メルティアもマギーを慕っていたと日記を読んで感じる。
「どうしても確かめたいことがあるから」
「はあ、まあ、お嬢様は確かにアニー隊長に助けられたことがありますけどね」
「?! それはいつ?」
自分の名前を意外なところで聞いて驚いた。まだ日記は最後まで読み切れていなかった。
「ええ? おかしなお嬢様ですね。そう、あれは倒れられる前くらい、あのときもあの糞スニーザが、あ、いえ子爵令息に絡まれていたところを助けられていたじゃありませんか。私が急いで駆けつける前に助け出していただきましたよ」
……そういえば、そんなことがあったな。
「じゃ、じゃあ。お礼に行きたいな」
「本当に変なお嬢様ですわね。あのときもそう言いながら、騎士団の殿方が怖いとお礼を渡せずお帰りになったのに」
そんなにメルティアはシャイなお嬢様なのか? まあ、体は弱かったようだ。風邪一つひいたことのない私には分からない。それにこの体になって分かったことがある。彼女の体調不良は……。
「ええ、でも無作法はいけないと思います。お礼の品を用意してください」
「でも、確かアニー隊長はもう亡くなられたはずです」
「は?」
マギーが思い出しながら言った言葉に私は理解できなかった。私が死んでいる?
「いや、ちょっと待って」
「そう言えば丁度お嬢様が倒れられた日と同じでしたね。後日魔道具新聞の一面トップでしたから」
魔道具新聞とは魔力で動く魔道具の一つでクリスタル状の薄い板に今日の出来事や事件などが映し出される。もちろん住民への広報媒介として使われるため、安価で提供されているので多く普及していた。
「そんな……」
「アニー隊長の葬儀は先週広場で済まされていますよ。献花台もまだあるかと」
「じゃあ、献花台にも行きたい。ああ、やっぱり騎士隊へのお礼も……、あのとき他にもいらしたから」
お願いと無理やり頼み込むとマギーは不承不承準備をしてくれた。
そうして私が不可解な状態になって一月後、やっと騎士団を訪れることができたのだった。その前に私の献花台とやらを……。
街の広場に確かに花にまみれた献花台が設置してあった……。私の大きな肖像画に周囲には花で埋もれていた。
「若いのに……」「街を守ってくれた英勇だ」と道行く人が話しているのが聞こえた。
それを見ても私は他人事のように感じていた。
ふらつくと支えてくれたマギーと護衛たちが館に帰ろうと促すのを断わり、騎士団の街の詰め所へと向かった。詰め所には懐かしい部下達がいたが、
「面会ですか? ソードラーン男爵家のご令嬢が……」
いつもは荒くれ者達だからぞんざいな言葉使いなのだか、今の私を見ると丁寧な態度と言葉遣いになっていた。私は内心彼らのギャップに吹き出しそうになっていた。
「あの、以前助けていただいた、アニー隊長にお礼を申し上げたくて……」
そうしてマギーに用意してくれたバスケットを差し出した。中身はお菓子と手巾だ。食べ物は受け付けてもらえないのは分かっていたので、常時必要なリネン類も用意してもらった。
「ああ、アニー隊長は……」
彼らは一様に口ごもり暗い表情になった。
「では隊長補佐のエイベル様、いえコートナー卿は?」
そう言うと彼らはますます困惑していた。
何があったのだ? まあ私だってこんなことになっている。
貴族令嬢の体に乗り移り、体は既に死んだことになっていたのだ。エイベルだってあれから何かあったのかもしれない。
「コートナー卿は王国騎士団の総副団長補佐になられております」
「は?」
私が驚きのあまり素が出てしまった。
「第二部隊にいたはずでは? アニー隊長の補佐で……」
「ええ、コートナー卿、彼は先週付けで異動になっています」
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